魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第199話「集う者達」
前書き
200話でこの章を終わらせたいので、駆け足気味です。
なお、管理局も地球勢力も全然態勢が整っていませんので、どう足掻いても万全を期す事は出来ない状態です。
『優ちゃん聞こえる!?』
祈梨とグランツ達が話している時、優輝に葵からの念話が届く。
ちなみに、シュテル達との再会は軽く済ませ、今は大き目の部屋に皆で移動してある。
「『どうした?』」
『幽世の大門が消失しちゃった!』
「―――なに?」
切羽詰まっているのか、葵の言葉は簡潔に纏められていた。
それでも、優輝が声を漏らしてしまう程には驚愕の事実だった。
「どうしたの?」
「幽世の大門が、消失した」
「ええっ!?」
肉声で反応してしまったため、それに気づいた司達にも伝える事になったが、やはり葵の言葉をそのまま伝えると皆は驚いた。
「き、消えたって……」
「『消失したとはどういう事だ?』」
尤も、その言葉が示す意味がどういうものかは優輝にも分からない。
そのため、優輝も葵に聞き返す。
『大門の境界が、なくなったの。あたしも今から実際に見に行くから、詳しい事はまだ分からないよ。でも、鞍馬ちゃんが言っていたから嘘ではないと思う』
「『……つまり、表裏一体のはずの二つの世界が、繋がったと言う事か?』」
『その認識で間違ってないと思う。……とにかく、実際に見てからもう一度連絡するね』
「『いや、僕も行こう』」
優輝も実際に確認しようと思い、そう言って念話を切る。
「……葵が言うには、幽世との境界が消失したらしい。確認のために、僕も向かうつもりだが……」
「……境界に関しては、昨日優輝さんに説明した通りです。本体を通して、もう一人の分霊を貴方に付けましょう。私はここに残ります」
誰か来ないか?という、優輝の意思表示に祈梨が答える。
どうやら、祈梨はここに残るようだ。
「境界……じゃあ……」
「以前紫陽さんが言っていたように、混ざり合う事態にはなっていないみたいだ。とりあえず……念のため、アリサとすずか、それとアリシアはついてきてくれ」
「私達?」
なぜ自分達なのか、アリシアが聞き返す。
「霊術が関わっているからな。司や奏は……どうする?」
「そっちも気になるけど……」
「………」
司と奏が、視線でどちらかが行く事を決める。
そして、少しばかり見つめ合い……。
「私は行くわ」
「私は残るね」
司が残り、奏が同行する事にした。
「よし、じゃあ行くぞ」
行くメンバーが決まり、早速優輝が転移魔法で移動した。
「……司さんがあいつに同行しないなんて、珍しいな」
「そうかな?別行動はそれなりにしたことあるよ?」
優輝達が転移した後、帝が司に尋ねる。
「いや……だってさ、司さんはあいつの事―――」
「ッ―――!」
「―――あ、いや、何でもないです」
帝の言葉に、司が顔を赤くする。
直後、照れ隠しで何かされると思った帝は、すぐに言葉を呑み込む。
「……正直、私と奏ちゃん、どっちが行ってもいいんだけどね。でも、二人行く必要はないし……。奏ちゃんなら、即座に対応出来るし、こっちも万が一の時は私の天巫女の力が役立つかもしれないしね」
一応、司は自分が残った訳を話す。
エルトリアも流れ着いただけで、他の世界のように“未来の可能性”として消失するかもしれない。そのため、大多数を転移させるのに向いている司が残ったのだ。
「……色々、切羽詰まっているようだね」
「……はい」
話を終え、優輝の言葉も聞いていたグランツが口を開く。
「神界に関する話は聞いたけど、戦力がやはり必要なようだね」
「そうですね。……それも、質も量も足りないと思います」
グランツの言葉に、祈梨が気が滅入るような返事を返す。
「……何となく、分かってた事だけど……言葉にされると絶望的だな……」
「具体的な戦力は分からないのかい?」
「洗脳されたりもするので、なんとも。こちらの戦力が足りない事は分かっていますけど」
戦力が足りない。
その事実がとにかく司達の心に影を落としていた。
「僕達も協力しよう。僕自身は戦力にならないが、アミタやキリエ、ユーリ君達なら助けにはなれるはずだろう」
「はい。どれだけ助けになれるかは分かりませんが、私達も以前よりもかなり強くなっています。戦力にはなれると思いますよ」
両手で小さなガッツポーズを胸の前でして気合を示すユーリ。
その身からは、以前のような膨大な魔力は感じられない。
しかし、少し前から魔力の扱い方を磨いていた司達には分かっていた。
その体の奥底に、膨大な魔力が小さく圧縮され、渦巻いているのが。
「……シュテル達、もしかして私達より強く……?」
「さぁ、どうでしょうか?今のナノハは、私とは違う成長をしたようですから」
「分かるの?」
「はい」
なのは達とシュテル達でも、お互いに成長したのを一目で見抜いていた。
「オリジナルもだけど、アリシアもすっごく強くなってない?」
「うん。魔法とは違う力を手に入れたからね」
レヴィの場合、フェイトだけでなく、優輝について行ったアリシアも強くなっている事に気付いていた。
「小鴉、貴様も成長はしたようだが……それより、なんだあやつの様子は」
「あやつ?」
「知れた事。導王の生まれ変わりたる彼奴の事よ。……感情を失っているな?」
「王様、気づいてたん?」
ディアーチェは、優輝の今の状態すらも見抜いていた。
優輝は極力感情がある演技はしていたため、はやては見抜いていた事に驚いた。
「阿呆。我は闇統べる王ぞ。人を見る目が優れているのは当然の事」
「はぁ~、さすがやなぁ……」
「……で、どういう事だ?あやつがあんな状態になるなど……余程の事がなければあり得ぬぞ。あやつはそういう精神性だ」
立場こそユーリの従者という位置に落ち着いているが、王としてのカリスマや“統べる者”としての役割はディアーチェが担っている。
そのため、同じ王である優輝の事をある程度見抜いていた。
「気づいたなら、隠さなくてもいいね。実は―――」
司がその会話を聞いていたため、はやてに代わって説明する。
途轍もない強敵がいた事、その戦いの代償で感情を失った事。
細かい事は省き、感情を失った訳を説明した。
「―――と、言う事なの」
「……なるほど。互換性がないが……代償、か」
説明を聞き、腑に落ちない所はあるものの、ディアーチェは納得した。
「てっきりあやつの妹が……いや、この話はよそうか」
「緋雪ちゃんの事?確かに、あの時も……でも、そっちは大丈夫だよ」
緋雪の事で一時期優輝は大きく傷ついていた。
その時の事が影響しているとディアーチェは思っていたが、その事はもう乗り越えているのだと聞き、安心した。
「……以前見た時よりも、随分沈んでいますね」
「無自覚とはいえ、今まで人の心を搔き乱していたんだ。少し……いや、かなり人と接するのに苦手意識が出ている。……まぁ、あまり気にせずにいてくれると助かる」
ずっと口を挟まずにいた神夜には、アミタが声を掛けていた。
アミタとキリエも魅了には掛かっていたが、司の闇の欠片によって解除されてある。
魅了の期間も僅かだったため、神夜に対してあまり嫌悪感はなかった。
「ちょっ、な、なんだ……!?」
その時、帝の戸惑った声が響く。
その声を聴いた全員がそちらへと向いた。
「ゆ、ユーリ?どうしたというのだ?」
ディアーチェが驚きつつも尋ねる。
そこには、帝に迫るユーリの姿があった。
「……貴方から、サーラの魔力を感じます」
「さ、サーラ?……って、あっ、そう言えば……」
ふと、帝が思い出したようにポケットからあるものを取り出す。
それは、神夜が使っていたアロンダイトだった。
「アロンダイト!」
「うおっ」
それを見た瞬間、ユーリが凄い早さで奪い取った。
「ま、間違いないです。サーラの魔力が……」
アロンダイトからサーラの魔力が感じられるのが分かった途端、ユーリは魔力を練ってそれをアロンダイトに流し込む。
なのはがフェイトにやった事があるディバイドエナジーと同じ類の魔法だ。
「……帝君?いつの間に……」
「あー、言い出すタイミングがなかったんだが、この前のあいつとの戦いでな」
どういう事なのかと、司が帝に問い質す。
しかし、帝が答える途中で、先にアロンダイトに変化が訪れた。
『―――お久しぶりです。ユーリ』
声が発せられると同時に、アロンダイトから光の玉が現れ、人の姿を形作る。
「ッ……!サーラ……!」
「……言ったでしょう?“必ず貴女の下へ戻る”と」
御伽噺において、“最強の騎士”と謳われたサーラ・ラクレスが、今ここに復活した。
その事に、ユーリは感極まってサーラに抱き着く。
「また会えました……!」
「はい。……貴女も、息災なようで」
サーラも抱き締め返し、ここに感動の再会となった。
「……まぁ、つまりだ。ずっとあのデバイスの中にいたんだよ」
「そっか。記憶が戻った今なら覚えがあるよ。当時は三人がかりでも敵わなかったユーリちゃんに、一人で戦える程の強さを持っていたっけ?」
「知っているのか?」
その一方で、邪魔しないようにサーラについて帝が軽く説明する。
直接会った訳ではないが、映像越しに司はサーラを知っていたので、すぐに理解した。
「当時の帝君は気絶してたけど、私は一応ね……」
「……にしても、やっぱ“原作”と全然違うな……」
普通に違うと理解しているとはいえ、やはり明確な違いを見せられ、帝は呟くようにそんな感想を漏らしていた。
「でも、私もあの人についてよく知らないんだよね」
「……俺もだ。少し話しただけだったしな」
サーラについて、司も帝も大して知らない。
司は映像越しにユーリと戦っている所を、帝はアロンダイトに魂を入れていた事は知っていたが、他はまるで知らないのだ。
「それについては、私が説明しましょう。当人達は、再会でそれどころじゃないようですしね」
「わっ、シュテルちゃん」
そこへ、シュテルがやってきて説明してくれる。
どうやら、司や帝だけでなく、なのは達も気にしていたようで、皆集まっていた。
「ユーリは遥か昔……貴女達の時代から見て1000年以上前に存在した国の王女でした。彼女、サーラ・ラクレスはそんなユーリの騎士だったのです」
「……って事は、ガチの王族なのか!?ユーリは!」
「さっきの自己紹介でも言っていたようだけど……」
「まぁ、そうなりますね。尤も、ユーリは自他共に認める程に性格が王族に向いていませんが……だからこそ、サーラは騎士として慕っていたようです」
まさかの由緒正しい王族だと知り、帝は驚く。
一応自己紹介の時にも言っていたのだが、改めて言われると衝撃だった。
「サーラは当時数いる騎士達の中でも頭一つ抜けた強さを持っていました。……ユーリ曰く、サーラ以外の騎士の総戦力よりも強い、と」
「……もしかして、アインスが言っていた“最強の騎士”って、彼女の事なん?」
「どうでしょうか?ユーリが覚えている限りでは、確かに最強なようですが」
はやてが以前に聞いた事がある“最強の騎士”なのか尋ねる。
しかし、シュテルも伝え聞いただけなので、詳しくは知らなかった。
「合っていますよ」
「えっ?」
「サーラさんはベルカの御伽噺でも伝えられる“忠義の騎士”であり、同時に最強と言える騎士でもあります」
代わりに、祈梨が会話に混ざってきて答えた。
「……知っているのですか?」
「神界の神ですから。大体の事は把握していますよ」
祈梨はこの世界の外の存在だ。
そのため、この世界を俯瞰した立場で見る事も出来るため、歴史も知っていた。
ついでに言えば、神界なら他の世界のアカシックレコードに触れる事すらできる。
尤も、祈梨含めたほとんどの神は、必要な知識のみしかアカシックレコードで他世界の情報を得る事はないが。
「勝てるかどうかはともかく、彼女なら大門の守護者と単身で戦えると言えば、最強と呼べるのも納得できるでしょう?」
「……そりゃ強い訳だ」
最近戦った相手を比較対象に出され、帝達はサーラの強さを理解する。
「……彼女に関してはこれでいいでしょう。問題なのは……」
「……今集められる戦力を結集させても、勝てない可能性が高い……か?」
「そうですね……」
今までであれば、大門の守護者と単身で戦える事や、ユーリ達の戦力は相当の物と言えただろう。……しかし、今度の相手は神なのだ。
さすがに神々相手では、これでも全然心許ないと帝も思っていた。
「それでも、出来る限りの戦力を以って抗うしかないよ。……多分、私達にはもう、その道しか残されていないから」
「………そう、だな……」
何人かは、事情を聞いても何とかなると思っているかもしれない。
しかし、帝や司、一部の者は何となく悟っていた。
“勝てる気がしない”と。
「連携の事も考えると、一度お互いの力量を測っておく必要があるね。猶予がまだあるのなら、トレーニングルームで模擬戦をしないかい?」
「断る理由はないなぁ」
「……付け焼刃の連携でも、知らないよりはマシか」
少しでもお互いの力を知っていれば、多数での戦いで上手く動ける。
何より、神々と言う複数の格上相手なら、連携が取れなければ話にならない。
ただでさえ絶望的な戦力差を何とかするため、少しでも戦力向上を計る事にした。
「葵」
「っと、優ちゃん……と、そっか。司ちゃん以外の霊術が使える皆を連れてきたんだね」
「それと、分霊ですが私もいます」
「わっ」
一方、優輝の方では。
大門に向かって鞍馬達と走る葵に合流した。
ほぼ同時に祈梨のもう一人の分霊も合流してきた。
「……ふと思ったが、分霊を何人も作って負担はないのか?」
「ない訳ではありません。しかし、そんな大きな負担もないので……。……神界の法則は、意志の持ちようが重要視されますからね」
分霊を作るというのは、本来は自分の力を分割して作り出す。
そのため、負担はないのかと優輝は思っていた。
しかし、返って来た返答はさらに気になるワードを含んでいた。
「……神界の法則、後で聞かせてもらうぞ。今聞いたのが僕の解釈通りなら、絶望的な戦力差を覆すきっかけになるかもしれないからな」
「……そうですね。ですが、まずは……」
気になる事は一度後回しにし、大門に辿り着いたためにそちらに注目する。
大門があったはずの場所は、黒い靄の穴になっていた。
穴の縁となっている靄の部分を、人魂が回っている。
「……これが話にあった……」
「穴……いや、道になっているのか」
穴の大きさは、人一人が簡単に通れる程には大きい。
その証を示すように、直後に穴から気配を感じ取った。
「この気配は……!」
「とこよちゃん!?」
「あ、やっぱり来てたんだ」
穴から現れたのはとこよだった。
優輝達……と言うより、誰かが調査に来ることは予想していたようだ。
「とこよも大門の調査に?」
「うん。……あ、今の私は式神に意識を移しているから、実際に出てきた訳じゃないよ?」
「そう……」
大門の異常が原因で、とこよが出てこられたと思った鈴。
しかし、実際は式神を限定的に現世に送っていただけだった。
「そっちの人は……初めましてだね。……もしかして、この状況について何か知っているのかな?そうだとするなら教えてほしいかな?」
「……さすがは大門の守護者、佇まいのみでかなり見抜いてきましたね」
「逆だよ。佇まい以外、何も読み取れなかった。だから、“普通じゃない”と思ったんだよ」
とこよは祈梨を見た時、その身に宿す霊力を探ろうとした。
しかし、感じ取れたのは理力によって見せかけられた仮の霊力のみ。
それ以外は全く分からなかったため、逆に普通じゃないと思ったのだ。
「……そういう所も以前とは見違えたわね。とこよ」
「幽世で色々してたからね。……で、大門についてだけど……紫陽ちゃんが危惧していたような事は起きないと思う」
紫陽が言っていた事……つまり、現世と幽世の融合などの事だ。
「現状は、特に悪影響はないよ。……ただ、幽世の瘴気が少し漏れてる。そこまで濃くはないけど、対策もなしにここに近づく事は出来ないよ」
「と言う事は、一般人は近づけない……と言う程度か?」
「そうなるね」
それだけなら、大した事はないだろう。
むしろ、無闇に手を出されない利点もあった。
「利点は……現世も幽世も、お互いの世界の存在が介入しても、抑止力があまり働かなくなってる事だね」
「抑止……?それはどういう……?」
奏が詳しく尋ねる。今の言葉だけでは、分からないのも無理はない。
「具体的な事で例えるなら……幽世の存在……例えば私や……緋雪ちゃんとか。そんな存在が現世に滞在しやすくなるって所かな?」
「っ……!」
具体的な例をとこよが言う。
その中にあった、緋雪の名に優輝は僅かに反応する。
「(……やっぱり、雪ちゃんの事なら、優ちゃんの感情に揺さぶりを掛けられる……。再会出来たら、もしかして……)」
その反応を、葵は見逃さなかった。
やはり、優輝が大切にしていた緋雪ならばと、密かに期待が上がる。
「こうして、私がこっちに滞在するのも、本来は一日も持たないはず。だけど、今は最低でも一日は留まれるようになっているよ。それこそ、現世に結び付ける何かがあれば、ずっと現世にいる事も可能だね」
「結び付ける……縁とか、型紙……?」
「うん。……例えば、紫陽ちゃんなら、葉月ちゃん自身が縁のある存在だから、それを媒介して式姫として召喚出来るよ」
普通の式姫は、一度幽世に還ると式姫としての形を崩してしまう。
とこよの式姫だった者達は、幽世に還ると同時にとこよによって形を崩す事なく再び式姫として存在しているが、普通は式姫としての自我もなくなるのだ。
対し、とこよや紫陽、緋雪やその他流れ着いた人達は、確固たる形を保ったままだ。
形ない存在を型紙という“型”に嵌めて召喚する式姫と違い、形ある存在を幽世から現世……またはその逆に召喚する場合、何かしらの制限が付く。
大抵は力か時間に制限で、緋雪の場合は時間だった。
その制限が今は緩み、さらには強い縁がある存在を媒介すれば式姫と同じ条件で現世に留まる事が可能になっているのだ。
「会いたい時に会いやすくなるのね。……今の状況を考えると、戦力も増えて万々歳ね」
「……そっか。何か情報を掴んだんだね?最近の異常事態に関する」
「私が説明しましょう」
グランツ達に話したように、祈梨が説明する。
とこよは二つ返事で協力を了承し、一度幽世に戻っていった。
……後日、紫陽や緋雪と共に召喚してもらう事を決めて。
「帰りがてら聞かせてくれ。神界の法則とはなんだ?」
「元々説明する予定でしたが……まぁ、知っておいた方がいいでしょう」
その日は、一度解散となった。
なのは達子供組や、司達転生者組も帰路に就き、優輝も家に戻っていた。
葵や椿はまだそれぞれの場所に留まっており、優香と光輝も戻っていない。
また優輝は祈梨と二人きりだった。
ちなみに、分霊の祈梨は一度本体に戻り、改めて優輝の所に来た。
そして今、大門に向かっていた時に発言していた事を聞いていた。
「神界の法則は、厄介ではありますが、同時に貴方達が勝利出来るカギにもなります」
「カギ、か………」
「神界では、“死”の概念がありません。他の世界の法則の外ですから、“死”と言う法則がないのです」
今まで、優輝達も何度か領域外と感じていた神界の存在の力。
その感覚は間違いではなく、文字通り領域外だったのだ。
「となると、倒す事は……」
「はい。本来なら他世界の存在は私達を倒せません。同じ神界の者でない限りは」
その言葉をそのまま受け取ったならば、優輝達に勝ち目はない。
しかし、わざわざそう言うのなら何かあると、優輝は考えた。
「ですが、そこは私の力で皆さんを同じ条件に持っていきます」
「なるほどな。僕らも神界の法則に則る訳か。だけど、どうやって倒すんだ?」
同じ条件であれば、一方的ではなくなるだろう。
だがそれは同じ土俵に立っただけで、倒す方法は分かっていない。
「神界は、主に意志や概念と言った、抽象的な“想い”が元になっています。私は違いますが、中には他世界の人々の“こうあって欲しい”と言う想いをそのまま形にしたような神もいます。……そう言った“想い”が、神界では全てです」
「“想い”か……」
抽象的な表現だが、それ以外に表現しようがない。
何せ、法則そのものが抽象的なものとなっているのだから。
「“想い”があれば、限界を超えて力を行使する事も可能です。あらゆる法則が“想い”によって左右されます。……つまり……」
「“想い”の強さで神々を超えれば、勝てる訳か」
祈梨の言いたい事を理解した優輝が、先取りして言う。
「だが、簡単ではない」
「はい。……飽くまで、“勝てるかもしれない”だけです。ちなみに、倒す方法を言ってませんでしたが、そちらは相手の勝つ“想い”を挫けばいいだけです。そうすれば、気絶と同じように意識を奪う事も出来ますから」
飽くまで可能性があるだけだ。
相手は神々。“想い”の強さでそう簡単に勝てる程甘くはない。
そして、祈梨の言う想いをそのまま形にした神の中には、勝利する想いを形にした神もいる。……そんな神の“想い”を挫くとなれば……不可能に近い。
「………そうか……」
「神界の法則については、翌日にでも皆さんにも話しておきます」
神界の法則に関する話はそこで終わる。
そこで、ふと優輝は気になった事を思い出し、尋ねる。
「……奏やなのはがいないから、今の内に尋ねるが……」
「なんでしょう?」
「この“■■”の部分、この“■■”に入るのは……邪神で間違いないか?一応聞いておきたい」
リヒトに記録してある神夜のステータスを見せつつ、優輝は聞く。
既に邪神イリスが洗脳を使う事から予想はしていた。
「……そうでしょうね」
「そうか。まぁ、確認したかっただけだ」
予想通りだったため、話はそこで終わる。
「……おや?」
「どうした?」
少しして、祈梨が何かに気付く。
「どうやら、ソレラさんが目覚めたようです」
「気配……は、僕だと感じなかったな」
未だ眠っていたソレラが目覚めたと祈梨は言う。
なお、ソレラも神界の神なので、優輝が気配で気づく事は出来ていなかった。
「彼女にも、色々と説明しませんと」
「そうだな」
祈梨はそう言って、ソレラのいる部屋に向かう。
優輝も付き添いとして同行した。
後書き
皆が皆、怒涛の展開に頭が一杯一杯です。作者も話を纏めるのに頭が一杯です(´・ω・`)
唯一感情がない優輝が、冷静に動いています。
そのため、皆が失念している事(今回の■■の正体など)を忘れずに聞いています。
神界の法則は優輝達が勝ちの目を見出せる唯一のチャンスです。
これがカギとなってきます(多分)。
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