戦国異伝供書

「越後の長尾殿と共にです」
「このままいけばな」
「天下にその名を知られます」
「間違いなくな」
「ではあの御仁も」
「わしの家臣としたい」
　信長、彼もというのだ。
「是非な」
「そのうえで天下をとですか」
「考えておる、尾張も豊かな国であるしな」
「甲斐、信濃、越後、美濃、尾張の五国となりますと」
「それだけで三百万石にもなりじゃ」
「佐渡の金山も手に入り」
「そこまでになるとじゃ」
　まさにというのだ。
「当家は天下に号令出来るだけの力も得ておる」
「その時には」
「してあの二人じゃ」
　長尾景虎、そして織田信長というのだ。
「これで盤石となるわ」
「兄上が天下人になられることを」
「そうじゃ、だからまずはな」
「信濃ですな」
「あの国を手に入れるぞ」
「そしてその為に」
「我等は今力を蓄えておるのじゃ」
　甲斐を治めてというのだ。
「わかったな、では信濃についてじゃが」
「あの国をどう攻めるか」
「それも考えていこう」
「信濃の守護は小笠原家ですが」
　ここで山本が言ってきた。
「しかしです」
「それでもじゃな」
「小笠原家の力が及ぶのはその領地だけで」
「あの国は国人達の力が強い」
「諏訪家、木曽家、真田家、村上家と」
「その中で北の村上家が最も強いか」
「小笠原家と並んで」
　そうした状況だというのだ。
「ですから信濃を攻めるとなると」
「村上家と小笠原家じゃな」
「この二つの家、特にです」
「村上家か」
「あの家が一番の敵となりましょう」
　晴信が信濃を完全に手中に収めようと思うならというのだ。
「その領地にも強いこだわりがありますので」
「我等には降らぬか」
「こちらの風下にもです」
「降らぬとか」
「言うに違いありませぬ、ただ」
　ここで山本は晴信にこうも言った。
「木曽家は代々の領地があればよいという家なので」
「ではか」
「縁組等をしてです」
　そうしてというのだ。
「組み入れられは」
「ではそうしよう」
「そして真田家も領地があればいい様なので」
　この家もというのだ。
「組み入れていきましょう」
「ではな」
「兄上、諏訪家は」
　ここで信繁が言ってきた。
「どうも近頃です」
「我等に反発せんとしておるな」
「どうやら。ですから」
「諏訪殿をどうするか、か」
「我等にとっては妹婿ですが」
「あれは身体が弱いしのう」
　晴信は諏訪家に嫁いでいるその妹のことも話した、彼にとっては可愛い妹だけに気掛かりであるのだ。
「だからな」
「そのことも心配ですな」
「諏訪殿にはわしは手荒なことをするつもりはないが」
「諏訪殿が逆らわれるなら」
「その時はな」
「仕方ありませぬな」
「家のまとまりを考えるとじゃ」
　まさにというのだ。