徒然草

八十二．羅の表紙は

八十二．羅の表紙は
　薄い布で作られた表紙はすぐに破れてしまうので困ったものですと誰かが言ったことです。その時筆者の友人である頓阿さんがさんが巻物は上下がぼろぼろになってしまってそのうえ軸の飾りが落ちると風格が出て来るものですと言ったことが実に立派でそれを聞いた時に思わず自分の顔を見上げてしまいました。また書物の一部や草子といったものが同じ体裁でないということもみっともないことだとよく言われますがこれについても弘融僧都が何でもかんでも全てのものを揃えるということは愚か者のすることである、揃っていない方が慎み深いと言ったことにも感動を覚えました。
　何でも完璧に仕上げることはかえってよくないことである。手をつけていない部分をありのままにしておく方が面白いし可能性も見出せる。皇居の改築の際も必ず造り残しをするのもその例であるということも誰かが言っていました。昔の偉人が書き残した文献でも文章がぬけているものが結構あります。何も完璧が最高にいいというわけでも常に最良であるということでもありません。思えば完璧なものは非常に少ないものです。完璧でないのならばそれはそれでいいというものではないでしょうか。何もかもが完璧ということも思えば風情がないものであります。完璧を追い求めなくともそれでいいのです。


羅の表紙は　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・８・４