英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第88話
午前6:20―――
峡谷で大規模な戦闘が繰り広げられている中リィン達はグラーフ海上要塞に急行していた。
~東フォートガード街道~
「……………………」
「生徒達が心配か、リィン?」
バイクを運転しながら考え込んでいるリィンの様子に気づいたガイウスはリィンに問いかけた。
「ああ…………さすがにな。」
「赤い星座もそうだが…………あの”道化師”もいるのがな。」
「うん、直接戦闘能力は他の執行者達程じゃないけど、幻術とか使われたら軍隊が相手でも互角以上にやりあえるだろうしね。」
「だが、”黒旋風”の方も天下の猛将として知られている。」
「地方軍の兵士も精鋭揃い…………トヴァルたちもいるし任せましょう。」
「…………はい。」
仲間達の言葉にリィンが頷いたその時通信が入り、トワとティータの映像がARCUSⅡのから現れた。
「リィン君達、今どこ!?」
「峡谷から戻るところです!ランディ達と准将たちに託してきました!トヴァルさんにアガットさん、戦術科のみんなも戦っています!」
「…………アガットさん…………教官達にⅧ組のみんなも…………」
リィンの話を聞いたティータはアガット達の身を心配した。
「そっか…………了解だよ。―――こちらの動きだけどグラーフ海上城塞が襲われたの!」
トワの報告を聞いたリィン達はそれぞれ血相を変えた。
「早速か…………!」
「は、はい…………!先程動きがありました!白い神機が現れて―――鉄機隊に元・北の猟兵もいるそうです!」
少し前―――
~グラーフ海上要塞~
トワ達がリィン達に通信をする少し前、グラーフ海上要塞の上空に現れた神機が遠距離攻撃の武装で要塞に備え付けている導力砲を破壊した。すると転移で現れたデュバリィ達鉄機隊が北の猟兵達と共に要塞の守備についているバラッド侯爵の私兵達を次々と制圧しながら、要塞の屋上を目指していた。
「に、二度寝しようと思っていたらこんなことに…………女神達よ…………!ワシが何をしたというのだ!」
騒ぎに気づいて屋上から状況を確認したバラッド侯爵は表情を青褪めさせた後その場で祈りをささげたその時、神機がバラッド侯爵の背後に現れた!
「なああああああっ!?ひいいいい…………っ!?」
神機の登場に思わず腰を抜かしたバラッド侯爵はすぐに立ち上がってその場から逃げ出したが
「逃がしませんわ!
転移で現れたデュバリィに阻まれ、デュバリィに続くように他の鉄機隊も次々と転移で現れた。
「き、貴様ら…………!次期エレボニア側のカイエン公に無礼であろう!」
「フン…………領民に加えて会議に来た同胞も見捨てるとはな。…………今回の騒ぎに対して、幾ら死兵達の攻撃対象になっていないとはいえ、いつ砲口がオルディスにも向けられるかわからない状況で自分達はオルディスに残って軍やギルドと協力して領民や同胞達の避難誘導を優先しているカイエン公爵令嬢姉妹とは大違いだな。」
「あらあら。貴族の風上にも置けないわね。まさにあのクロスベル側のカイエン公爵令嬢姉妹とは正反対の愚かな貴族ね。」
バラッド侯爵の反論に対してアイネスは軽蔑の眼差しでバラッド侯爵を睨み、エンネアは口元に笑みを浮かべながらも目は笑っていない様子でバラッド侯爵を見下ろした。するとその時北の猟兵達がデュバリィに近づいて声をかけた。
「感謝する―――我らに死に場所を与えてくれて。」
「これで自治州府を落とされた借りが返せるというものだ。」
「礼には及びませんわ。それに私達もある意味貴方達と同じ穴の狢ですし。ですが戦はこれからが本番―――最後の勲、互いに見せますわよ。」
北の猟兵達の感謝の言葉に対して静かな表情で答えたデュバリィは決意の表情を浮かべた。
~東フォートガード街道~
「あ…………!」
「セレーネにアーちゃん、新Ⅶのみんな!」
「それにアルフィン殿下やエリゼ達も…………!」
リィン達が急行しているとリィン達の行く先にそれぞれバイクやサイドカーに乗っているユウナ達が待機していた。
「教官、皆さんも!」
「トワ教官の許可を得てきました!」
「うふふ、ここからはレン達も加わってあげるわ♪」
「そうか…………」
「フフ、これも風の導きか。」
「それにしてもクロスベルの件はアリサ達から聞いてはいたけどエリゼ達はともかくアルフィン殿下まで、本当にあたし達に加勢してくれるなんてね…………」
「ふふっ、殿下との共闘は2年前のカレル離宮に幽閉されていた皇帝陛下達の救出以来になりますね。」
セレーネ達の加勢にガイウスが口元に笑みを浮かべている中サラは苦笑しながらエリゼが運転するバイクのサイドカーに乗っているアルフィンに視線を向け、アンゼリカは口元に笑みを浮かべてアルフィンに声をかけた。
「はい。2年前のわたくしは守られるだけでしたが、今のわたくしは皆さんのお役に立てると思いますわ。」
「ふふっ、今のアルフィンは手加減をしているとはいえ、分校長相手に私と共に15分は持ちこたえられますよ。」
「ちなみにアリサさん達からクロスベルの出来事を聞いているかもしれませんが、”火焔魔人”と化した”劫焔のマクバーン”の亡霊相手にもアルフィンさんはわたくし達と共に果敢に戦えていましたわ。」
「第Ⅱの分校長とは確か元結社の”蛇の使徒”の…………」
「”鋼の聖女”―――いや、”槍の聖女”にして”鉄機隊”の主であるサンドロッド卿か…………皇帝陛下達が知れば驚くと共に、殿下の成長にお喜びになるでしょうね。」
エリゼやセレーネの説明を聞いたサラ達がそれぞれ冷や汗をかいている中我に返ったガイウスは目を丸くし、ユーシスは静かな表情で呟いた後苦笑しながらアルフィンを見つめた。
「教官、状況は全て把握しています。」
「第Ⅱ分校の一員として―――そして、Ⅶ組の一員として教官達に加勢する為にここに来たわ。」
「新しい故郷の危機…………さすがに見過ごせませんから。」
「ま、駄目つってっも勝手に行くだけだけどな。」
「ああ―――約束通り力を貸してもらう。全員、遅れずについてこい!」
「はい…………!」
「了解です…………!」
その後セレーネ達と合流後グラーフ海上要塞に急行したリィン達が要塞に到着すると、ある光景があった。
午前6:50―――
~グラーフ海上要塞~
「これって…………」
「…………完全に陥ちたようだな。」
要塞についたリィン達が目にした光景は破壊された戦車の爪痕やあちこちに煙が上がっている要塞、そして要塞にはある紋章と旗が要塞につけられていた。
「”身喰らう蛇”の紋章。そして、もう一つの紋章は…………」
「…………見覚えがあるね。ノーザンブリアの古い紋章だったか。」
「ええ、28年前の異変の時、公国を棄てて逃亡した大公家の旗―――」
「バルムント大公だったか。それをわざわざ使ったという事は…………」
「”北の猟兵”としてではなく、別の存在として今回の出来事を起こしたという事ね。」
「…………エレボニアに帰属した故郷の人々に迷惑はかけたくない―――」
「だが、意地は見せたいって所か。」
「…………本当に…………馬鹿ばかりなんだから。」
「そして彼らがここまで追い詰めた元凶はオズボーン宰相とオズボーン宰相を未だ重用し続けるエレボニア皇帝たるお父様なのでしょうね…………」
リィン達が様々な思いで北の猟兵達について考えている中サラとアルフィンは悲しそうな表情をした。そしてリィン達が要塞を結ぶ橋に視線を向けるとルトガー達が行く手を阻むように陣取っていた。
「…………西風の…………!」
「ふーん…………ニーズヘッグまでいるなんてね。」
「そして噂の”仮面”か…………」
ルトガー達に気づいたアルティナとミリアム、アンゼリカはそれぞれ表情を引き締めた後リィン達と共にルトガー達に近づいてルトガー達と対峙した。
「…………フ…………」
「よう、2日ぶりだな。」
「峡谷方面も結構アツかったやろ?」
「まあ、こちらの方は一足遅かったようだが。」
「…………何となく、来ているんじゃないかと思っていたよ。サザ―ラント、クロスベルで行われた”結社”による”実験”―――それを阻止すべく様子を伺っていた西風の旅団に、地精の代理人…………」
「要するに今回も同じという訳ですか。動くはずのない”神機”を持ちだして決戦の舞台を用意するという”実験”は。」
ルトガー達と対峙したリィンとセレーネはそれぞれ真剣な表情でルトガー達を見つめ、二人の話を聞いたユウナ達はそれぞれ今までの”実験”を思い返していた。
「そ、そういえば前回も、前々回も…………」
「つまり、破壊工作そのものを目的とした”実験”ではなく…………」
「こうした状況を作って対戦相手に挑ませようとするのが”実験”の主旨という訳ですか。」
「…………―――!(まさかとは思うけど、結社もそうだけど黒の工房は”戦”によって生まれる”負”のエネルギーで、”ラウアールの波”のようなものを再現しようとしているの…………!?)」
クルトとミュゼがそれぞれ推測を口にしている中今までの出来事からある仮説に気づいたゲルドは血相を変えた後信じられない表情でルトガー達を見つめた。
「フフ…………そこまで見抜いていたとは。」
「ま、今回の対戦相手はオレらとこっちの兄ちゃんでな。」
「鉄機隊に死兵ども―――相手にとって不足はない。」
リィン達の推測に対してジークフリード、ゼノ、レオニダスは否定することなく答えた。
「政府とは別口で西風で契約を結ばせてもらった。峡谷での戦いには敗れたがせめて違約金の補填はせねばな。」
(クスクス、そんな悠長なことを言っていられるのも今の内だけどね♪)
ニーズヘッグの猟兵の話を聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「てなわけで、お前さん達はお呼びじゃないってわけだ。特等席で見せてやるからま、ゆっくり観戦してるんだな。」
「ざけんなコラ…………」
「そのような世迷言、認められるとでも思うか…………?」
不敵な笑みを浮かべたルトガーの言葉に対してアッシュとユーシスはそれぞれ厳しい表情でルトガー達を睨んだ。
「――――ならばどうする?」
「ま、オレらが万が一、敗れた後なら構わんへんけど。」
「譲れというのは通らぬ話だ。」
「…………文句があるなら、要塞攻略の肩慣らしに相手してやってもいいぜ?」
「っ…………」
「なんて闘気だ…………」
「”王”がいるだけでここまでの力を…………」
ルトガー達西風の旅団の猟兵達がそれぞれさらけ出し始めた黒い闘気にアルティナとアンゼリカ、サラはそれぞれ驚いていた。
「フフ、今回に限って言えば”将”は必須となるだろう。」
「既にここは”戦場”―――戦には”将”が必要ってことや。”紫電”にシュバルツァー、貴族の若様やエレボニアの元皇女様もいるみたいやけど。」
「”将”というには少しばかり役者不足なのは否めぬな…………?」
「…………っ。」
「………それは…………」
「……………………」
レオニダスの指摘に対して反論できないユーシスは唇をかみしめ、リィンとアルフィンが複雑そうな表情をしたその時
「ならばその”将”、私が務めさせて頂きます。」
突如女性の声が聞こえてきた後パンダグリュエルの揚陸艇が姿を現した。
「…………あ…………」
「パンダグリュエルの揚陸艇…………!?」
パンダグリュエルの揚陸艇の登場にその場にいる多くの者達が驚いていると揚陸艇が着陸すると、揚陸艇の甲板にいたリウイ、カーリアン、リアンヌ、レーヴェ、ツーヤ、プリネとエヴリーヌ、そしてリフィアは跳躍し、イリーナとエクリアは傍にいたペテレーネの転移魔術によって着地したリウイ達の傍に現れた!
「な、な、な…………」
「ぶ、分校長…………!?そ、それに貴方方は――――」
「お義父さんやリフィア義姉さん達まで…………」
「ええええええええええっ!?プリネ皇女達はわかるけど、”英雄王”達までいるとか一体どうなっているの~~~~!?」
「クハハ…………!無茶苦茶すぎんだろ!」
「うふふ、まさにピッタリのタイミングだったわね♪」
「はーい♪二日前の宣言通り、縁があったお陰でまた会えたようね♪」
リウイ達の登場にユウナは口をパクパクさせ、クルトは信じられない表情で声を上げ、ゲルドは目を丸くしてリウイ達を見つめ、ミリアムは混乱し、アッシュは状況の混沌さに笑い、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、カーリアンはリィン達にウインクをした。
「……………………」
「おいおい、聞いてへんで。」
「…………なるほど。まごうことなき”将”―――いや”王”か。」
予想外のリィン達の援軍にジークフリードは黙ってリウイ達を見つめ、ゼノは困惑し、レオニダスは表情を引き締めてリウイを見つめ
「――――勘違いするな。今回の件での俺達はあくまでプリネ達同様リィン・シュバルツァーの要請を補佐する”協力員”であって、”将”は俺ではなくリアンヌだ。」
「え”。」
「ハアッ!?」
「な――――――」
「リウイ陛下達がオレ達のようにリィンの”要請”を手伝う”協力員”…………」
「いやいや、色々な意味で無理があるんじゃないの、ソレ!?」
「はっはっはっ、”槍の聖女”どころかリウイ陛下達まで加勢してくれるなんてまさに”戦力過剰”と言ってもおかしくないメンツだねぇ。」
レオニダスの言葉を否定したリウイの話に仲間達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中我に返ったリィンは思わず表情を引き攣らせて呟き、サラは驚きの声を上げ、ユーシスは絶句し、ガイウスは呆けた表情で呟き、ミリアムは疲れた表情で指摘し、アンゼリカは暢気に笑っていた。そしてリアンヌが前に出てルトガー達と対峙した。
「アンタが有名な聖女さんかい。どんな化物かと思ったがとんでもなく佳い女じゃねえか?」
「私も貴殿の名は存じています。西風の猟兵王―――死んだと伺っていましたが見えて光栄です。―――ですが、せっかく生き永らえた命を部下共々失いたくなければ、そこを退いて頂きましょうか?」
ルトガーの言葉に対して静かな表情で答えたリアンヌは騎兵槍をルトガー達に向けて忠告した。
「あいにく、先着はコッチでね。ラクウェルくんだりでダラダラと出待ちもしてたしな。…………そいつはスジが通らないんじゃねえか?」
「”筋”はあります。」
「へえ…………?」
リアンヌの忠告に対してルトガーは目を細めて反論したがリアンヌの答えを聞くと興味ありげな表情を浮かべた。
「死兵達と共にその要塞を陣取っている騎士達は袂を分けたかつての私の臣達。彼女達の真意を知る為――――そしてかつての”鉄機隊”の将として引導を渡す為にこの場に現れました。」
「なるほどねぇ………だからと言って、はいそうですかとこの場を譲る程の”スジ”じゃねぇな。」
「やれやれ…………リアンヌ様、一応警告はしたのじゃから、”たかが猟兵如き”にこれ以上余達メンフィルが歩む”覇道”にとって無駄となる時間を取る必要はあるまい?」
リアンヌの話を聞いてもなお、道を譲るつもりでないルトガーの意志を知ったリフィアは呆れた表情で溜息を吐いた後リアンヌに問いかけ、リフィアのとんでもない発言にその場に多くの者達は驚き、ルトガー達はそれぞれ目を細めてリフィアを睨んだ。
「団長が”たかが猟兵如き”やと………?」
「幾ら武勇を轟かせているメンフィルの次代の女帝であろうと、その言葉、取り消してもらおう。」
「もう、あの娘ったら…………」
「メ、”メンフィルの次代の女帝”って事はもしかしてあの女の子って…………」
「―――はい。現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン皇帝陛下並びにその正妃であるカミーリ・マーシルン皇妃陛下の一人娘にしてリアンヌ分校長やリウイ・マーシルン前皇帝陛下にとっては孫娘にあたるリフィア・イリーナ・マーシルン皇女殿下です。」
「うん、そして私にとってはこの世界に来てからできた大切な家族である義姉さんの一人よ。」
「あの方があの”聖魔皇女”…………!」
「クク、猟兵王をあそこまで貶すなんてあのチビ皇女が初めてなんじゃねえのか?」
「フフ、ゼムリア大陸では最強の猟兵団の片翼を担う猟兵団の”王”すらも”たかが猟兵如き”と断言するとはさすがは”ゼムリア大陸真の覇者”と名高いメンフィルの次代の女帝たる器ですわね♪」
リフィアの発言にゼノとレオニダスがそれぞれ殺気を纏い始めている中無意識で”西風の旅団”に喧嘩を売るような発言をしたリフィアにエリゼは呆れた表情で頭を抱え、レオニダスの話を聞いてある事を察したユウナにアルティナとゲルドが説明し、リフィアの正体を知ったクルトは驚き、アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミュゼは微笑みながらリフィアを見つめた。
「――――確かに貴女の言う通り、警告もしたのですからこれ以上陛下達の貴重なお時間を取る必要はありませんね。猟兵王殿、できれば武人の一人として貴方とも手合わせをしたかったのですが、生憎私達は急いでいる上貴方にも”先約”はいますから、貴方の相手はその者に任せる事にします。」
「へえ…………?その口ぶりからすると、アンタ達にはまだ援軍が控えているのかい?」
リフィアの言葉を肯定した後に答えたリアンヌの説明を聞いて目を丸くしたルトガーが不敵な笑みを浮かべたその時!
「あらあら…………リウイ陛下がいる時点で私がいる事も想定していないなんて、一度は”この私に殺された事”によって判断力が鈍ったのかしら?」
揚陸艇の甲板から姿を現したラウマカール――――メンフィル帝国の大将軍たるファーミシルスがその場を跳躍して空を飛行して翼をはばたかせながらリアンヌの傍に着地した。
「あの翼の女は…………!」
「4年前の”リベールの異変”で団長を討ったメンフィル帝国の”大将軍”――――”空の覇者”ファーミシルス…………!」
「やれやれ…………俺のような年寄りをアンタのような強い美人が未だ覚えてくれているなんて、光栄だが…………生憎リターンマッチの約束をした覚えはないぜ?」
ファーミシルスの登場にゼノとレオニダスがそれぞれ血相を変えている中ルトガーは落ち着いた様子で溜息を吐いた後苦笑しながらファーミシルスに問いかけた。
「あら、この私がわざわざ”敵”である貴方の都合にあわしてあげるような甘い性格をしていると思ったのかしら?―――なんだったら、”ゼクトール”だったかしら?2年前の”七日戦役”時オルディスでやり合った”蒼の騎神”とかいう鉄屑のように、貴方ご自慢の鉄屑を呼んで乗り込む時間くらいは待ってあげても構わないわよ?」
「”騎神”を”鉄屑”扱いって、滅茶苦茶な人だよねー、”空の覇者”って。」
「だが、レン君の話ではファーミシルス大将軍閣下はかつてクロウが操縦していたオルディーネを単身生身で圧勝したという話だから、大将軍閣下にとっては”騎神”すらも大した障害ではないんだろうね。」
ファーミシルスが騎神を”鉄屑”扱いした事に、リィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミリアムは暢気な様子で呟き、アンゼリカは苦笑しながら呟いた。
「ハハ、一度アンタに殺られた身としては念の為にゼクトールを呼びたいところだが、生憎”雇い主”からは先月のクロスベルの件のようにこれ以上今後の計画の支障になりかねない”イレギュラー”は起こすなって念押しされているから、ゼクトールを呼ぶつもりはねぇよ。」
「……………………」
「だが、その代わりに我等が団長に加勢させてもらう。」
「団長やったら大概の相手は大丈夫やろうけど、相手がアンタやと話は別や…………もう2度とオレ達から団長は奪わせへんで。」
ルトガーは苦笑しながら何も反論せず黙り込んでいるジークフリードに視線を向けながら答え、レオニダスとゼノは厳しい表情でファーミシルスを睨んだ。
「ふふっ、ファーミったらモテモテね♪要塞にいる女騎士達は2年前に星見の塔でやりあっているし、こっちの方が面白そうだから私も手伝ってあげるわ♪」
「フン、余計な真似を。別に貴女の手は必要ないけど…………猟兵王は私の獲物だから、貴女はそれ以外の有象無象と戦っていなさい。」
前に出て自分に加勢する事を決めたカーリアンにファーミシルスは鼻を鳴らして答え
「――――マーリオン、セオビット!お前達はニーズヘッグの猟兵共を”殲滅”しろ。」
「リウイ様の…………仰せのままに…………!」
「フフ、久しぶりの”本物の戦場”、たっぷりと楽しませてもらうわ!」
リウイに召喚されたマーリオンとセオビットはそれぞれの武装を構え
「貴女達もマーリオンさん達を手伝ってあげて―――ペルル、アムドシアス、フィニリィ!」
「はーい!ここはボク達に任せて!」
「さあ、奏でようではないか!我らの美しき絆を!」
「うふふ、愚かな人間共に見せてあげましょう、”精霊女王”たるこの私の魔力を!」
「お主はファーミシルスとカーリアンに加勢せよ、ディアーネ!」
「クク、確かに黒い甲冑の雑魚共よりも、そこの傭兵共の方が少しは楽しませてもらえそうだな…………!」
更にプリネとリフィアもそれぞれが契約している使い魔達を召喚し、召喚された使い魔達はそれぞれ武装を構えた。
「俺達とリィン達を入り口の前に転移だ、ベテレーネ、エクリア、エヴリーヌ!」
「「はい!」」
「はーい!」
そしてリウイの指示によってペテレーネ達はそれぞれ転移魔術を発動して自分達ごとリウイ達やリィン達を要塞の入り口へと転移した。
「あ…………」
「転移魔術で先を阻んでいた”猟兵王”達を超えて要塞の入り口に…………」
「ふふっ、三人がかりとはいえ、この人数を一瞬で運ぶなんて、さすがはあのメンフィル帝国の魔術のエキスパートの方々ですわね♪」
「クク、まさかの裏技で向こうも呆気にとられただろうぜ。」
転移魔術によって一瞬で要塞の入り口の前に現れたユウナは呆け、クルトは驚き、ミュゼは微笑み、アッシュは口元に笑みを浮かべて背後にいる一瞬の出来事によって呆気に取られたルトガー達に視線を向け
「よし―――猟兵王達の事は大将軍閣下達に任せて俺達はこのまま要塞に突入だ!」
「おおっ!」
リィンの号令に力強く頷いた仲間達は要塞へと突入した。
「コラ待て!そんな反則技、アリかいな!?」
「”転移”によって裏をかかれるとは…………完全に油断していたな。」
後ろに振り向いて要塞へと突入するリィン達の様子を見たゼノは慌てた様子で声を上げ、レオニダスは重々しい口調で呟いた。
「クク…………ハハ…………ハハハハハッ!まさかあんな方法であっさりと”西風”と”ニーズヘッグ”の壁を超えられるとは英雄王達にはまんまと一本取られちまったな…………完全に予定が狂っちまったが、今回ばかりは俺達も久しぶりに”本気”を出さざるを得ないようだな。」
「…………これ以上の”イレギュラー”は”地精”は望んでいない。排除させてもらうぞ―――異世界のイレギュラー共。」
ルトガーは豪快に笑った後全身から凄まじい闘気を解放しながら自身の得物を構えて双銃を構えたジークフリードと共にファーミシルス達を見つめ、
「くっ…………”空の覇者”達と―――メンフィルとやり合うなんて、完全に契約外の為すぐにでも離脱をしたい所だが…………」
「先程の”英雄王”の指示からして、どうやら連中は俺達も逃がすつもりはないようだしな…………」
「何とか隙をついて離脱するぞ…………!」
ニーズヘッグの猟兵達はセオビット達と戦う事に内心不本意だったが、自分達を殲滅するつもりでいるセオビット達相手には離脱は容易ではない事を悟っていた為、それぞれ武装を構えた。
「さあ―――リウイ陛下達に歯向かう愚か者達に思い知らせてあげるわよ、メンフィルの”力”を!」
「おおっ!」
そしてファーミシルスの号令に力強く頷いた仲間達はそれぞれ戦闘を開始した―――!
後書き
という訳で3章最後のダンジョンはレーヴェ達とリアンヌだけでなくまさかのリウイ達までゲストパーティーインという超過剰戦力ですwwなお、リウイ達登場の際のBGMはVERITAの”覇道”で、”覇道”が3章最後のダンジョンのフィールドBGMで通常バトルBGMはVERITAの”我が旗の元に”だと思ってください♪
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