ある晴れた日に
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234部分:オレンジは花の香りその十七
オレンジは花の香りその十七
「さあ早く早く」
「オレンジ出してくれよ」
「ええ、わかったわ」
未晴はそんな彼等に対して微笑んだうえでそのオレンジを出してきたのであった。見ればまだかなりの数のオレンジがあった。それがカウンターの上に置かれている。
「はい」
「本当に多いわね」
「まだこんなにあるなんて」
カウンターの西組も東組もそのカウンターの上に転がされたオレンジ達を見て少し驚いていた。
「何処に入っていたのかはわかるけれど」
「それでもこんなにあるんだ」
「じゃあ切るわよ」
恵美だけは冷静だった。早速そのオレンジを未晴から受取り切っていく。その包丁捌きは実に見事で丁寧なものであった。
その見事な捌きで切られたオレンジが皆によって取られていく。恵美も一個分取ってからそれを食べる。皆そのオレンジを食べながらまた飲みだすのだった。
「オレンジってこういう甘い酒にも合うんだな」
「意外っていうかね」
こう言いながらまたしても酒を楽しんでいる。
「まあ飲んで食べて梅雨を忘れて」
「楽しむかな」
こんな話をしながら夜の雨の中宴を楽しむのだった。皆夜遅くになってから打ち上げとなりそれぞれ店を後にする。男組も女組も泥酔寸前の有様で夜道を歩いている。
そんな中で。野本はふと言うのだった。右肩を桐生、左肩を竹山にかつがれて今にも倒れそうになっているがそれでも口は元気だった。
「で、これからどうするんだ?」
「帰るんだよ」
竹山が彼の問いに答える。
「それだけだよ。もう」
「そうか。じゃあ帰ったら風呂入るか」
夜空を見上げている。見上げているがそこには夜空はない。彼等は今商店街のアーケードの中を歩いている。だから雨の心配は今はなかった。
「風呂にな。それで奇麗になってから寝るか」
「お酒飲んでお風呂は危ないよ」
桐生が彼に対して言う。彼の右肩をいささか苦しそうにかついでいる。
「下手したら死ぬけれど」
「死にはしねえさ。シャワーで終わらしておくからよ」
「シャワーなの」
「シャワー浴びてすっきりして寝るんだよ」
こう言うのだった。
「二日酔いにもいいしよ」
「ああ、二日酔いね」
「流石に酒残して学校に行ったらまずいだよ」
「そうそう、それそれ」
「それなのよ」
皆もこの二日酔いの話に突っ込みを入れてきた。どうやら皆このことにはかなり注意しているらしい。
「飲むのはいいけれど次の日がな」
「大変なのよね」
「とにかく二日酔いで学校に行ったら流石に先生も五月蝿いし」
これは当然のことであった。
「だからお酒抜くのが大変」
「お風呂が一番だけれどね」
「けれどあれ身体にあまりよくないんだよな」
「そうそう」
「だからあまりするわけには」
「お酒の後が問題なのよね」
皆で言い合う。とにかくそこが問題というわけだった。
「けれどまあ。二日酔いで行くわけにはいかないし」
「何処かで何とかしないとね」
「俺はあれなんだよ」
野本がまた言ってきた。
「シャワー浴びたらよ。それでもう酒がなくなるんだよ」
「便利な体質だな」
正道は彼の言葉を聞いて素直に羨ましいと思い述べた。
「正直羨ましい」
「そういう御前はあまり酔ってる感じしないぞ」
野本はその正道を見て言った。
「正直強いだろ」
「多分弱い方じゃない」
自分でも自覚はあるのだった。ある程度ではあるが。
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