戦国異伝供書
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第三十三話 隻眼の男その十一
「降す、出来れば家臣としたいが」
「従わぬなら」
「それならばですな」
「滅ぼしますか」
「そのつもりじゃ、ではな」
まずはと言うのだった。
「まずは甲斐の政を行うぞ」
「してお館様」
山本がここで晴信に言ってきた。
「一つ申し上げたいことがあります」
「何じゃ」
「甲斐を治め信濃を手に入れるには当家はまだ人が足りませぬ」
「家臣がか」
「はい、ですから」
「よりか」
「優れた者を取り立て」
そのうえでというのだ。
「我等はです」
「甲斐を治めてじゃな」
「信濃にも入るべきです」
「では優れた者ならばか」
「そして心が確かなら」
その双方を備えていればというのだ。
「それがしの様な他の国の者でもです」
「用いるべきか」
「そう思いまする」
「そうじゃな、ではな」
「その様にですな」
「していこう、そしてな」
「甲斐を治めて」
「信濃に出るぞ、とかくまずはこの国じゃ」
甲斐だというのだ。
「このままでは駄目じゃ」
「それで政をですな」
「徹底的にしていくぞ」
「そうして豊かにしてですな」
「信濃を攻める地盤にもじゃ」
それにもというのだ。
「していく、ただ今川家と北条家じゃが」
「今川殿とは今は同盟を結んでいますし」
「北条家ともか」
「近いうちにです」
「仲を築いてか」
「そしてです」
そのうえでというのだ。
「同盟にまでです」
「間柄を深めていくか」
「お館様は東国に出ることは考えておられますな」
「信濃じゃ」
あくまでとだ、晴信は答えた。
「あの国じゃ、わしが見ておるのは」
「ではです」
「相模の北条家とはじゃな」
「争う理由がありませぬので」
「あちらにもないな」
「北条家は関東の制覇を考えていますが」
それでもとだ、山本は晴信に話した。
「甲斐には何の興味もありませぬ」
「それは今川家も同じじゃな」
「今川家は西に向かっておりまする」
駿河と遠江を治めるこの家はというのだ。
「三河を狙っておりまするが」
「やはり甲斐には興味がないな」
「ですから」
「両家と争う理由はないからか」
「誼を持っておくべきかと」
「わかった」
晴信は山本の策に確かな声で頷いた、そのうえで彼に言った。
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