徒然草

八十五．人の心

八十五．人の心
　人の心というものは素直ではありませんから嘘や偽りに満ちているものです。ですが生まれつきその心が素直な人がいないとも言い切れないものです。心が腐っている人というものは人の長所をあら探ししてそのうえで妬みます。もっと酷い人は優れた人を見るとここぞとばかりに毒づきます。欲張りだから小さな利益には目もくれずそのうえ嘘をついて人から崇め奉られていると。こんなことを言ったりします。愚かであるから優れた人の志もわからないのでこんな悪態をつくのですがこうした人間は死んでもわからないものです。人を欺いて小銭を巻き上げるだけで例え頭を打っても賢くなることはありません。
　狂った人の真似と称して車を待つ場所を走ればそのまま狂人になります。悪党の真似と称して人を殺せば本当にただの悪党です。よい馬はよい馬の真似をして駿馬になります。聖人を真似れば聖人になることができます。冗談でも賢者の道を進めばもうそれで賢者と言っても過言ではないのであります。何事も誰を模範とするのかどうかでそれで大きく変わっていきます。悪人を真似ればそれで悪人となりますし善人を真似れば善人となります。それならばいっそのこと善人を真似るべきではないでしょうか。人様の為にもなるのですし。


人の心　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　 ２００９・８・７