何処まで攻めるのか
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第一章
何処まで攻めるのか
宋は金に攻められ徽宗、欽宗の二人の皇帝をはじめとした多くの皇族や高官達が家族ごと捕らえられ国土の多くも奪われた、だが。
宋も負けていられず岳飛や韓世忠といった優れた将達が自分達が鍛えた精兵達を以て金に反撃を開始した。
このことに宋の者達は喝采を叫んだが金との講和を目指す宰相の秦檜の様な者もいた。今宋は金を攻めて黄河流域から南を奪い返していた、だが。
その状況を見た臨安の儒者梁索勝は友人である都に詰めている武人の張義にこんなことを言った。
「今宋は攻めているが」
「いいことだ」
張は武人らしく意気軒高な声で述べた、虎の様な髭が逞しい顔立ちと体格に実によく似合っている。目の光も強くそこも虎を思わせる。
「このままだ」
「攻めていけばいいか」
「そうだ、そして宋の領土を回復するのだ」
張は梁に強い声で述べた。
「東京だけでなく燕雲十六州までもな」
「それはいいが」
梁は意気込む友人達に考える顔で述べた、痩せて髭のない顔は皺が目立ちその皺の分だけ理知的な趣を見せている。痩せた身体に儒服が似合っている。
「しかし金は強い」
「騎馬隊が強いからな」
張は何故彼等が強いのかをわかっていた、金は女真の国であり彼等は北の騎馬民族宋にとってはまさに宿敵の者達だ。
「その強さは尋常じゃない」
「そうだな」
「しかしな」
「今の宋もだな」
「強い」
張は梁に言い切った、彼の家で共に茶を飲みながら話をしている。茶を飲んでいるのは二人共仕事の合間に会って話をしているからだ。酒はあえて控えたのだ。
「岳将軍も韓将もおられてな」
「そのことはな」
「確かだな」
「これまで宋の兵は弱かった」
このことで周りの国、金だけでなく金が西にやった遼にもその西にある西夏にも侮られていた。特に主力である禁軍が弱かった。
「それに将もだ」
「お世辞にもだ」
「そんな状況だった」
「だからここまで攻められた」
梁もこう述べた。
「そうなった」
「東京等も奪われてな」
「淮河まで攻められた」
「だがここで我が宋もうって出た」
張はまた強い声で述べた。
「そしてだ」
「遂に東京を取り戻したな」
「我々は勢いに乗った」
戦において最も重要なものの一つであるそれにだ。
「優れた将にその方々が鍛えた精兵もいる、馬は少ないが」
「それでもだな」
「このまま燕雲十六州まで取り返しだ」
「宋の領土をだな」
「完全に取り戻すのだ、今なら出来る」
「そうかも知れない」
梁はここで一旦己の茶を飲んで述べた。
「今の宋ならな」
「ではこのまま攻めていけばいいな」
「どうだろうか」
梁は張に難しい顔で問いかける様に言った。
「それは」
「どういうことだ」
「だからだ、このまま攻めてだ」
そうしてというのだ。
「君はこのまま攻めていけばいいと言っているな」
「燕雲十六州までな」
「宋の領土を攻めて取り戻すな」
「それが出来る筈だ、違うか」
「また言うが出来るだろう、だが」
梁は服の袖の中で腕を組んだ、そうして難しい顔のまま彼に対してこうも言ったのだった。
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