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火を吐く王子

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第四章

「そしてです」
「その炎をドラゴンに吐いたのか」
「それでドラゴンを焼き」
 口で吐いたその炎でというのだ。
「そのうえで、です」
「エッケザックスでも戦いか」
「そうして勝たれました」
「そうだったのか」
「そして今王子は軍勢を率いられて」
 ヒルデブラントや勇者達からなる軍勢をというのだ。
「そうしてです」
「この都に戻ってきているか」
「左様です」
「ドラゴンまで倒すとは」
 王は愕然とした、そのうえでこう言った。
「わかった、わしは決めた」
「決められたとは」
「王子が戻って来た時に話す」
 こう言って今はそれ以上話さなかった、そしてだった。
 王は項垂れたまま王子の帰還を待った、そのうえで王子が帰ると完全にがっくりとした声で彼に告げた。
「余は王位を退く」
「そうされるのですか」
「そしてそなたに王位を譲ろう」
 こう言うのだった。
「そなたは何でも出来る、だからだ」
「私が王となってですか」
「この国を治めよ、そなたならだ」
 まさにというのだ。
「余なぞより遥かにこの国を治められる」
「それ故に」
「ドラゴンさえ倒したのだ」
 しかも火まで吐いてだ。
「それならばだ」
「この国もですか」
「治められる、だからな」
「それ故に」
「これからはそなたが王だ」
 王がこの言葉を告げて自ら王冠を脱ぎ王子の頭に被せると誰もが喝采した、王と王子を讃える声で。
 誰もが王の英断を賛美した、それで道化も言った。
「まことによいこですな」
「そうであるな」
「相応しい方が王となられて」
 道化はおどけた中でこう言った。
「実に素晴らしいです」
「そなた、わかっていたな」
 王はおどけた仕草と口調の道化に顔を向けて問うた。
「全て」
「さて、ですが今のお気持ちはどうですか」
「なるべくしてなった」
 王は自身の問いをはぐらかし逆に聞き返してきた道化に答えた。
「そうした気持ちだ」
「ならそれでいいではありませんか」
「なるべくしてなったからか」
「後は新しい王が国を治めてくれます」
「余よりも遥かにだな」
 それは確信を以て言えた、今まで自身が見たものから。
「そうだな」
「先王がそう思われるなら」
「なら間違いない、ではだ」
「はい、これからは」
「余は退きその座からな」
「王の為されることを御覧になられますか」
「そうしよう、無理に王になっても結局は定まらぬ」
 王は今このことも痛感していた、それも相当に。
「定まるのはな」
「それはですね」
「なるべくしてなった時だ、ではな」
「なるべくしてなたのだから」
「もう何も言うことはしない」
 こう言って王は自分がいるべき場所に向かった、それ以降政に関わることはなかった。ディエトリーヒ=フォン=ベルンは強く聡明で炎さえ吐く偉大な王として知られる様になったがその前にいた王のことはこれで終わった。無理に王となって退くべくして退いた王として。


火を吐く王子   完


                  2018・10・14 
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