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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第三十五話  アイスゴーレムの茶碗蒸し

 
前書き
アイスゴーレム編。


ファリンの性格とか行動原理は、ライオスとどっこいどっこいということにしています。 

 
 狭い道を、ファリン達は進んでいた。
 先頭はチルチャック。
 なにせ狭い。ハーフフットで身長が低いチルチャックはともかく、他のメンツは大人だ。中々進めないことに苛立ったイヅツミが押したことで、広いドーム状の広場にファリン達が押し出された。
「ここは…、炎竜と戦ったところだわ。」
「ほう。こんな深部まで来ていたのか。」
 階層の温度が低くなっており、雪と氷によって景色は変わってしまっているが、地面に空いた割れ目やあちこちに空いた通路の出入り口や、水が流れていたことをうかがわせる凍った小さな滝などがあり、ファリンは、ここが炎竜と戦ったところだと確信した。
「長らく、ここが迷宮の最深部って言われてたの。」
「そう。最近になって魔術で動くと思われる扉が見つかったの。それで島主の依頼で、その扉の文様を記しに来たんだけど…。」
「そこで、炎竜と遭遇した?」
「うん…。」
「さて、運試しだ。」
 チルチャックが言った。
「あん時落とした荷物を確認しようぜ。」
 そう、ここでほとんどの荷物を置いて撤退したのだ。炎竜に喰われたライオス自身と、食料以外の装備品や生活用品など。冒険に必要なモノをここに置いてきてしまったのだ。
 積もった雪をかき分け、探っていくと…。
「あった!」
「あー…、食料品はあらかたかっ攫われてるな。」
「やったー、寝袋!」
「喜ぶとこそこかよ。」
「……兄さん。」
 寝袋を見つけて喜ぶマルシルとは反対に、ファリンは、ライオスの荷物を見つけて暗くなった。
「ま…まあいいじゃない! 元に戻しても服がないと困るでしょ?」
「…うん。」
 マルシルが慌ててファリンを励ました。
 すると、マルシルは、何度もくしゃみをした。寒さのせいだ。
「いかんな。ひとまず休もう。このままでは、風邪を引く。」
「荷物も整理しないとね。」
「…おい。」
 チルチャックがイツヅミが懐に入れたモノを出せと言った。
 イツヅミは、悪戯っぽく笑い、金貨を取り出した。
「迷宮に金貨なんか持ってくんじゃねぇよ。」
 っと、チルチャックは、取り返した金貨をマルシルに放り投げた。
「しつけの鳴ってない獣人だ。あんな首輪を付けられるのもむべなるかな。」
「……ハーフフットって言うんだろ?」
「なんだよ?」
「東方には、お前みたいなのはいなかったから。こっちきて初めて知った。その変な種族名…、窃盗罪で片足落とされることが多かったのが由来なんだってな。」
「あぁ?」
「ちょ、ちょっとぉ、二人ともやめてよ。」
 険悪なムードになる二人に、マルシルが慌てた。
「マルシル。来てくれ。」
 するとセンシがマルシルを呼んだ。
 雪と氷の小山のような場所に誘い、そこを指さす。
「魚だ!」
 一緒に行ったファリンが、氷の中にある魚を見つけた。
「急激な温度変化で氷漬けになったようだな。この部分だけ切り取れないだろうか?」
「うーん。魔方陣を使ってなんとか…。」
「私が切り取ろうか?」
「ダメよ。あなたの切り裂く魔法じゃ凍った魚ごと粉砕しちゃうわ。」
「えー。」
 マルシルのダメ出しに、ファリンは残念そうに声を漏らした。
 結局、マルシルが魔方陣を描き、起動させることになった。
 センシは、氷の小山のような場所で魚を捕るために待ちつつ、周りを見回していると、魔方陣を書き終えたマルシルが、魔方陣を起動させた。
 バチンッと大きな放電のような光が氷の山に走る。
 その直後。
「えっ?」
 小山が起き上がった。
 乗っていたセンシは、忽ち転げ落ち雪に埋まった。
「アイスゴーレム!?」
「嘘でしょ!?」

 なお、雪の中で身動き取れないセンシは、それを聞いて思い出していた。
 過去、自分が畑代わりにしていたゴーレムの核のひとつを、水路に落とした記憶を……。

 アイスゴーレムが、大きな咆吼をあげた。
 ドーム状の広場に、ビリビリと響き渡る。
「ん!? おい、やばいぞ!」
 耳を塞いでいたチルチャックが天井の変化に気づいた。
 天井にぶらさがっていた大きなつららが咆吼の響きで割れ、落ちてきた。
 ファリンは、慌ててマルシルを突き飛ばし、切り裂く魔法を放って防ぐも、一本が腕に刺さった。
「ファリン!」
「っ…、だ、だいじょうぶ…。」

 その時、黒い影が飛んだ。

 イヅツミだった。

 イヅツミは、アイスゴーレムの顔に飛びかかると、短刀を額に刺した。
 しかし、アイスゴーレムは、倒れず、イヅツミをなぎ払おうと手を振るった。
「? おい、コイツ死なないぞ?」
「ゴーレムは、核を破壊しなきゃ死なないんだよ!」
 チルチャックは、そう叫びつつ、ハーフフット特有の優れた五感で核を探そうとする。
 だがアイスゴレームの体内は、魚などの不純物が多く、目視ではどれが核なのか分からない。
「おい! なるべく、時間稼げ! 核の位置を割り出す!」
「はあ?」
 イヅツミが眉間にしわを寄せた。
 チルチャックのことが気にくわないイヅツミは、足を引っ張る気じゃないだろうなっと不信感を募らせる。
 その間にもアイスゴーレムの攻撃が来るので、まるで猫のごとく、避けていく。
 だがやがて、雪に足を取られ、その隙を突かれて攻撃されそうになった時……。
 弓矢を構えたチルチャックが、矢を放った。
 矢は、アイスゴーレムの右肩付近に当たった。
「てめぇ、ふざけてんのか!」
「よく見ろ! さっき矢を当てたところを!」
 言われてイヅツミが、アイスゴーレムの頭に乗って、矢が当たり、僅かにヒビが入った箇所を見ると、そこにはゴーレムの核があった。
「俺は飛び道具は使えるけども、たいした傷を与えられるほどじゃないから、俺を戦力として数えるなよ! 後は任せた!」
「おい!」
 サッと身を隠したチルチャックに文句を言おうとしたが、アイスゴーレムの手が伸びてきたので、それを避け、イヅツミは、一旦地上に降り、先ほどチルチャックが放った矢を拾い上げ、再びアイスゴーレムの上へと登り、矢の先をゴーレムの核がある右肩付近に突き刺して核を破壊した。
 途端、アイスゴーレムは、バラバラにひび割れ、砕けて崩れた。
「ふんっ。どうやら、この中でまともに動けるのは私だけのようだな。どいつもこいつも揃って……。はっ…、はっ、はくっしょん!」
 イヅツミは、くしゃみをした。





***





 アイスゴーレムとの戦闘で、全員が派手に雪を被ったため、ガチガチ、ガタガタと震えていた。
 マルシルが震えながらも火の魔方陣を描き、一旦それで暖を取る。
「みんな、濡れた服を脱いで乾かして。ほら、あなたも隠してあげるから。」
「…必要ない。」
 イヅツミは、そう言って忍者のような服を脱ぎ捨てた。
 イヅツミの体は、顔以外はほぼ毛むくじゃらであった。
「獣が裸になって喜ぶ奴がどこにいる?」

 すると、めっちゃファリンが近距離でイヅツミの体をジーッと見始めた。

「あ? なんだよ?」
「あ、ほらほら! このままじゃ風邪引いちゃうから!」
「あぁ! せめて乳首の数…、あと尻尾の付け根…。」
 マルシルが慌ててイヅツミの体を毛布でくるみ、チルチャックとセンシがファリンを引き離した。
 やがて、暖を取るために選んだ空間が少し暖まってきた。
 センシは、温かいもを作ると言って調理を始めた。
「解凍する必要があるな。」
 そう言ってセンシは、氷の包まれた魚を炎の魔方陣に置いて見た。途端、凄まじ勢いで氷が蒸発し、熱い水蒸気が空間に広がった。
「あ、サウナみないになった。」
「いいわね。しばらくお風呂にも入ってないし、一汗流そうよ。」
 っというわけで、サウナタイム(混浴)。
 サウナを楽しみながら、調理開始。

 まず、解凍した魚を捌く。(外で)

 頭と骨を煮て、出汁を取る。

 続いてキノコと、夢魔を細かく切り、シェイプシフターの肉を軽く茹でて灰汁を取る。

 ハーピーの卵を溶き、先ほど取った出汁と具材を合せる。

 それをコップに注ぎ、アイスゴーレムの破片(氷)と一緒に鍋に並べて火にかける。


 そうしてできあがったのは、アイスゴーレム茶碗蒸しと、アイスゴーレムに入ってた魚に熱を通したやつ。
「完…。」
 完成と言いかけたその時。イヅツミが、抜け駆けして魚を食べようとした。
「これっ。勝手に食べ始めてはいかん。みんなが食卓につくのを待ちなさい。」
「なんでだよ。私が一人で敵を仕留めたんだ! 私が一番に食べる権利がある!」
「食事は全員が揃って始めるもの。」
 ギャアギャアと騒ぐイヅツミに、センシは、しっかりと言い聞かせる。
 そして、やや置いて、全員が揃った。
「それではみなさん揃ったところで…。」
「いただきます!」
 そうして食事が始まったが、イヅツミは、イライラしていた。
「おい、イヅツミ。」
「なんだよ?」
「これやるよ。」
「あ?」
 それは、荷物を入れて担ぐためのカバンだった。
「破れたカバンを縫い合わせたんだ。お前が使え。」
「その…獣なんて言って悪かったよ。俺は口が悪くてね。知らない人間との団体行動なんて、しばらくは窮屈でイラつくと思うけど、慣れればいい面もあると思うぜ。自分じゃできないことを任せられる。」
 チルチャックは、そう語った。
 イヅツミは、渡されたを見つめ、そして何か考えるように難しそうに顔を歪めた。

「ごちそうさまでした!」

 やがて食事は終わった。



 
 

 
後書き
次回は、バロメッツ。 
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