戦国異伝供書
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第三十七話 兄からの禅譲その十一
「柿崎殿はですな」
「間違いなく本庄殿よりな」
「やはりそうですな」
柿崎は激情家である、そのいざとなれば奮い立つその気質は越後でも随一とまで言われている。とかく一本気で気性の激しい男なのだ。
それを知っているからだ、本庄も言うのだ。
「柿崎殿は」
「しかしああなってはな」
「新五郎様もですね」
「完全とまではいかぬまでも」
それでもというのだ。
「これでな」
「かなり大人しくなられますな」
「ご自身は主になれぬが」
「ご子息が主となられるなら」
「それならばじゃ」
まさにというのだ。
「あの方もかなり大人しくなられる」
「左様ですな」
「しかも殿は奥方はおられぬが」
従って子も出来ないがだ。
「それでもな」
「これで、ですな」
「うむ、跡継ぎが出来た」
「そうなりましたな」
「そうじゃ、何とよいことか」
まさにと言うのだった。
「このこともまた」
「一石二鳥といいますか」
「越後、長尾家の悩みの種が一気に解決されたな」
「これで当家は安泰にかなり近付きましたな」
「よいことじゃ、それを一気にされた殿のご英断よ」
呻ってだ、柿崎はこうも言った。
「このことからもじゃ」
「柿崎殿はですか」
「殿に忠義を尽くそうと誓ったわ」
「それがしもです、信仰にお心と軍略だけでなく」
「こうした叡智も備えておられるならばな」
「我等は実に素晴らしい主を得ましたな」
「天下に轟くばかりのな」
まさにとだ、こうまで言う柿崎だった。
「そこまでの方じゃな」
「全くです」
本庄は柿崎の言葉に頷いた、このことは他の家臣達も同じで長尾家は景虎のこの英断によって大いに落ち着くことになった。
第三十七話 完
2019・2・8
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