戦国異伝供書
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第三十七話 兄からの禅譲その八
「今後な、やはりわしは身体が弱い、そしてじゃ」
「近頃の、ですか」
「家臣達の声は聞こえておる」
晴景の耳にも入っているというのだ。
「その通りじゃ」
「虎千代様が主に相応しい」
「殿もそう思われますか」
「あとどれだけ生きられるかもわからぬ」
晴景は自分のことでこうも述べた。
「それで何故じゃ」
「長尾家の主でいられるか」
「そして越後もですか」
「治められる、だからな」
「虎千代様にに譲られて」
「後を託されますか」
「虎千代なら安心じゃ」
長尾家、そして越後を託してもというのだ。
「わしもそう思う、だからな」
「それでは」
「虎千代様にも」
「うむ、わしが直接言ってな」
そうしてというのだ。
「後を託そう、その後は」
「これまで言われていた様に」
「隠棲されますか」
「そうする、では後はな」
まさにというのだ。
「お主達にも頼みがある」
「はい、長尾家と越後を」
「虎千代様をお助けしてですな」
「そうしてじゃ」
それでというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「そのこと確かに」
「他の者達にも頼む」
家臣達にもというのだ。
「そしてな」
「新五郎様ですか」
直江が彼、長尾政景の話を出した。
「あの方が」
「うむ、あの者は明らかにじゃ」
「当家の家督を狙っています」
「だからじゃ」
それでとだ、晴景は何時になく強い声で言うのだった。
「あの者には気をつけよ」
「わかり申した」
宇佐美は晴景にすぐに答えた。
「それでは」
「うむ、あの者が何かすればな」
「その時は虎千代を支えてじゃ」
「討ちまする」
「一門衆筆頭であるが」
長尾家の者であるがというのだ。
「あの者は父の代からじゃ」
「家督を狙ってです」
「常に動いていました」
「だからですね」
「この度も」
「わしもわかる、このことに不満を感じてな」
晴景が景虎に主の座を譲ることに対してというのだ。
「必ずことを起こす、その時にじゃ」
「虎千代様をお助けし」
「必ずです」
「あの者を討て、さもないとな」
「家は分かれたままで」
「難儀が続きますな」
「そうなるからじゃ」
晴景はさらに言った。
「お主達に頼む」
「では」
「その時は」
二人も答えた、そしてだった。
晴景は他ならぬ景虎も呼んでだった、二人で白の中に近頃造らせた茶室の中で景虎に茶を煎れつつ話した。
「ここに呼んだのは他でもない」
「では」
「お主に主の座を譲りたい」
こう告げた。
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