ある晴れた日に
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110部分:谷に走り山に走りその六
谷に走り山に走りその六
「それでよ」
「そのポーがどうしたんだ?」
「凄く怖いのよ」
真顔で皆に語る。これで下から懐中電灯を当てれば完璧であった。
「もうね。夢に出る位」
「そんなにかよ」
「アッシャー家の崩壊とか黒猫とか」
どちらもポーの代表作である。
「どちらもね。一度見たら忘れられないわよ」
「へえ、だったら一回読んでみるか」
「そうだな」
二人だけでなく皆もその気になっているようだった。それに合わせるかのように今度は咲が言うのだった。
「咲もね。凄く怖い小説知ってるわよ」
「今度は誰なんだ?」
「魯迅」
彼女はまた意外な作家を話に出してきたのだった。
「怖いわよ、もうかなり」
「魯迅ってあの教科書に出てるあれかよ」
「故郷だったよな」
同じ中学校である坪本と佐々はここで顔を見合わせた。彼等の中学校の教科書では魯迅の故郷が載っていたらしい。教科書の定番作家ではある。
「あれって怖いか?」
「説教臭い小説だろ?」
「薬ってね。テストに出るからって調べたのよ」
ここで咲の顔が強張る。
「それ読んだらもう」
「薬!?」
「それってそんなにやばいのかよ」
「ああ、あれだよね」
咲のその強張った顔に応えるかのように桐生が言うのだった。
「あれは確かに怖いよね」
「知ってるの、眼鏡君」
「読んだからね。ポーもだけれど」
今の仇名はとりあえずスルーして述べる桐生だった。
「どっちもね。相当なものがあるよね」
「あれは。お饅頭が食べられなく位に」
「饅頭が怖いのかよ」
「肉まんね」
咲はこう野本に返した。顔は強張ったままだ。
「もうそれが結構きつくなって」
「って御前この前学校の購買で肉まん買って食ってたじゃねえか」
身も蓋もない野本の突っ込みだった。
「しっかりよ。あれは何だったんだよ」
「それはそれ、これはこれだから」
食欲は別であるらしい。ある意味非常にわかりやすい。
「とにかく。凄く怖いから」
「そんなのつのだじろうとか楳図かずおに比べりゃ全然だろうがよ」
野本が出したのは漫画家だった。
「俺な、ガキの頃読んでな」
「寝れなくなったのね」
「半年位な」
暗い顔になって茜に答えるのだった。
「あれはねえぜ。もう夜の窓見るのが滅茶苦茶怖くなるんだよ」
「あのひし形の目?」
今言ったのは静華だった。
「あと読むと百日寿命が縮まる新聞よね」
「あれ読んだらマジでそうなるって思ってたんだよ」
実際にこう思ってしまった人間は多いらしい。漫画の影響力も馬鹿にはできない。少なくとも子供に与える影響は相当なものである。
「守護霊とかよ。うしろのな」
「あれはねえ。凄いわよねえ」
「御前も読んでたのかよ」
「私はどっちかっていうと楳図先生だけれどね」
静華も静華で相当なものを読んでいる。
「あの乾いたははははは、って笑いがもう」
「ああ、それトラウマものだよ」
野本は今でもそのシーンを怖がっているのは丸わかりの顔になっていた。
「思い出したくねえのに思い出してな」
「そうそう。もう今でも」
「あたしは映画だよな」
春華はそれらしい。
「もうよ。日本の幽霊とか最悪に怖いよな」
「あれ?番町皿屋敷とか」
「あれはまだいいんだよ」
こう凛に返す。
「まあ名前言うのも怖いのとかあるしよ」
「貞子とか?」
「あれ観てからテレビの画面観るのが怖くなったんだよ」
これもまた子供なら無理もないことであった。
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