牛頭天王の結婚
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第一章
牛頭天王の結婚
これは八坂神社の祀神の一柱である祇園さんという愛称で親しまれている牛頭天王の話である。
天王はその名前が表している通り奇怪な鬼に似た姿をしておりその姿のせいか神々の中でも異性から人気がなく長い間独り身であった、それで困っていたが。
同じく八坂神社に祀られている神のうち一柱に相談するとこんなことを言われた。
「占ってみますと」
「何かおわかりですか」
「はい、狩りに出れば」
それでというのだ。
「よいことがあるとです」
「出ていますか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「この度はです」
「狩りに出るべきですか」
「そうされてはどうかと」
「それでは」
天王はその神の言葉に頷いた、そうしてだった。
実際に供の者達を連れて狩りに出た、獲物をそれなりに獲ってこれがどうなるのだろうと思っていると。
ふと左肩の上に山鳩が停まってきた、そうして天王に対してこう囁いてきた。
「ようこそ来られました」
「わしが来るとわかっていたのか」
「はい」
その通りだとだ、山鳩は天王に答えた。
「左様でした」
「神社に共に祀られている神に勧められてきたが」
「そのお勧めこそがです」
「そなたと出会う前触れだったのか」
「そうです、私はその神に何も言われていませんが」
それでもというのだ。
「天王様が来られたらです」
「今の様にわしのところに来るつもりだったか」
「左様です、それでなのですが」
山鳩は天王にさらに言ってきた。
「一つ宜しいでしょうか」
「うむ、婚姻のことであるな」
「はい、この近くの龍王様ですが」
「ああ、あの」
龍王と聞いてだ、天王も頷いた。
「あの御仁か」
「そうです、あの方の三番目の姫様が実は天王様のお心を知りそのお姿も好みとのことで」
「ううむ、わしの様な姿をか」
「好みはそれぞれなので」
それ故にとだ、山鳩は天王に答えた。
「その方はです」
「わしの様な姿が好きか」
「左様です」
「わかった、では龍王のところに行ってじゃな」
「三番目の姫様をと言われるべきです」
「さすればな」
天王は山鳩の勧めに頷いた、そうしてだった。
狩りから終わるとすぐに龍王のところに向かった、その際人の世界を歩くのでごく普通の大柄でしっかりとした身体だが旅人の姿になった。そうして旅だったのだが途中で日が暮れてしまいそれで宿を探すことにしたが。
最初に門を叩いたのは丁度日が暮れた時にいた村の長者だったが長者は彼が身なりの貧しい旅人と見てこう言った。
「汚いから駄目だ」
「何と、わしが汚いと」
「一体どれだけ旅をしておるのだ」
「どれだけと言ってもはじめたばかりである」
「そうは見えぬ、とにかく汚いからだ」
それでと言ってだ、長者は天王にしっしという手の動作までしてそのうえでだった。門を閉じてしまった。
天王もこれでは仕方なく憮然としつつ長者の屋敷の門の前を後にした、だがどうしたものかと思って村を歩いているとだ。
ある小さくぼろぼろの家の戸が開いて彼に尋ねてきた。
「若し、旅の方ですか?」
「そうだが」
夜になり暗くなっている中でだ、天王はその声に応えた。貧しい身なりで痩せた小男だ。天王はその者に対して答えた。
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