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戦国異伝供書

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第三十六話 越後の次男その十四

「その様に」
「そこまで思われていますか」
「そうです、わたくしが越後を兄上の剣として正し」 
 ここでも兄を立てるのだった。
「そしてです」
「お二人方がですね」
「それぞれの国を治められ」
「そこからですか」
「わたくしに力を貸して頂ければ」
 そうなればというのだ。
「これ程素晴らしきことはありません」
「必ずや天下を」
「定めてくれるお力になってくれます」
「左様ですか」
「そうか、お主はそこかで考えておるか」
 これまで黙っていた晴景も言ってきた。
「天下を見ておるか」
「はい、天下の戦乱をです」
「収めたいとじゃな」
「思っていまして」
「その二人の御仁もか」
「是非にとです」
 まさにというのだ。
「思っております」
「そうであるか」
「必ずです」
 まさにというのだ。
「あの方々のお力が必要です」
「天下を定める為にはか」
「まさに」
「成程な」
「そしてです」
 景虎はさらに話した。
「やがて我等は上洛し」
「都でか」
「公方様をお助し」
 そうしていうのだ。
「天下の秩序を取り戻すべきと考えております」
「幕府をか」
「是非盛り立て」
 今はもう力がない幕府をというのだ。
「そのうえで」
「では当家は」
「いえ、当家は格が低いです」
 それでと言うのだった。
「とてもです」
「幕府の政治はか」
「出来ぬので」
 だからだというのだ。
「幕府の要職となりますと」
「務まらぬか」
「そう思っています」
 こうも言うのだった。
「そこは遠慮すべきかと」
「そうであるか」
「わたくしとしては」
「成程のう」
「どうしてもです」
 そこはというのだ。
「無理があるかと」
「わかった、格はな」
「そこは弁えるべきです」
 こう考えるのが景虎だったし実際に言うのだった。
「わたくしとしては甲斐の守護であられる武田殿がです」
「第一であられるべきか」
「当家も織田家も守護代の家ですから」
「武田殿を立てるのじゃな」
「それが筋と存じます」
「そうか、お主がそう考えるのならな」
 晴景は弟に静かに答えた。
「その様にな」
「それでは」
「天下のことも考えていくのだ」
 弟にこうも述べた。
「よいな」
「それでは」
 景虎は兄に確かな声で応えた、その声は兄とは正反対に強いものだった。そこにもう何もかもが出ていたが今の景虎は知る由もなかった。


第三十六話   完


                2019・2・2 
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