ある晴れた日に
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238部分:オレンジは花の香りその二十一
オレンジは花の香りその二十一
「そうそう何人も」
「一人かもって言いたいのか」
「おかしい人は確かにいるわ」
彼女もそれは認める。
「世の中にはね。どうしても」
「そうだな。おかしな奴は何処にもいる」
正道にしてもこの点については未晴と同じだった。
「それこそ何処にもな。何時でも何処でもおかしなのはいるんだ」
「そう。それでも」
「それでも?」
「今は安心できるわ」
こうぽつりと言葉を出した未晴だった。
「今は」
「何でだよ」
正道は今の言葉は少しわからずまた彼女に問うたのだった。
「それは」
「一人じゃないから」
未晴は彼に対して今度はこう言ってきた。
「だから」
「一人じゃないか」
「一人だと。何もできないし何かあってもそれで終わりだけれど」
話すその顔が俯き気味になっている。普段咲達と一緒にいる時には見せない顔だった。正道は今その顔を横顔であるが見ているのだった。
「それでもね。誰かがいてくれたら」
「安心できるのか」
「咲達いつも私を頼りにしてるって言うじゃない」
まずはこのことを話すのだった。
「いつもね」
「それは本当だろ?」
正道もその通りだと思った。これは彼だけの考えではない。
「あの連中本当に竹林がいないと何もできないだろ」
「それは違うの」
だが未晴はこのことを否定するのだった。首を横に振ったうえで。
「全然ね」
「違うか?」
「私なのよ」
そして未晴はこう言うのだった。
「私が頼りにしてるの。咲達のこと」
「竹林がか?」
「咲達がいつも一緒にいてくれるから」
言葉を続けてきた。
「だから頑張れるの」
「そうは見えないけれどな」
これも彼だけの意見ではなかった。
「全くな」
「そうなの」
「どう見ても連中がおたくに頼り切っている」
彼はまた言う。
「俺はそう思うけれどな」
「皆もそう見てると思うわ」
未晴もわかっているのだった。皆の目に気付かないような彼女ではなかった。
「私達のことは」
「そうだろ?あの連中甘え過ぎだよ」
言いながらいつも五人が未晴の周りに集まって彼女にべたべたしている光景を思い出す。それはクラスでいつもの光景の一つなのだ。
「おかんそのものじゃねえか」
「母親ね」
「いつも言われてるだろ?」
このことも未晴本人に話した。
「俺だけじゃないだろ」
「それも知ってるけれど」
「それで何でそう言うんだ?」
正道は今度は首を傾げさえしていた。
「何でなんだよ」
「だから。私達は友達なのよ」
「友達か」
「私も落ち込むことはあるし悲しいことはあるけれど」
「それはな」
これは正道にもわかった。誰もがそういう時がある。誰もがいつも明るいわけでも逆に暗いわけでもない。そういうことなのだ。
「あるけれどな」
「そういう時なのよ」
未晴の顔があがった。
「そういう時にね。いつも咲達が声をかけてくれるの」
「そうか」
「そうなの。それで優しくしてくれて励ましてくれて」
「あいつ等にそんなことできたんだな」
五人に対してかなり酷い言葉ではあった。だが正道はこの言葉もあの五人なら当然だとこの時は心の中で思っていた。頭の中にその五人の能天気な顔が浮かんでいたからだ。しかもその顔で五人共両手でピースサインさえしている。彼の五人に対する印象そのものの光景だった。
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