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戦国異伝供書

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第三十六話 越後の次男その四

「ここはな」
「長尾家の為じゃ」
「そして越後の為じゃ」
「折角ここまできたのじゃ」
「一応のまとまりを見せておる」
「ならばな」
「ここは固めるべきじゃ」 
 そのまとまりをというのだ。
「だからじゃ」
「ここは弥六郎様にお話をしよう」
 跡を継ぐ彼にというのだ。
「そして殿も説得しよう」
「何とか認めて頂こう」
「虎千代様に還俗してもらってじゃ」
「長尾家の為に戦って頂こう」
「確かにあの方は仏門を深く信じておられる」
「仏門が会っておられるやも知れぬ」
 このことは彼等もわかっていたがだ。
「だがそれでもじゃ」
「ここはじゃ」
「長尾家の為じゃ」
「ここは是非にじゃ」
「あの方に還俗してもらおう」
「何としてもな」
 こう話してだ、そしてだった。
 彼等は動いた、それでまずは晴景に話した。見れば青白い顔をしていて実に線の細い弱々しい顔をしている。
 その彼にだ、彼等は言うのだ。
「どうかです」
「虎千代様を迎え入れて下さい」
「そしてです」
「あの方をです」
「長尾家の為にです」
「用いて下さい」
「うむ、わしもじゃ」
 晴景も弱い顔で言うのだった。
「この身体じゃ」
「はい、お言葉ですが」
「弥六郎様はそのお身体です」
「どうしてもです」
「戦は無理があるかと」
「左様ですな」
「そうじゃ」
 その通りだとだ、晴景も述べた。
「だからじゃ」
「それで、です」
「どうかです」
「戦は虎千代様に任せて下さい」
「その様にして下さい」
「そうじゃな」
 それでとだ、また言った晴景だった。
「わしからもじゃ」
「殿にですな」
「そう話されますな」
「そしてですな」
「そのうえで、ですな」
「虎千代に還俗してもらおう」
 こう言ってだ、そしてだった。
 晴景からも為景に行った、為景はこの時病床にいたが晴景と家臣達の熱心な言葉を受けてであった。
 そうしてだ、こう言ったのだった。
「そこまで言うか」
「はい」 
 晴景が答えた。
「それがしはこの身体です」
「病弱であるな」
「子ももうけられません」
 それも無理だというのだ。
「そして戦の場に立つことも」
「無理だな」
「ですから」
 それでというのだ。
「是非です」
「虎千代にか」
「戻ってもらい」
 還俗してもらってというのだ。
「家の為に戦ってもらおうと」
「そう思っておるのか」
「それで今お話します」
「虎千代は天分のものがある」
 為景はこの時もこう言った。 
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