ある晴れた日に
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232部分:オレンジは花の香りその十五
オレンジは花の香りその十五
「それでも。やっぱり」
「雨なのね」
「照る照る坊主でも駄目なの」
「効果なしよ。今日はずっと雨みたいだし」
言葉にはあえて表情を入れてはいない恵美だった。
「諦めるしかないわね」
「やれやれね。全く」
「雨ばっかりで」
二人はここまで話したうえで一旦窓から顔を離した。そうしてそのうえでそれぞれケーキやサンドイッチを口に運び食べていくのだった。当然酒もだ。
「おい音無」
「その仇名で呼ぶなつってんだろうが」
正道はカウンターの席でレモンチューハイを大ジョッキでかっくらっている春華に顔を向けてむっとした言葉を返した。彼は桐生や竹山と一緒に店の真ん中にある席に座っていた。当然ながらその手にはギターがある。ここでもギターは手放してはいなかった。
「その仇名はな」
「じゃあ何ならいいんだよ」
「普通の名前で呼べ」
こう春華に言葉を返した。
「俺は音無じゃない。音橋だ」
「あまり大した違いねえじゃねえかよ」
春華は平気な顔で返しながらまたチューハイを飲む。それからサンドイッチをつまむのだった。サンドイッチはカツサンドであった。
「そんなのよ」
「かなりの違いだ」
だが正道はまだ言う。
「音無っていうと俺が如何にも音痴かそんなのみたいじゃないか」
「そこまではいかねえけれどな」
「それじゃあ何で音無なんだ?」
「言葉の語呂がいいだろ」
だからだというのであった。
「そうだろ?結構いいだろ」
「それで僕はオタク大王なんだ」
「これもいい仇名だろ?」
何気に自分の考えた仇名に自信があるようである。些細な自信ではあるが。
「これもよ」
「全然そうは思えないけれど」
言われる方の竹山にしてはあまりいいものではなかった。
「オタク大王なんて」
「愛嬌ある仇名じゃねえの」
「伊藤さんがそう思ってるのならいいけれどね」
「じゃあこれでいいよな」
「あまり言われたくないね」
ぽつりとした言葉だったが確かな言葉でもあった。
「その仇名は」
「気にするなって。しかしよ」
「今度は何?」
「サンドイッチ。美味いよな」
話はそこに移るのだった。見れば春華はまたサンドイッチを食べている。
「ハムサンドもカツサンドもよ」
「ハンバーグサンドにソーセージサンドもあるぜ」
見ればその通りだった。それぞれのテーブルに各種のサンドイッチがうず高く積まれている。ケーキも同じように積まれていて皆で食べている。
「どんどん食べてくれよ」
「わかってるさ。じゃあ次の酒はよ」
ここで大ジョッキの中のレモンチューハイを全部飲み終えてしまっていた。
「ライチチューハイがいいか?少年、まだそれある?」
「はい、どうぞ」
カウンターで相変わらず凛といちゃいちゃしていた明日夢がすぐに別の大ジョッキに入ってあったその白い酒を春華に差し出した。
「今丁度入れたところよ」
「おっ、用意がいいな」
「先の先を読んで用意しておいたっていうかね。まあ誰か頼むと思ってたし」
そうしたことを考慮して入れていたのだった。
「飲んで。これね」
「サンキュな。レモンもいいけれど酸っぱいから結構一緒に食べるの選ぶんだよな」
そんなことを言いながら明日夢からそのライチチューハイを受け取りそれを飲みだす。その飲みっぷりは見事なものだった。
「その点ライチは違うよな。飲みやすいからな」
「そうでしょ。甘いものにもね」
「ああ」
明日夢に応えながら今度はケーキを食べている。林檎のケーキだ。
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