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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第三十七話  魂(卵)のエッグベネディクト

 
前書き
シュロー達の話の部分はカット。


魂の例え話。 

 


「…炒り卵なのか?」
 調理中、センシがふとそんなことを言った。
「前に魂を卵と喩えていたが、魂が混ざった状態というのは、卵で言うと、どういう具合なのだ?

 ハーピーの卵を、鍋で沸騰させた湯の中に入れる。

 そして、グルグルとおたまで鍋の縁からお湯をかき回す。卵は中心だ。

 白身が固まったら取り出す。

「例えば炒り卵と、目玉焼きではまったく話が違ってくるだろう。」
「あのね……。魂を卵に喩えるのは、言葉尻を捉えて遊ぶためじゃないの。」
「そうなのか?」
「言われてみれば…。」
「ファリン。」
「うまいこと喩えたものだと感心していたのだが…。卵ほど様々な性質を持つ物はないぞ!」

 白身が固まった卵を器に移す。

「例えば、この加熱凝固性は、白身と黄身で温度も違う。泡立ち性に、保湿性、粘着性……、面白いが、乳化だ。」

 湯煎で溶かしたバターを、コカトリスの卵の黄身にゆっくりと加えていく。

「水と油のような、本来混ざらない物とも条件を整えてやることで綺麗に混ざる。…こんな風に。」
「そりゃあ…………………。た、確かに! なんで卵なんだろう!? 液体じゃなく!?」
「そうだよね。卵って調理次第じゃ、色んな料理になるのに。メインにも、サブ食材にもなる。」
「ファリン。そこのパンを取ってくれ。」
「はーい。……ん?」
「どうした?」
「ううん…。なんでもない。」
 そう言ってファリンは、パンをセンシに渡した。

 パンを割り、ハーピーの卵のポーチドエッグと具材を乗せる。

 先ほど作ったソースをかけ、包丁で切り分けたら……。


「完成じゃ!」

 魂のエッグベネディクトの完成。

 トロリととろけるハーピーの卵のポーチドエッグの黄身と、コカトリスの卵の黄身で作ったソースが溶け合う。味は当然のように美味しかった。
 イヅツミが、耳をピンッと立てたり、周りをゆっくりと見回していた。
「イヅツミ? お前…そのちょくちょく何もないところを目で追うのやめろよ。何か見えてんのか?」
「いや、別に…。」
「……分かるの?」
 するとファリンが言った。
「ファリン?」
「……あの、食事中なので、食事が終わってからで、いいですか? ……いいって。」
 ファリンが宙を見上げて、そう誰かに向かって言った。
 それを見てマルシルとチルチャックがギョッとした。
「えっ!? ファリン!? 何かいる? 幽霊!?」
「早く食事を済ませよう。」
「不安にだろうだろうが! いるのか、いないのか!?」
「………………いる。」
「なんだ? お前、霊媒師か?」
「生まれた時から幽霊が見えるだけだよ。」
「払うのも得意だろ?」
「そんなすごいことじゃないよ。」
「それで? この辺りも三階のように幽霊が蔓延っているのか?」
「ううん。違う。五階の階層からずっとついていきてる幽霊がいるだけ。あ…、ごめんなさい。無視していたわけじゃなくって…。タイミングが…。」
「五階から!?」
「みんなを怖がらせたくなくって言えなかったの。害もなさそうだったし。ねえ、マルシル。この人に魔術師から助けられたんじゃないの?」
「助けられたって…、あっ。」
 マルシルは、言われて思い当たった。
 壁が迫ってきて潰されそうになった時、何かに掴まれて壁に引っ張り込まれたときのことだ。
 食事を素早く終えたファリンが、振り向き、その幽霊と会話をする。マルシル達は緊張した面持ちでその様子を見ていた。
「あのね…。紹介したい人がいるって。どうする?」
「んー…。」
「まあ…。他にアテもないし…。」
「分かった。じゃあ、お願いします。あっ。」
 すると、周囲から幽霊の手がたくさん現れた。
 悲鳴を上げる暇もなく、ファリン達は幽霊の手によってどこかへ引っ張り込まれた。

 
 

 
後書き
次回は、黄金郷編。 
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