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戦国異伝供書

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第三十二話 青から赤と黒へその八

「関東管領である上杉家を攻めるとは何たることかと」
「貴殿は少し頭が古かった」
 北条氏康が謙信にとうかという顔で返した。
「室町の幕府はもうじゃ」
「権威がなくなっていたというのですね」
「そして関東管領である上杉家も」
「ですが秩序は秩序」
 それは絶対だとだ、謙信も言うのだった。
「守らねば天下に正義はありませぬ」
「だからであったな」
「わたくしは信玄殿も貴殿も許せなかったのです」
「やれやれであるな」
「今は考えは違いますが」 
 織田家の下で大名となった今はというのだ。
「しかしです」
「あの頃はじゃな」
「そうした考えであり」
 それでというのだ。
「戦った次第です」
「そうであったな」
「戦いそして」
「幕府の秩序を蘇らさんとしたか」
「東国において」
 これが謙信の戦であったのだ。
「関東管領ともなりましたし」
「上杉家を継いでな」
「それ故に」
「わしは甲斐であったがな」 
 甲斐はまだ西国にあたる、信玄はこのことから述べた。
「それでもであるな」
「はい、貴殿こそ最も許せぬと思い」
「幾度も川中島まで来た」
「そうです、しかし許せぬと思いながらも」
 それでもとだ、謙信は信玄に語るのだった。
「実はわたくしは一度もです」
「わしを嫌いではなかったのじゃな」
「そうです」
 その時から今に至るまでというのだ。
「実は」
「そう言われるとな」
「貴殿もですな」
「古いとか現実を見ておらぬとかな」
「その様にですな」
「貴殿を思っておったが」
 それでもというのだ。
「実はな」
「嫌いではありませんでしたか」
「嫌いだと思っておったが」
 それでもというのだ。
「実はな、後でわかったが」
「嫌いではなかったのですね」
「どうもな」
「それはわたくしも同じこと。貴殿を嫌いだと思っていました」
 当初の謙信はというのだ。
「しかしです」
「それはじゃな」
「違いました、実はです」
「嫌っておらず」
「何処か惹かれておりました」
「わしもじゃ、殿についてもじゃな」
「ははは、確かに」
 謙信は信玄の今の言葉に笑って返した。
「殿にも幕府を倒す等です」
「この世の秩序を乱すじゃな」
「そうした方だと思って」
 それでだったのだ。
「戦を挑みました」
「わしは天下を賭けてじゃ」
 信玄も自分が何故織田家と戦ったのかを話した。
「そのうえで戦ったが」
「惹かれてもいましたな」
「殿の器にな」
 実際にというのだ。
「そうであった」
「わたくしもでした」
「それを言うとわしも同じ、どうもな」
 氏康も言うのだった。
「殿のお話を東国で聞いてな」
「気になっていましたな」
「うむ、東国ぬ来ればどうなるかと思いつつ」
 それでもだったのだ。 
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