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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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黒星団-ブラックスターズ-part1/シエスタのアイデア

 
前書き
追記:後の展開の障害となったため、以前書いてた本エピソードの序盤パートを削除しました。 

 
期日である虚無の曜日。それまでに生徒たちへの説得がなされなければ、平民に向けた舞踏会は開催できない。
サイトたちは、その日までにできる限り説得と作業に取り掛かっていた。
そんなサイトたちに、立場上表立っての支援こそできないが可能な限り力を貸そうと、コルベールが舞踏会を行うための会場へ案内してくれた。実際に会場を見たほうが、準備に必要な残りの資材の特定など、やるべきことが見えてくるだろう、とのことだ。
「着きましたよ。ここです」
扉を開くと、屋内というには広大な空間がサイトたちを出迎えた。
「ここって、フリッグの舞踏会で使われるホールじゃない!本当なんですか、ミスタ・コルベール!?」
ルイズは驚きを露にして、ここまで案内したコルベールに言った。
「生徒全員の収容と、平民の招待を考えると、この広さは必要になるでしょう。他にも机やテーブルクロスなど、必要なものも十分に用意されている。学院勤務の召使の方々にも、この場所の維持は常に念入りに行うように言いつけられているから、少し手入れをすればすぐに使えるはずですよ」
コルベールの言う通り、さすがは貴族の通う学院というべきか、つい最近建てられたばかりなのではと思えるくらいに、全く埃被ることなくホールは綺麗に清掃されていた。
「まぁ、最も今は、まだ開催が決定されたというわけではない。最終的な許可はオールド・オスマンが下ろすのだからね」

しかし、これは決して悪い傾向ではない。貴族にしか縁のない場所を、平民のために開放できるかもしれないということは、まだオスマンたちには自分たちを支援したいという強い気持ちの表れだ。
「ここかぁ!懐かしいな。来たのがもうずいぶん前のことみたいだよ」
サイトはここに以前来たことがある。なぜなら、ここは土くれのフーケことマチルダの破壊の杖盗難事件の後で行われた舞踏会の会場だ。
「ここが、舞踏会の会場…平賀君、前にもここに来てたの?」
ハルナは、舞踏会を開催しようとする仲間たちと共に訪れたそのフロアを一望する。煌びやかで綺麗だ。まるで、西洋時代や異世界を舞台とした映画で見かける王宮の内部景色のように思えた。そんな場所に立場上は平民のサイトも招かれていたことは意外であった。
「ルイズに召喚されて間のないころにな。ここで俺たち、一度踊ったんだよな」
「そ、そうね……ちゃんと覚えてくれてたみたいね」
話を振られてルイズが頬を赤く染める。ルイズにとって、サイトの距離が縮まった大切な思い出、それをサイトがしっかり忘れずにいてくれていたので機嫌がよくなっている。
「…ふーん、そう。ルイズと…ね。へぇ~…?」
「え?えっと…ハルナ、いや…アキナさん?」
しかし一方でハルナの口調が、妙に重くなった。見ると、いつの間にか髪型が下ろされたものではなく、ポニーテールに結われ、その微笑みから凄まじいプレッシャーがほとばしる。サイトの頭から冷や汗が滝のように流れ落ちた。
アキナという第二の人格を持つようになって以来、ハルナは不機嫌になると闇の人格であるアキナが表に出るようになっている。つまり…今のハルナは機嫌を損ねていた。
サイトたち三人の間に不穏な空気が流れている一方、キュルケはホールの景色を見渡してうっとりしていた。
「ここで舞踏会なんて素敵だわ。このことを話したらみんなの考えも変わるかしら」
「それは難しい」
タバサがそう言うと、クリスもそれに同意する。
「うむ…このような場所に平民を入れるのか、と反対するだろう」
「貴族って見栄っ張りだもんな…」
「な、何よその目は?ご主人様に何か言いたいことでもあるわけ?」
サイトは不意にルイズに視線を寄せる。ルイズに限らず、トリステイン貴族のプライドの高さは厄介なものだ。でなければギーシュたちも今頃自分達の活動から外れたりはしないはずだ。
「ところでクロサキ君は、まだ来ないのかね」
ふと、いつもならいるはずのシュウがまだ来ないことをコルベールが気にし始めた。サイトも、彼の部屋を一度訪れたものの、珍しく彼が深く寝入っていたのを見てこれまでの戦いの疲れが抜け出ていないからだろうかと思い、起こすのを思い止まった。
その時ホールの扉が開き、シュウがようやく皆の前にやって来た。彼だけではなく、このときはシエスタもいた。
「みなさん、やっと見つけました。こちらにいらしてたんですね」
「遅くなってすまない。ここまで彼女に案内してもらっていた」
シュウは寝坊したことを皆に詫びた。
「シュウが寝坊だなんて、珍しいよな」
いつもしっかりしてそうな割に、珍しく抜けた一面を見せただけに、サイトも意外に思った。
時間はすでに昼休み。寝坊というにしてもかなりひどい起床の遅れだ。
「だらしないわね、うちのバカ使い魔でも今日は早起きよ」
(誰かさんが目覚まし時計代わりに起こせってうるさいからな…)
きつめの注意を口にするルイズだが、サイトは訝しむような視線を送る。
「ヴァリエールの怒りももっともだ。変な夢ばかり見るようになって気が緩んでいたかもしてない」
(夢…?)
変な夢、と聞いたとき、なぜかクリスの目付きが鋭くなった。
「夢ですって?言い訳にしたってもっと言うべきことが…」
いつも偉そうにしている、と自分が思ってる男が遅刻したと聞いて、咎めるように言うルイズに、ハルナとサイトがそれぞれ口を挟んだ。
「ルイズさん、そんな風に言ったらだめですよ」
「まぁ、一回くらいの寝坊くらい気にすんなって。あいつは今まで頑張りすぎてたんだしさ」
「あんたは暢気すぎるのよ!わかってるの?もうすぐ期限の虚無の曜日が迫っているのよ?もしその日までみんなの説得ができなかったら…」
「ミス・ヴァリエール、焦ってはいけない。気が逸りす
ぎるとかえって失敗しやすくなってしまいますよ。クロサキ君だって寝坊したくてしたわけではないのですから」
「は、はい…申し訳ありません…」
コルベールの指摘で、またいつものごとく大声を出してしまったことに気がついたルイズは大人しくなる。
しかし一方で、ルイズとは逆にシエスタはサイトに対して感情を爆発させていた。
「ひどいですよサイトさん!私に会いに来てくれる頻度が少なくなっているばかりか、黙ってこんな大がかりな出し物の準備をしていたなんて!私にも言ってくださればお手伝いを引き受けていましたのに!」
「ご、ごめん…」
大人しめな性格に反して珍しく怒っているシエスタに、サイトは気まずそうになる。思えば確かに、最近シエスタとはほとんど会う機会が少なくなっていた。アンリエッタからの任務、それに伴う怪獣や星人との戦いが立て続けだったこともあり、この世界に来たばかりのころと比べると、シエスタと接触する機会がめっきり減っていた。そしてようやく学院に戻ってきたのに、今度は舞踏会を生徒たちと共に開くために準備活動。お互いに会話する時間が戻るかと思いきや、ほんの少し程度しか戻らなかった。
「私たち平民の方でも、皆さんが行おうとしていることの噂は耳に入っているんですよ。だから私にも何かサイトさんから申し出があるのではと、一日千秋の思いで待ってたのに、それなのに私を放って、ミス・ヴァリエールやハルナさんといちゃこらしながら………」
「い、いいいちゃこらなんてしてないわよ!」
「そ、そうですよ!!」
二人を妬ましそうに睨むシエスタに対し、ルイズとハルナはそれぞれ反論する。結局のところ意中の相手であるサイトが自分を頼ってくる気配さえなく、同時に…というか何より接触してくる機会がなかったことが不満だった。
「本当に悪いと思ってるんですか、サイトさん?」
ズイッと、シエスタはサイトに顔を近づける。いつもならキスでもできそうな至近距離に下心を擽られるはずのサイトだが、シエスタが放つプレッシャーに喜びが沸かず、寧ろ恐ろしさを覚える。
「なら、私のお願い、一つ聞いてもらえますよね?」
「お願い?ああ、わかった。俺にできることならなんでもやるよ」
シエスタと会って話す機会が減り、機嫌を損ねてばかりになりつつある。そう思ったサイトは自分にはシエスタの我儘を聞かなければならないと思っていた。
「言いましたねサイトさん!日本人に二言はないですよ?」
「あぁ、わかってる。それで、俺は何をすればいい?」
できればあまり舞踏会開催までのスケジュール等に響かなければいいのだが、とサイトは懸念しつつも、シエスタからのお願いに耳を傾ける。
が、一方でルイズとハルナも食い入るように二人の会話を凝視していた。意中の男が、ずっと放り出されてしまったために強引に動き出しつつあるライバルのお願いを聞こうとしている。二人の乙女心は、危機感であふれつつあった。
それを見たシュウは、深いため行きを漏らした。またサイトの回りで女絡みの厄介事が起こるという確信故に、無駄な疲労感を覚えるだろうと思うと、余計に気が重くなった。


シエスタの提案とは…


今回行う舞踏会では、もてなす側の貴族がもてなされる側である平民たちに向けて給仕を行うことになる。しかし貴族としてふるまってきた彼らにいきなりそれをさせてもできないので、シエスタの叔父で魅惑の妖精亭の店長でもあるスカロンに給仕の指導を願うことになった。
そしてもう一つ…
「トリスタニアで最近評判のカフェ?」
話によると、怪獣災害が頻繁になっているここしばらくの間に、新たに開かれたカフェがあるという。その味は巷で評判となり、その店を訪れようとトリスタニアに来る人が増え、結果として復興作業の人材も徐々に増えているとか。それだけの美味な飲み物なら、遠い国からきたクリスとの思い出作りにも、少なくなりつつある学院の生徒や勤務の平民たちを学院に呼び戻すための力となり得るかもしれない。
そのカフェのマスターだが、以前はスカロンの下…つまり魅惑の妖精亭で三人の同業者と共に一時期働いており、その際も彼女たちの淹れるコーヒーは評判だったそうだ。現在はある理由で独立し、カフェを開いたのだという。
そんなスカロンやカフェのマスターからの協力を得ることについて、シエスタは条件を付けてきた。当然、サイトと二人で出掛けさせろ、他の者は同行してはならないと言うものだ。これに当然、ルイズとハルナがもう反対する。
「あんたとサイトを二人きりになんて、できるわけないじゃない!」
「そうですよ!万が一、その…ま、間違いがあったらどうするつりなんですか!」
「あ、いいんですかそんなこと言って。せっかく良いお話を持ちかけたのに。
私の持ち掛けた提案、おじさんのご指導を承った方が、舞踏会本番でおもてなしを行う際に大いに役に立てると思いますよ。それに例のカフェのコーヒー、先ほど申し上げた通りの味なら、舞踏会の客寄せに大きな力となると思うんですけど?」
サイトという一人の男をめぐって争う気持ちに渦を巻かせていくルイズたち、サイトと接触する機会が減っている不満がよほど溜まっていたのか、シエスタは二人に対して全くたじろぐことなく喧嘩腰だ。
「もしや、自分達の目が届かなくなった途端、サイトさんが自分達以外の女性になびくのがそれほど不安で、ご自分に自信がないのでしょうか?」
この挑発に、ルイズとハルナ…否、アキナは頭にプッツンと来た。
「い、いい度胸じゃないのシエスタぁ…。そういうあんたこそ、プライベート以外じゃサイトの役に立ってる姿なんて見えないのにぃ…」
「あーら、戦いだけが殿方のお役に立てるとは限らないじゃないですかミス・ヴァリエール。寧ろ女は殿方を立たせ、心身を支える方が殿方から靡かれやすいんですよ?誰かさんたちのように子供みたいな怒りを爆発させては殴って蹴ってばかりで、家庭的なスキルも気遣いも皆無な誰かさんたちと違って」
「女は家を守るのが役目と言いたいのかい?そんな古い認識をやってるようじゃ、サイトから置いてかれていくだけじゃないのかな?」
バチバチバチ、とルイズ、アキナ、そしてシエスタは視線上に火花と散らす。修羅場展開が始まろうとしている状態に、サイトが見かねて三人の喧嘩ムードを差し止めようとする。
「だあぁぁ!もう喧嘩はよせって!今は言い争ってる場合じゃ…」
「あんたは黙ってて!」「サイトは黙ってな!」「サイトさんは黙っててください!」
その三人から逆にどつかれてしまい、あまりの気迫に結局彼は「はい…」と尻すぼみして引き下がった。あれ?女の子三人にどつかれて終わるパターン…前にもあったような。これが異世界を守る光の戦士の姿かと思うと、少々情けない光景である。
シュウが深くため息を漏らし、シエスタに向けて話を切り出した。
「とにかく、平賀が着いて行けば、君の叔父の協力を得て、その例のカフェとやらを案内してくれるんだな?」
「ええ。ですが、条件が飲めないならご案内はしてあげられませんよ。なんたって、そのカフェ…幻の店とも称されてますから」
「幻の店?」
「先ほどの申し上げたようにそのカフェは、一度味わったら忘れられないほどの絶品なもので再び来店しようと考える方もいるんですが、なぜかカフェの場所がわからなくなってしまうそうなんです。これまでカフェを来訪した方で二度以上そのカフェを来店した方はいないという噂なんです。
ただでさえ、そのお店のメニューの一つである『コーヒー』という飲み物がありまして、これまでハルケギニアのどこにも売られていなかった、完全新作の飲み物にして最高のお味だと…」
(コーヒーが、新作の飲み物?)
(ハルケギニアにはごく最近まで、存在していなかった…?)
地球では、コーヒーはごく一般の飲み物だ。だが、ハルケギニアではあまり浸透していないようだ。なのに、巷でようやく噂になった、カフェに二度以上訪れることができない、というシエスタの言い回しが、サイトとシュウの頭に引っかかった。
シエスタから話を聞いて、ルイズは顔をしかめた。
「そのカフェがとても評判なのは理解したわ。でもそんなお店、どうやって来店するのよ」
「そこはご安心ください。実はスカロンおじさんがその店のマスターと顔なじみでして、現在のカフェの場所を知るおじさんに頼めば案内してくれると思います。さあ、どうします?」
一体どうやってスカロンはそのカフェのマスターと知り合ったのか気になるが、悪い話ではなさそうだ。
「…平賀、着いて行ったらどうだ。悪い話じゃないと思う」
シエスタが勝ち誇った笑みをルイズとハルナに見せつけていたのが目に入ったが、あまり気に留めずシュウがシエスタの要求を呑むことを促してきた。サイトも、この条件自体は特に何かしらのリスクはないので、乗っても良いかもしれないと思い始める。
「そうだな。じゃあ…」
「勝手に決めないで頂戴!サイトは私の使い魔なんだから!」
「そ、そうだよ!」
ルイズとハルナは、正直断りたかった。この女は間違いなくサイトに急接近するためにこの取引を持ち掛けてきている。しかも自分たちは邪魔者として避けている。自分たちの女の勘が囁いている。この女の要求を呑んでは危険だと。
「ルイズ、悪いけど今回はシエスタの要求を呑むよ。その方が舞踏会が開催しやすくなるだろうし」
「な、なんでよ」
「いいから聞けって」
サイトは真剣目をしてルイズたちを見て、訳を説明した。
「俺たちが空賊の船の捜索に行ってたちょうど同じころに、学院…襲われただろ?その時シエスタ…一番頼ってた俺がいなくて不安だったと思うんだ。だからさ…」
ちょうど後ろにいたシエスタを振り返り、再びルイズたちを見て、サイトは罪悪感を顔に出した。
闇の巨人であるメンヌヴィルによって魔法学院が襲撃を受けたとき、シエスタは一番にサイトを求めていたのに、そんなときに限って助けに行ってあげられなかった。あの時現場にはシュウがいてくれたから、彼女も無事で済むことができたのだが、シエスタを不安にさせてしまい、申し訳ない気持ちが出てくる。だから要求を拒めるはずがなかった。
…それに、先ほどのシエスタの、この世界におけるコーヒーに対する話にて「コーヒーが最近になって噂になった新種の飲み物」という気になることを耳にした。それがどうしても引っかかる。サイトには、なんとなくそのコーヒーが何者かによって持ち込まれたものではないのかと勘ぐらされた。
「それにルイズも、今は平日…本当なら学業に励まないとダメだろ?その期間を使って舞踏会を開催するために生徒のみんなを説得しないといけない。みんなを説得するには、同じ貴族であるルイズにしかできないことだよ。それまではハルナがルイズのことを見てやってくれ」
サイトからそこまで言われ、ルイズは言い返す言葉を見失った。確かに、次の虚無の曜日までは平日、つまり自分達は学生として勉学に励まないといけない。舞踏会の準備はそれまでの合間を塗っての活動だ。何より、ルイズにしかできない。その言葉はルイズにサイトからの頼みを飲み込ませる決定だとなった。
「仕方ないわね…わかったわよ。あんたの頼みは聞いてあげる。
でもサイト、言って聞かせても忘れるかもしれないけど、よーっく記憶しておきなさい。
シエスタに下心を沸かせて近づいたら……殺すわよ」
「し、しねぇよ!」
なにがなんでも覚えさせようという意思からか、ルイズは念入りにサイトをたじろかせるほどに脅して、今回の外出を許諾した。シエスタは皆に見えない角度で「計画通り…」等と、いったいどこからが計画通りなのかわからないが、酷薄な笑みを浮かべて勝利を確信した。当然ルイズのあの警告など無視するつもりだ。この機会にサイトとの距離を一気に縮め、あわよくば彼と…

が、ルイズが念を押したのはサイトだけではなかった。



その夜のことだった。
「ふむ」
シュウは机の上に、蛇のおもちゃといくつかの機材と工具を並べ、スパナやドライバーを使って蛇のおもちゃを弄っていた。それを寝間着姿のテファとリシュの二人が、不思議そうに眺めている。
「それなぁに?」
リシュが隣の椅子からテーブルの上を覗き見て尋ねてきた。
「コルベール先生から借りたものだ。ある発明品を作るための実験機材として作ったらしくて、うまくいけば空を飛べるらしい。この空を飛べる機能を利用して舞踏会の飾りつけに利用しようと思うんだ」
「こ、これを飾り付けに?」
テファはシュウが今弄っている蛇のおもちゃに目を落とす。これは空を飛ぶことが可能だというらしい。蛇が舞踏会会場の華やかな天井を飛ぶ。イメージをしてみたが、なんだか風情としては気味が悪い。
「別に華やかな舞台に爬虫類を仕掛けてドッキリを狙うつもりはないぞ。…案外、お前は結構ないたずらを思いつくんだな。リシュならわかるけどな」
「べ、別にいたずらしたいわけじゃないよ!?」
「シュウ兄、なんか馬鹿にしてる?」
いたずらっ子認定されかけたことにテファは即座に否定を入れ、リシュは不満げに口を尖らせた。
「冗談だ」
「そんな真顔で冗談言われても…」
意地悪なんだから、と心の中でテファはごちた。でも、ついこの間まではこんなことは言わなかった。ずっと切羽詰まっていた彼の心に、余裕が出てきたのかもしれない。そう思うと安心感も出てくる。…意地悪なことは言ってほしくないが。
不意に窓の外の闇と月の光が目に入る。もう就寝時間だ。
「シュウ、そろそろ遅いから寝ましょ?」
「そうだな。リシュ、そろそろ寝るぞ。寝る前にトイレに行っておけ」
「はーい」
リシュは部屋の入り口に向かう。すると、リシュが扉のドアノブに触れようとしたところで、駄礼かが扉をノックしてきた。こんな夜更けに来訪者。何用だろうかと思いシュウが扉を開けると、そこにはルイズが立っていた。
「あ、ルイルイだ!」
「る、ルイルイ…!?」
リシュが無邪気にルイズを見て笑うが、変な呼び方をされてルイズは絶句する。
「…あのねリシュ。その呼び方は止めなさいって言ったでしょ?」
実は以前、ルイズとリシュが初めて顔を合わせたとき、タバサがリシュから「サッちゃん」と呼ばれた様に、ルイズにも仇名をつけた。だが、王室と姻戚関係でもある公爵家の息女であるがゆえにプライドの高いルイズのお気に召すことはなかった。
「ええ~。かわいいのに」
「良くないわ!おそれ多くもこのヴァリエール公爵家三女の私に向かって…」
「そんなことはどうでもいいから、要件を言えヴァリエール。俺たちに何か用があるんだろ?」
(こ、こいつらぁ…貴族を何だと思ってるのよ!!)
実家の家名を誇っているルイズにとって、あまりのぞんざいなコメント。シュウの淡々とした言動にルイズはピクピクとこめかみをひくつかせた。二連続でナメた態度を取られながらも耐えていた。しかしここで爆発させてしまうと、せっかくこの男に振ろうとした話がうやむやになってしまう。
「いいわねシュウ。明日はあんたも街に向かいなさい」
「は?」
いきなりの要求に、意味が分からないとシュウは首をかしげる。
「なぜ俺まで行かないといけない?」
「あの犬のことだから、自分に言い寄る女の色香にすぐコロッと行っちゃうんだから、監視役が必要なの。本当なら私が行くべきだと思うけど、知っての通り私はこの学院の生徒だから、平日から授業をサボるわけにもいかないし、舞踏会を開催させるためにみんなを説得する必要もあるの。だからサイトの監視役にあんたを任命するわ。ヴァリエール侯爵家の三女の私があんたに頼ってあげてるんだから感謝しなさいよね」
通りで、よく一緒にいるサイトやハルナのいないところで接触してきたわけだが、
「寧ろ大迷惑だ」
「なんですってぇ!?」
シュウにはあまりにもめんどくさいだけだ。速攻で断ってきたシュウに、ルイズは声を荒げた。
「シエスタの条件は、平賀と二人での外出許可だ。俺たちまで出張ったら約束を反故にする。
それに普通に考えてみろ。何が楽しくて他人のドロドロとした恋愛事情に首を突っ込まされないといけないんだ。自分たちでそのあたりはどうにかしろ。だいたい、頼ってきたことを感謝しろとか、貴族以前にそれが人にものを頼む態度か」
当たり前の正論。ルイズはぐぐ、と押し黙る。自分だってキュルケやギーシュのような、見境なしな恋愛事情など眼中に入れたくなかったのだから。上から目線での頼まれごとも、相手がアンリエッタでない限りプライドの高い彼女にとって絶対に頷きたくない。
…が、今度はあることに気が付いて彼女は顔を赤らめた。
「…って、何が恋愛事情よ!その言い方じゃ、わ…わわ…私があのバカ犬のことが…す、すすす…す……す……」
(…これでバレてないと思ってたのかこいつ…)
「な、何よその目は!べ、別にあんな犬のことなんて何とも思ってないんだからね!」
今のシュウの言い回しを聞いて、サイトへの隠しているようで結局隠せていない本音をひた隠しにしようとするルイズだが、狼狽えまくりなものだからますます隠し通せなくなっているのはシュウの目から見ても明白だった。
「明日、街へお出かけするの?わーい!」
すると、横で話を聞いてきたリシュがはしゃぎだした。
「シュウ兄、お出かけしよう!ずっとお部屋の中にいてばかりじゃ詰まんないもん!」
「こ、こらリシュ!」
シュウには、たった今行っていた飾りつけ等を含め、舞踏会の準備も行っている。そんな我儘を言うものじゃない、とテファはリシュに注意を入れるが、ここでルイズが煽りを入れた。
「あら、リシュは聞き分けが良いようね。さっきの無礼な仇名については不問にしてあげる」
「おい、だから勝手に話を…」
「…だめ?」
話を進めるな、と言いかけたところで、リシュがシュウの顔を見上げてきた。円らな瞳が、涙が今にも溢れるのではと思えるくらい揺れている。ここで断ったりなどしたら、自分は子供の気持ちを平気で無碍にする大人げない奴として認定される…というのは別に良い。ただ、泣かれるのは嫌だった。シュウは子供の泣き顔やわめき声が好きではなかった。自分が子供が苦手だと認識している原因でもある。
「…わかった」
「シュウ、本当にいいの?」
テファが聞いてきたが、後々から慰めたりしなければならなくなって面倒だからだ。こうなると、断固として断るということができなくなったも同然だった。とはいえ、子供の面倒を見てきたテファとしても、リシュの訴えかけてくるような円らな瞳はクリティカルヒットものだったらしいので、彼女も断り辛そうだ。
「不本意だが、リシュの言い分にも一理ある。ヴァリエールの下らない頼みのためだけに行くのも嫌だしな」
それに、シエスタの提案にあったカフェについて…これはシュウもまた戦士としての勧もあって気になっていた。地球人にとってごく一般的な飲み物であるコーヒーが、この世界では最近になって噂になった。裏で何かの意思が働いているようにも思えてならない。
だが……どうするべきか、シュウ単独の判断では正直決めかねていた。もしまた、今回の件がきっかけでまた、ウルトラマンの力が必要となるような戦いが起こったら…今の自分は、戦ったところで災いしか振りまくことができない。戦おうが戦わまいが、もしそんな戦いが起きたら………
(…最近見る夢では、俺はウルトラマンとしてもうまくやれていたというのに…現実ではうまくいかないものだな…)
おぼろげな形でしか記憶してないが、最近の夢でウルトラマンとして自分は成功していた。しかし現実では、ザ・ワンのころから積み重ねてきた失敗で、絶望ばかりが積み重なっている。
…いや、よく考えろ。たかがコーヒーじゃないか。巷で評判になるほどなら、別に味に問題があるわけでも毒物が入っているわけでもないはずだ。危険を考慮して断ってもリシュがぶー垂れて後から厄介だし……そこまで考えたところで、シュウはテファの方を見やる。
彼女には、無茶な戦いを続けてきた自分のせいで辛い思いをさせてきてしまった。ずっと外の世界を見てみたいと言っていた彼女がもし外の世界に恐怖し拒絶してしまうようなことがあったら、自分の責任だ。そんなことはあってはならない。辛い思いをさせた分だけ、楽しい日々を過ごしてほしい。今回の舞踏会のことも、シエスタの提案も彼にとって、テファへの償いと、彼女が外の世界に希望と夢を強く持つためのチャンスでもあった。
それに万が一、ウルトラマンの力が必須になるほどの事案が起こったとしても…同じウルトラマンであるサイトがいる。ならば、問題はないと言っていいかもしれない。
「あんたね…せめて私のいないところで言いなさいよ」
本人の前で堂々と下らないと言ってのけるシュウに、ルイズは機嫌を損ねる。…自分だってこんなこと他人に頼むことじゃないのはわかっているが、言い方を考えてほしいものだ。
「加えると、リシュをマチルダさんやチビたちに紹介するいい機会にもなる。それに……お前もそろそろ外で羽を伸ばしたいはずだ。森でずっと隠れ住んでたお前も、外の世界には元々興味があったみたいだし、せっかくだからシエスタの言っていたカフェ、行ってみるか?」
シュウが、戦い以外のことで自分たちのためになる何かをしてくれる。
「うん…!」
それがとても嬉しくて、テファは笑みをこぼして頷いた。
「わーい、お兄ちゃんとデートだ!お兄ちゃん、ちゃんとエスコートしてね?」
「はいはい。せいぜいはぐれるなよ」
シュウが最終的に外出に乗り気だと分かった途端、リシュは大いにはしゃぎ、そんな彼女をシュウはため息交じりに諫めた。




やがて皆が寝静まった頃………
キュルケはその日の夜も、魔法学院の校舎のバルコニーに上っていた。今日は暖かい飲み物も自分と彼女の分も持って。あの青い髪に黒い翼をもつ少女が、今日も現れるのではと思ったからだ。階段を登り、バルコニーに着くと、予想通り例の彼女はそこにいた。以前の通り、彼のいる部屋をじっと見つめている。
「今日もここにいたのね。夜の妖精さん」
キュルケに気がついて、少女はバルコニーの入り口の方を振り返ると、キュルケからカップを手渡された。
「ずっとこんなところじゃ寒いでしょ?温かい飲み物、持ってきたわ。熱いから気を付けてね」
「ありがとう」
カップを受け取り、ちゃんと飲んだところを見ると、少なくとも幻の類ではなかったことがはっきりした。そんなキュルケの視線に気づいて、亜人の少女はキュルケを見つめ返した。
「ねえ、結局あなたの名前…まだ教えられないの?」
「…リリア。本名じゃないけど、今はそう呼んで」
「本名を聞いてみたいけど」
「それはいつか、私がその気になったら」
リリアと名乗った少女は、再度シュウたちがいるであろう部屋の方角に向き直る。その姿勢のまま、彼女はキュルケに向けて口を開いた。
「…ねえ、あなたは…今は誰が好きなの?」
「あら?あたしの恋の相手に興味あるの?」
「少なくとも私はシュウが好きって言った。あなたの相手にも興味がある」
ようやく少女が自分から話を振ってきた。キュルケは満足そうに笑みを溢し、自分の現在の恋愛事情を明かし始めた。
「そうね、今のあたしが好きな人は……たくさんの人たちから慕われているわ。少し前まで、あたしは戦うことに臆病な男は軟弱って思ってた。その人のことも弱い男だって思ってた。
でも違った。少なくともあの人のは、命の大切さと重さを知っていたからこその優しさでもあったの。今までのあたしは、ただ強くてかっこいい、雄々しい人が一番だって思ってた。だからサイトやシュウも好きだったけど、あの人の本質に気付いたとき、あたしは恋愛に関してまだ未熟だったことを痛感したわ」
「…」
少女…リリアは興味深そうにキュルケの話にしっかり耳を傾けていた。
「お金とか家柄、見た目、内面…たくさんの基準で男を見てきたけど、彼のことを知って、あたしの直観が囁いたの。この人だっていう自分の素直な気持ち。どうしてこんな人に、とも思ったわ。だってその人、あたしよりずいぶん年上だもの。でも全てにおいて完璧に当てはまる男が目の前に現れても、その男があたしの理想かと思ったらそうじゃない。条件を決めてそれに当てはまる相手じゃ心が燃えないの」
それは、キュルケの恋愛事情に対する認識が改まったことの表れであった。以前は単純に力が強かったり、容姿も優れているとか、勇猛果敢であることがキュルケにとっての理想の男像だった。でも、今のキュルケはそれ以上に男に求めるものを知った。故に今となっては、好意を抱いている相手はサイトでもシュウでもなく……今となっては全く予想外な男であった。
「…結局、直観が大事ってこと?」
「そう、やきもきさせるところ、じれったいも含めてね」
「…そうね。あたしもそう。理屈じゃないの、直観で彼がいいって思った。この世の誰にも、シュウを渡したくない 。当然、一緒にいるあのエルフにも」
キュルケは彼女の一点の曇りもない目を見て、少したじろぐのを覚えた。水晶のように澄み切っている。同じ相手にもし恋をしていたら、もしかしたら退くことも考えていたかもしれない。最もそんなことになっても、最終的に自分は絶対に退くまいと踏みとどまるつもりだが。
「だから、明日は少し踏み込んで見ようと思うの」
「へぇ、どんなふうに?」
「秘密」
いたずらっぽくリリアは笑った。この場で聞けないのは残念だが、これは明日が楽しみになってくる。

しかし、リリアが口にした言葉の意味は、キュルケが考えていたような形ではなかったことに、彼女はまだ気づけなかった。

気づけるはずもない形だったのだから。







そして、世界は…再び変わる。
 
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