ある晴れた日に
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19部分:もう飛ぶまいこの蝶々その二
もう飛ぶまいこの蝶々その二
「ちゃんとな」
「テレビ欄とスポーツ欄だけだろ」
「そこ以外読む場所あるのかよ」
真顔での反論であった。
「ねえだろ、新聞によ」
「やっぱり代えて下さい」
「こいつには絶対に合いませんから」
「それでもやるのが人生よ」
江夏先生の言葉はかなり厳しいものになっていた。
「それがね」
「しかしですよ、こいつですよ」
「漫画しか読まないような奴を」
「それでもよ」
こう言われても江夏先生の言葉は変わらないのだった。
「やるのよ。いいわね野本君」
「まあ俺はいいですよ」
実に呆気なく自分ではいいとする野本だった。
「くじには従いますよ」
「じゃあそれでいいわね」
「ええ」
やはりこう答えるのだった。
「じゃあ早速」
「だから御前は止めておけって言ってるだろ」
「おい竹山」
彼の親戚の竹山に皆から声がかかる。
「御前は何委員だよ」
「何か当たったか?」
「僕?厚生委員だよ」
こう皆に答える。
「それがどうしたの?」
「どうしたもこうしたもじゃないよ」
「どう見たってあれじゃないか」
クラスメイト達は今度は竹山に対して次々に言うのだった。
「役目交代しろよ、あいつと」
「適材適所よ」
「確かに一理あるわ」
江夏先生は適材適所という言葉にまずは頷いた。
「それはね。確かに」
「じゃあ決まりじゃないですか」
「それで」
「ところがよ」
それでもまた言う先生だった。
「そうそう上手くはいかないの。いい?」
「いいんですか」
「本当にこいつのままで」
「大体これ位できなくてどうするのよ」
江夏先生は言葉の調子を少し変えてまた皆に言ってきた。
「学校の委員位。そうでしょ?」
「まあ言われてみれば」
「そうなんですけれど」
「わかったら図書委員は野本君」
あらためて彼を指名する。
「本人もいいって言ってるしね」
「悪夢にならなかったらいいけれどな」
「本当に」
「皆俺を何だと思ってるんだよ」
言われっぱなしの野本は随分ふてくされた感じになっていた。
「ったくよお。まあ言われた仕事はやるさ」
「受付中に寝てんなよ」
「平気な顔して特撮とかダンスの雑誌とかカウンターで読むなよ」
「特撮もダンスも文化だそ、おい」
野本以外が言えば実にその通りの言葉であった。
「そういうのもわからねえのかよ。大体あれは読書だよ」
「それはいいから授業中での文化研究は止めなさい」
またしても江夏先生の言葉だった。今度は野本だけに向けた言葉だ。
「わかったわね」
「あらっ、ばれてたんだ」
「ばれてるわよ」
ばれていても野本の態度は悪びれてはいないものだった。
「そんなのはとっくの昔にね」
「ちぇっ、何かこれからやりぬくいぜ」
「っていうか授業中に雑誌読む御前が悪いだろ」
「どう考えてもな」
「そうだけれどよ。何か今の俺ってよお」
自分にこうした方面での人望のなさがわかって甚だ不愉快なのだった。それでも悪びれた態度を崩していないのはある意味立派だった。
「まあいいさ。カウンターにはいてやるからな」
「本の名前はちゃんと漢字で書けよ」
「勝手に省略とかもなしだぞ」
「ああ、わかったわかった」
言われ過ぎていたのでいい加減うんざりしていた野本だった。
「わかったからよ。やってやるさ」
「そういうことよ。後は」
江夏先生は話が一段落したところで黒板に顔を向けた。するとまだ一つカップルで決まっていない委員があることに気付いた。
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