ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第79話:Angel
戦艦の爆発の余波を受けて気絶したゼロだが、顔に水滴が落ちたことで意識を取り戻す。
「(ここは……?)」
見慣れない場所にゼロは体を満足に動かせないが、何とか周囲を見渡し、人影を発見した。
「(誰…だ……っ!?)」
一瞬ゼロは自分の視覚の機能がイカれたのかと思ってしまった。
目の前の人影には翼が…まるでルインがソニアに読み聞かせた物語に出てきた…。
「(天…使…?)」
人影は視線に気付いたのか振り返ると安堵の表情を浮かべた。
「良かった……気が付いたのね…ゼロ」
「アイリ…ス…?」
そう、ゼロの目の前にいたのはカーネルの妹で過去のイレイズ事件を共に解決に導いた仲間の1人の…アイリスであった。
一方でバイオラボラトリーに向かったエックスは螺旋階段を駆け登りながらメカニロイドを迎撃していた。
「ダブルチャージショット!!」
エックスはサードアーマーを身に纏いながら、メカニロイドにダブルチャージショットを放って破壊する。
エックスはただの調査だから必要ないと思っていたのだが、エイリアからは万が一に備えてと言われて装着したのだ。
こうして大量のメカニロイドが現れているのを見ると、エイリアの判断は正しかった訳だ。
『エックス、再調整したサードアーマーの使い心地はどうかしら?』
「良好だよ。これが無かったら大変だったかもしれない」
今まで臨時のオペレーターとしてエックスの戦いを見てきたエイリアは歴代のエックスの強化アーマーを復元しようとしてきたが、復元が今以上に不完全でオリジナルに性能が大きく劣る物だった。
しかし今までの努力が実を結んで今までのレプリカアーマーよりも再現度の高い物を用意してくれた。
必要ないのならそれに越したことはないのだが、今はただ感謝するだけだ。
「(ゼロ…君は今まで俺達を助けてくれた。だから今度は俺達が君を助ける番だ。ハンターベースは俺達が守るから君は安心して自分の道を進んでくれ)」
エックスはエアダッシュを駆使してメカニロイドの攻撃をかわしながら螺旋階段を抜け出した。
一方ゼロはアイリスと再会し、アイリスに様々なことを尋ねていた。
「アイリス…お前はこんなところで何をしているんだ…?レプリフォースのオペレーターのお前が…こんな急拵えの薄暗い所で…」
普通ならオペレーターであるはずのアイリスがこのような場所にいるなど不自然だ。
そう感じたゼロはアイリスに尋ねた。
「そうね、でもその前にあなたの修理をさせて」
アイリスがゼロの腕に触れながら言うと、ゼロは複雑な表情を浮かべる。
「俺は独自で行動しているとは言えイレギュラーハンターだ。もしこれがレプリフォース上層部の連中に知られたらいくらお前がカーネルの妹とは言え、ただでは済まないぞ」
「……そうね」
「………アイリス、お前もカーネル達の考えに賛同したのか?俺はあいつらのしたことが許せん。いくら住人を避難させたとは言え、今までの破壊活動で何百万ものライフラインを断ったんだぞ…確かに即イレギュラー認定したハンター側にも非はあるかもしれないが、あれでは人殺しと同じだ!!イレギュラー認定を受けても文句は言えんぞ!!」
「…………」
ゼロの怒声にアイリスは悲しげに俯くのみ、無言のアイリスにハッとなったゼロはばつが悪そうに顔を逸らした。
「…すまない、お前に当たっても仕方ないと言うのに……アイリス、カーネルの居場所を教えてくれ」
「………ごめんなさい」
「アイリス、お前のカーネルを思う気持ちは分かるが…カーネルを早く止めないと被害が…」
「違う…分からないの」
「え?」
「私はクーデターが本格的に始まる直前に仲間と一緒に軍を抜け出したから…」
「そうか……ん?」
アイリスもカーネルの居場所を知らないことに落胆するゼロだが、あることに気付いた。
「アイリス…お前、抜け出したって…まさかレプリフォースを脱走したのか…?」
「ええ、兄さんやお世話になった上官には本当に申し訳ないと思うけど…兄さん達の気持ちも分かるけれど、それだと人間とレプリロイドの共存の可能性が無くなってしまうから」
「そうか…お前は分かってくれたんだな…」
安堵したように深い溜め息を吐いたゼロにアイリスは苦笑しながら口を開いた。
「ゼロ、私ね…前は人間とレプリロイドの共存なんて不可能だと思っていたの」
「…そうか」
ある意味それは当然かもしれない。
ゼロも人間とレプリロイドの共存を信じるエックスを見ていても疑問を感じる時がある。
「でもね、ある時、ルインからルインの正体を聞かされた時、凄くびっくりしたわ。だってどこからどう見てもレプリロイドにしか見えないルインが元人間だってことに」
「そうだな、それが普通の反応だろう。」
今まで親しかった友人が元人間だと知れば普通に驚くだろう。
「最初はからかわれているんだって思ったけどルインは私の目を見て真っ直ぐに伝えていた。知ってる?ルインって嘘を吐く時、視線を逸らす癖があるの」
「知っている。俺もあいつとはそれなりに長い付き合いだからな」
「元人間だったルインが、エックスやエイリアさん。そしてゼロ達みんなと仲良くしているのを見ていたら、人間とレプリロイドの共存も有り得なくはないんじゃないかなと思えるようになったの」
ケインも人間とレプリロイドの共存を信じているが、ケインはレプリロイドを造った人物なので除外した。
「………そうか」
笑みを浮かべるゼロにアイリスも笑みを返すが、意を決してゼロに尋ねた。
「ねえ、ゼロ…兄さんと会って…どうするの…?」
「…………カーネルを止める」
少しの沈黙の後、ゼロはアイリスの問いに答えた。
「説得…出来る…?」
「分からん、出来れば対話で済ませたいが…あいつの頑固さは筋金入りだ…あいつの返答次第では戦闘になるかもしれん…」
「…………そう」
「だが…俺は…あいつを死なせたくない。知り合いをこれ以上失うのは…流石に嫌なんでな…」
ゼロの脳裏に浮かぶのは最初の大戦で死んだイーグリードとルインの死顔である。
ルインは帰ってこれたが、今でもあの時のことは忘れない。
「昔の俺は知り合いが死んでも大して動じなかった。しかし最初のシグマとの戦いでイーグリードやルインが死んだ時、俺の中で何かが失われたのを感じた。今なら分かる…あれは“悲しい”と言う感情なんだってな。情けない話だ。身近にいた友人を一気に失ってようやく失うことの恐怖が分かるなんてな」
「ゼロ……」
「…すまん、変な話を聞かせたな」
「いいえ、話してくれてありがとう。後少しで修理が終わるから…もうちょっと我慢を…」
アイリスが言い切る前にアイリスの仲間であろうレプリロイドが駆け込んできた。
「アイリス!!」
「どうしたの?」
「昨日収容した人の容態が…」
「直ぐに行くわ、ゼロ…」
「充分だ、これくらいなら後は自分で直せる。」
幸い両腕の修理は完了しているから後はフットパーツのみだ。
大した損傷ではないし、これくらいなら大丈夫だろう。
「行け、大事なことなんだろう?」
「ええ、ありがとうゼロ!!」
アイリスは礼を言うと、仲間と共に奥へ向かった。
「ふう…」
溜め息を吐くゼロ。
思っていたよりも気を張っていたようだ。
アイリスが残してくれた器具を使い、フットパーツを修理をする。
「………こんなものか」
フットパーツを修理したことで脚部は満足に動けるようになり、ゼロはゆっくりと立ち上がる。
「…アイリスは仲間と一緒に何をしているんだ?」
奥へと向かうと、そこではアイリス達が傷付いたレプリロイド達を修理していた。
「修理しているのか…ここにいる全員……敵…味方関係無く、傷付いた者達を……これがアイリス達の戦いなのか…」
ゼロは修理の邪魔にならないように静かに元の場所に戻ったのであった。
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