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戦国異伝供書

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第三十五話 天下一の武士その九

 しかしだとだ、幸村はさらに言うのだ。
「しかしじゃ」
「お館様が幕府の管領、執権の様なものになれば」
「その時はですな」
「その何の力もない幕府も力を摂り戻り」
「そうしてですな」
「そうじゃ、あの方が治められてな」
 将軍に代わってというのだ。
「そうなる、乱れた天下も治まるのじゃ」
「戦国の世は長きに渡って続いています」
「民達も苦しんでいます」
「戦のない日は天下にない程です」
「その中で多くの者が死んでおります」
「それが終わるのじゃ」
 戦国の世、それがというのだ。
「だからじゃ、わしはじゃ」
「あの方をですな」
「全力でお助し」
「そうしてですな」
「天下泰平を見る」
「そうされるのですな」
「あの方の下でな」
 晴信の家臣としてというのだ、幸村は十勇士達に対してこれ以上はないまでに澄んでいてそして強い声で述べた。
「そうするぞ」
「では、ですな」
「我等もですな」
「殿と共にお館様にお仕えする」
「そうして宜しいですな」
「頼む、わしは一人では知れておる」
 鍛錬と学問で日々己を磨いている、だがそれでもというのだ。
「しかしお主達にはいつもいて欲しい」
「有り難きお言葉」
「それではです」
「我等これからも殿にお仕えします」
「そして死ぬ時と場所は同じです」
「何があろうとも」
「その言葉確かに聞いた、わしはよき家臣達を持った」
 友、そして義兄弟達をというのだ。
「それではな」
「誠一筋で、ですな」
「お館様にお仕えし」
「武芸と学問に精進し」
「己も高められていきますな」
「そのうえで天下泰平の為に働く」
 晴信に忠義を尽くしてというのだ。
「そうする、ではな」
「これよりですな」
「我等もですな」
「政に加わりますな」
「いや、お主達はわしの傍にいて欲しい」
 幸村は自分達もと言う彼等にこう返した。
「お主達は政は学んでおるか」
「そう言われますと」
「いや、我等武芸や術には自信がありますが」
「学問にも興味はありますが」
「こと政となりますと」
「どうにも」
 十勇士達の中で知力の高い筧や霧隠、そして身分の高い海野もだった。こと政については困った笑顔で言うだけだった。
「そうした書は呼んだことがありませぬ」
「そちらの学問は苦手であります」
「申し訳ありませぬが」
「そうであるな、ではわしの傍にいてな」
 そしてというのだ。
「わしの政をよく見てくれるか」
「そうすればよいですか」
「殿が政の仕事をされている時は」
「我等はそうしてよいですか」
「それで頼む、お主達はお主達のすべきことでは天下無双」
 いくさ人特に忍の者としてはというのだ、十勇士達は一騎当千の強者達であるというのである。 
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