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戦国異伝供書

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第三十六話 越後の次男その五

「戦についてな」
「では」
「しかしじゃ」
「しかしとは」
「あ奴は人として正しい」
「では」
「いや、正し過ぎるのだ」
 虎千代のその気質も見て言うのだった。
「人として間違ったこと、卑怯未練はじゃ」
「決してですね」
「せぬ、何があろうともな」
「では」
「しかし今は戦国の世じゃ」
 このことをだ、為景は言うのだった。
「ではじゃ」
「正し過ぎるとですか」
「生きられぬ。わしもこれまでじゃ」 
 戦国大名としてというのだ。
「守護、主を滅ぼし多くの者を騙して戦で殺めてきた」
「だからですか」
「その戦国の世でじゃ」
 まさにというのだ。
「正し過ぎるとじゃ」
「生きられぬ」
「だからじゃ」
「虎千代を出家させたのですか」
「そうしたのじゃ」
 今このことを話すのだった。
「その様にな、それでじゃ」
「今もですか」
「わしはよくないと思う」
「左様ですか」
「しかしじゃ」
 それでもとだ、為景はさらに言った。
「お主達が思うならな」
「ならば、ですか」
「それならばですか」
「虎千代様を還俗して頂きますか」
「そのことを許されますか」
「確かに弥六郎だけでは心許ない」
 為景は晴景を見て述べた。
「どうもな」
「申し訳ありませぬ」
「謝ることはない、身体のことは仕方ない」
 為景は申し訳ない顔を見せる晴景にこう返した。
「それはな」
「左様ですか」
「そしてじゃ」 
 晴景はさらに言った。
「お主の足りぬところはな」
「虎千代が、ですか」
「補ってくれよう、そして」
「そしてとは」
「お主が思う様にせよ」
 晴景にこうも言うのだった。
「いざという時はな」
「といいますと」
「わかる時が来るやも知れぬ」
 今自分が言った言葉がというのだ。
「その時になればな」
「そうなのですか」
「とにかくじゃ、虎千代のことは許す」
 その還俗をというのだ。
「これからはな」
「はい、虎千代の武の才も使い」
「長尾家を支えよ」
「そして越後も」
「一つにしていくのじゃ」
 為景はこう言って虎千代の還俗を認めた、この話はすぐに虎千代にも届いた。だが彼はその話を聞いてだった。
 静かに瞑目してからだ、こう言ったのだった。
「わたくしが還俗ですか」
「はい、殿もお許しになってくれました」
「このことを」
「これからは長尾家の方としてです」
「どうか弥六郎様を盛り立て下さい」
「その武の才覚で」
 長尾家の家臣達は虎千代自身に口々に話す。 
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