魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第198話「繋がる世界」
前書き
また原作キャラの影が薄くなってる……。
確信めいた優輝の発言から、どちらも無言になる。
空気は張り詰めたものになり、第三者がいたならば息を呑む程の雰囲気だった。
「………」
「………」
しばらく、優輝と祈梨が見つめ合う。
疑念の籠った優輝の視線から、祈梨は目を離さない。
「……隠し通したつもりだったんですが……」
「僕に感情が残っていれば、隠し通せただろうな。でも、ない今ならその分目の動きの観察に意識を割ける」
事実、感情があれば優輝は気づいていなかった。
祈梨の様子や話している内容に僅かにでも気を取られ、目に込められた意思に気付く事は出来なくなっていたのだろうから。
「さて、何を隠していたんだ?」
「……どれから説明すべきでしょうか……」
どうやら、隠している事は複数あるようで、祈梨は少し考えこむ。
「ではまず、奏さんに関する事から説明しますね」
すぐに決断し、祈梨は説明を始める。
「既に、貴方は知っているかと思いますが、奏さん……そしてなのはさんの中には“天使”が宿っています」
「……そういえば、その“天使”は以前の襲撃者に干渉出来ていたな」
「はい。あの時の“人形”も理力で創られており、普通は干渉出来ません。しかし、神界の神の眷属……本来は呼称はないのですが、他の世界に倣って“天使”と呼んでいます。その“天使”ならば、同じように理力を扱えるのです」
「………」
仮の呼称だったが、実際は的を得た呼称だった。
その事に優輝は僅かながらに驚く。
「なぜ、奏やなのはに“天使”が?」
「正しくは“天使”の名残がある。と、言うべきですね。なぜなのかは……おそらく、二人共“天使”の転生体なのでしょう」
さらりと重要な情報を言う祈梨。
ここに本人達がいれば大きく驚いていただろう。
「ただ、普段はお二人の人格しか存在しません。単に“転生体”というだけであって、その“天使”そのものと二人は別存在です。多少の影響はあるかもしれませんが、余程の事がない限り、悪影響と言える事は起きないでしょう」
「……だとしたら、僕が大門の守護者と戦っている時……そして“人形”だったか?あの男が襲撃した時、なぜお二人の中の“天使”が目覚めたんだ?」
“普段は”と言う言葉から、優輝は既に普通ではない事が起きたのは理解していた。
しかし、具体的な事が知りたいため、深入りするように問い質す。
「“天使”が目を覚ますのは……すみません、私にもよく分かっていません。何せ、事例はその二回だけです。そもそも、“天使”が自分の記憶や力などない状態で転生するというのは、今まで一度しかありませんから……」
「そうか……」
“天使”が転生する。と言う事自体はない訳ではない。
他世界の様子を見るため、その世界の存在に転生する事はある。
だが、その場合は記憶も力もそのままだ。
奏やなのはのように、転生体の自覚がない事はない。
その世界に合わせて力が削がれることはあっても、そのような事は起きないのだ。
「一応、その唯一一度起きた転生が、今の奏さんとなのはさんになっているというのは分かっています。……しかし、その転生はもはや転生とは言えない事例なので……」
「どういう事だ?」
「ほぼ力尽きて消滅したも同然だったからです。主である神の後を追うように……。ですから、お二人を見つけるまで、私も転生しているとは思っていませんでしたから」
以前にあった神界の戦いで、その“天使”二人は力を使い果たしていた。
そして、主である神が消滅し、その後を追うように“天使”二人も消えたのだ。
普段の“天使”の転生と違い、消滅してしまったので、祈梨も予測出来ていなかった。
「現在、お二人に関して全て分かっている訳ではありません。“天使”は理力で構成された存在ですので、神界との戦いで目覚めるかもしれないと……」
「それで、懸念していたのか」
「はい」
納得の行く理由だった。
祈梨にすら、先が分からないのだ。
気にしてもおかしくはない事だった。
「次は……司さんに関する事ですね。……と言っても、単純に私が司さんを転生させたために、気にしていただけですが……」
「司が似ているのも関係しているだろう?」
「気づいていましたか」
祈梨の言葉をさらに切り込んでいく優輝。
祈梨が目を覚ます前、司が祈梨に似ていると気づいた時点で、優輝だけでなくその場にいた全員が、祈梨と何か関係があるとは思っていた。
そのため、今優輝が踏み込んで尋ねていた。
「ただ容姿が似ている訳じゃない。雰囲気……それも、天巫女として似ていると思っていたからな。それに、司の祈りに反応して目を覚ましたしな」
「はい。天巫女の力は私の神としての力に似ています。……その事も気にしていた理由の一つですね。尤も、一番大きいのはやはり私が転生させたためですが」
「そうか……」
大した理由ではなかった。
ただ単に、司が自分に似ている要素があったために、気にしていただけだった。
優輝が深読みしすぎただけに過ぎなかったのだ。
「最後に、貴方に視線を向けていた訳ですが……」
「………」
改めて祈梨と向き直り、優輝は言葉を待つ。
「貴方に“可能性”を感じた。それが理由です」
「“可能性”……か」
前者二つの理由と違い、一言。
あまりに簡潔に纏められた理由だったが、それ故に優輝はそれだけではないと、その“可能性”の一言にこそ重要な理由が込められていると即座に理解した。
「貴方は人の身でありながら、あり得ない程の“可能性”を秘めています。王の才能がないのにも関わらず国を保ち、天才的な強さではないのに強者であり続けました」
「………」
導王の事を知っている事に、優輝は驚かない。
相手は神だ。前々世の事を知っていてもおかしくはない。
「そして、今の人生でも。貴方は幼い身でありながら、かつての力を発揮し、さらには他の世界の法則を当てはめる事により、“受肉した英霊”と言う存在に昇華しました。……どれも、普通はありえない事です」
「……そうだな」
あり得ない、なんてものじゃない。
どんな逆境下でも諦めないのは、確かに美徳と呼べるものではある。
しかし、実際にそこから逆転するというのは、奇跡でしかない。
それと似た事を、優輝は何度も成しているのだ。
……それを異常と言わず、何という。
「貴方のその“可能性”は因果すら覆します。そして、それは神界に手が届く程……。貴方が無理矢理とはいえ“格”を上げる事が出来たのも、それが原因です」
「だから、気になる訳か」
自身の素質のようなもの。
それが異常なものなら、注目するのもおかしくはない。
椿の本体である草祖草野姫も優輝に注目していたのだ。
優輝にとっては、今更注目されても驚く事ではなかった。
「……以上が、貴方が気にしていた私の視線の理由です」
「……なるほど……な」
奏の内に宿る存在は、優輝も気になっていた。
そのため、訳を聞くのと同時にその事が判明したのは良かった。
「……最後に、もう一つ聞かせてくれ」
「何でしょうか?」
「僕らが今まで調べてきた情報を纏めると、一連の不可解な事件は何者か……神界の邪神が僕を目当てに仕掛けてきた事となっている。なぜ、僕を狙っているんだ?やはり、今言った“可能性”が関わっているのか?」
“人形”の襲撃者も、“エラトマの箱”も、優輝が少なからず関係していた。
明らかに優輝に対して何かの目的があったのだ。
祈梨の話を聞いて、今ここで尋ねておいた方が無難だと思い、優輝は尋ねた。
「……そうですね。どのような思惑なのか、私にも分かりませんが……おそらくは貴方の“可能性”が関わっていると見ていいでしょう」
「……そうか」
祈梨も詳しくは知らなかった。
知っている範囲の情報は、優輝にとっても予想出来ていた事だった。
「時間を割いてもらってありがとう。……僕はこれから出来る限り情報を拡散してくる」
「分かりました。私は回復に専念しておきます。……まだ、全快した訳じゃないので」
「分かった」
すぐに次の行動に移行する。
優輝はとにかく出来る限り情報を拡散させ、浸透させる。
祈梨は、未だに戦闘のダメージが残る体を癒すために安静に。
猶予はそう多くない。そのために、僅かな時間も有効活用するために動く。
「……………」
そして、祈梨と別れた優輝は、宣言した通りに行動しながら、別の事を考えていた。
その内容は、先程までの祈梨との会話だ。
「(……まだ、何か隠している。嘘は言っていなかった。しかし、だからと言って“全部”言っていた訳じゃない)」
そう。優輝は祈梨が言っていた事はまだその先があると睨んでいた。
「(奏となのはの事も、司の事も、僕の事も。……全部、ピースが一つ以上は足りない)」
まだ何か秘密を知っている。
優輝は会話内容からほぼそう確信していた。
「(……奏となのはが“天使”の転生体で、何がきっかけでどうなるかは分からない。これは全部包み隠さず言っていただろう。……だが、それにしては、注目しすぎている気がする)」
消滅したと思われた“天使”の転生体。
確かにそれは珍しいだろう。だがそれだけだ。
今の状況では、気にはしてもそれが露骨になることはない。
「(……そうだ。三つとも、全部情報以上に気にしていた。全部が全部、同じぐらいには注目していた。……ほぼ隠し通していたから、確定情報とは言えないが……)」
優輝への注目はともかく、司への関心はそれこそ今の状況ではそこまで気にするような事ではないはずなのだ。
だと言うのに、祈梨は気にしていた。
「(………いや、今気にしすぎていても仕方がない。今は今出来る事をやり遂げるだけだ。もしかしたら、気づかない方が得となる情報かもしれないからな)」
思考が深みに入りそうな所で、優輝は切り替えた。
正しく今はそれどころじゃない。
そのために、優輝は今行っている行動を手早く遂行した。
「……3……2……1、来ます!!」
翌日、再び優輝の家には人が集まっていた。
今度は、優輝達転生者だけでなく、なのはやフェイトなど、他の事を優先している大人を除いた集まれる子供達全員が集まっていた。
「ッ―――!」
祈梨の言葉と共に、次元震が地球を襲う。
尤も、その被害は大して大きくない。
地球にとっても、ちょっとした地震でしかない。
「……これで、時空間を漂流していた存在が今の時間軸に漂着したのか」
「そのはずです」
ジェイルから優輝を通して祈梨が調べた時間漂流物は、既に話は行き届いている。
昨日の内に、通信を通して皆には話しておいたのだ。
「えっと、未来から流れ着いてきたんだよね?一体、どんな……」
「行ってみない事には分かりません。皆さん、万全を期すためにも私が転移を行います。一か所に固まってください」
なのはの疑問にそう答えつつ、祈梨が率先して転移の準備をする。
「では、行きますよ!」
その瞬間、一瞬にして優輝達は転移した。
……一方。
「っ………皆、無事かい……?」
「は、はい。何とか……」
時空間を漂流していた存在、エルトリア。
そこにある一つの研究所で、グランツが皆の無事を確認していた。
「……念のため、キリエとアミタは研究所外の様子を見てきてくれ。ユーリ君達は機材に異常がないか……後、時空間も大丈夫か確認してほしい」
「任せてください!」
「そっちは任せたわよ」
「はい!」
すぐさま現状の確認をするため、手分けする。
そして、アミタとキリエの二人が研究所の外に出たところで……。
「―――着きました」
「こ、これが理力の転移……」
「早すぎて前動作が分からなかった……!」
祈梨の転移によって、優輝達が二人の目の前に現れた。
「なのは、フェイト。驚くのもいいけど……」
「今は目の前の事、だよ」
転移の早さに驚いていたなのはとフェイトに、アリサとすずかが声を掛ける。
すぐに二人は気を取り直し……アミタとキリエに気付く。
「あ、貴方達は……!」
「え、えっと……?」
「どうしてここに!?」
キリエ、アミタの順に驚いて声を上げる。
しかし、肝心のなのは達は疑問符を浮かべる。
「なに?知り合いなの?」
「そ、そういう訳、じゃ……」
アリサが知り合いなのか尋ね、それをなのはが否定しようとして……止まる。
同じように、アリサとすずか以外の全員が、驚いたように固まっていた。
同時に、優輝達の頭の中に、何かが砕けるような音が聞こえ……。
「ああああ!アミタさんとキリエさん!?」
「え、嘘。どうしてここにいるん!?」
なのはとはやてが驚きの声を上げた。
「えっと、これって……?」
「当事者に会った事で、記憶の封印処理が解けたみたいだな」
一方で、司や優輝は冷静に分析していた。
頭の中に響いた音は、封印処理の術式が砕けた音だった。
「え、あたし達が知らない間に事件があったの?」
「あー、えっと、結構複雑な事件だから、記憶を封印してたんだ。三年生の二月頃だったかな?あの時にね。……アリサとすずかは魔法を知っていても巻き込まれなかったから、知らないのも無理はないよ」
「そうなんだ……」
唯一蚊帳の外になるアリサとすずか。
祈梨も一応無関係なのだが、彼女の場合は神界から観測していたので知っていた。
「落ち着け、皆。ただ時空間を漂流している存在がエルトリアだっただけだ」
「それでも驚くものは驚くよ……」
記憶封印が解けた事と、未来から来た存在ががっつり自分達と関わりのある存在だったので、こうなってしまうのも仕方ないだろう。
しかし、それはそれとして話が進まないため、アミタとキリエに向き直る。
「……貴方達がいるって事は、博士の試みは上手く行ったみたいね」
「試み……?どういう事なんだ?」
エルトリア側でも何かしていた事に気づき、優輝が尋ねる。
「詳しくは博士に聞いてください。私達は周辺の調査をするので」
「あの、エルトリアって事はもしかして……」
「はい。ユーリやシュテル達もいますよ」
なのはがふと気づき、尋ねる。
そして居る事をアミタが肯定し、なのは、フェイト、はやては嬉しそうにする。
「……とりあえず、私達は研究所に行こうか」
「情報交換は必要だからな」
アミタとキリエとは別れ、そのまま優輝達は研究所へと入る。
環境や住まう住民の関係で、研究所にしてはセキュリティが甘く作られていた。
尤も、それでも現代と比べて遥かに優れたセキュリティなため、足止めを食らう。
「ふむ……」
「どうするんだ?今から二人を追いかけて入り方でも聞くか?」
「いや、その必要はなさそうだ」
解析するか、帝が言ったように追いかけて聞くか、強引に突破するか。
そのどれかの手段を取ろうとして、その必要はないと優輝が言った。
『そう畏まる必要はない。入ってきて構わないよ。僕らのいる場所には案内に従ってくれると辿り着けるよ』
「……との事だ。行くぞ」
研究所の扉が、通信越しの声と共に開く。
何てことはない。グランツが防犯カメラを通して優輝達を確認し、セキュリティを解除しただけに過ぎない。
「さすが……未来的だね」
「ああ。地球からすりゃ、ミッドも未来的だが、ここはそれ以上だ」
研究所の内装を見て、司や帝が感想を漏らす。
奏や、他の皆も口に出していないだけで同じような事を思っていた。
「……この先か」
しばらく歩き、もうすぐと言った所まで来る。
「っ、人の気配。これは……」
「あーっ!オリジナルと皆発見!」
「レヴィ……!」
ふと優輝が誰か来る気配を感じ取る。
同時にフェイトやアリシアに色以外瓜二つの少女、レヴィが優輝達を見つけ、駆け寄って来た。
「どうしてここに!?」
「えっと……」
「あれ?聞いてないの?私達は一応調査と言う事で来たけど……」
「え、聞いてないけど?」
噛み合っていない会話に、一同は気が抜ける。
グランツが優輝達に気付いた時、同伴していたのはユーリだけだったため、レヴィが知らないのは仕方ない事なのだが、それを優輝達が知る由はない。
「まぁ、とりあえず博士って人の所に用があるんだ」
「そっか。よし、ボクもついて行くよ!」
「レヴィ、その手に持ってる機材を運ばないといけないんじゃ……」
アリシアが簡単に用件を伝え、ついて来ようとするレヴィにフェイトが指摘する。
「それなら大丈夫!ボクもちょうどそこに運ぶからね」
「そっか。それなら……」
と、言う訳でレヴィが同行する事になり、すぐに目的地に着く。
「博士ー!連れてきたよー!」
「レヴィ、ありがとう。それと……いらっしゃい。僕らの研究所へ」
部屋に入るなり、座っていたグランツは振り返って優輝達を歓迎する。
その隣には、ユーリもいた。
「……お久しぶりですね。皆さん」
「ああ。まさか、こんな形で再会するとは思っていなかったけどな」
そう言って微笑むユーリは、優輝達の記憶にあるユーリよりも大人びていた。
見た目こそ変わっていないが、纏う雰囲気が明らかに成長していた。
「記憶も戻っているみたいですが、改めて名乗らせてもらいます。紫天の盟主ユーリ・エーベルヴァインと言います。一応、遥か昔に存在した王族ですが……聖王家のように崇められている訳でもないので、普通に接してください」
「僕は初めましてだね。僕はグランツ・フローリアン。アミタとキリエの生みの親で、ここの博士をやっている。気軽に博士とでも呼んでほしい」
王族らしい優雅なカーテシーを行うユーリ。
それとは対照的に、どこか草臥れた様子で、気さくに自己紹介するグランツ。
「君達の事はアミタ達やユーリ君達から良く聞いているよ。……ただ、そちらの女性は僕らも初見だね。出来たら名前を伺ってもいいかな?」
「はい。私は祈梨と言います。訳あって今は彼らと同行しています。……ご希望なら未来の時間軸から外れ、時空間を漂流する事になった訳を説明しても構いません」
唯一ユーリ達も知らなかった祈梨が自己紹介する。
そして、同時にグランツ達にとって爆弾とも言える情報を口にした。
「ッ……!……知っているのかい……?」
「その事に関しては、まず私が彼らと出会った経緯、私の正体、そして……今の世界の現状を説明した方がいいでしょう」
そう言って、祈梨は優輝達にもしたような、神界についての事を話す。
さらに、地球を中心に世界の法則が歪んだ事で、過去に関わりがあったこのエルトリアが時空間を漂流したと言う事も説明した。
「……俄かには信じられない。けど、時空間の歪みを見る限り、過去から未来へ干渉を行った事が影響しているのは間違いない……」
「……私達がエルトリアに行ったから、ですか」
大体とはいえ、事情を聞いてユーリは少し落ち込む。
自分達が来た影響なのだから、思うところがあるのも仕方ない。
「ユーリさん。気に病む必要はありません。むしろ、関わりがあったからこそ、今こうして再会出来ているのですから」
そんなユーリを慰めるためか、祈梨が話しかける。
「現在の優輝さん達がいる地球から特異点となり始めた時点で、可能性世界である“未来”は全て切り捨てられてしまいます。ユーリさん達が未来へ行っていたからこそ、エルトリアはこの時間からの“未来の可能性”として切り捨てられずに済んだのですから」
「……なるほど。エルトリア以外が観測出来なくなったのは、エルトリアが他の世界から切り離された訳じゃなく……」
「はい。その逆です。エルトリア以外が、消失したのです」
グランツ達は、エルトリアが突然時空間を漂流する事になったと思っていた。
だが、実際はエルトリア以外の世界が消滅したのだった。
その結果、エルトリアは一人ぼっちの世界となり、時空間を漂流していたのだ。
「……なんとも、軽く流せない情報ばかりだ」
「必要であれば、もう少し詳しく話しますが?」
「そうするとしよう。ただ、続きはシュテル達が戻ってきてからで頼むよ」
「分かりました」
話は続く。グランツも一人の研究者なため、もっと情報を求めていた。
「……また、大事ね……」
「でも、今度は誰も逃げる事は出来ないよ」
「そのようね」
一方。京都の土御門家。
そこには、葵の姿があった。
「一大事も一大事。正直壮大過ぎて実感がないのだけどね。貴女がそんな真剣な顔で嘘を吐くなんてないだろうしね」
「そうかな?かやちゃん相手なら嘘もつくよ?」
「その時はいつもの笑顔でしょう。でも、今の貴女はこれ以上ない程に真剣。とこよがいなくなった直後のようにね」
次期当主の澄紀や土御門家に滞在している式姫の他に、鈴もいた。
彼女は本来まださざなみ寮に滞在しているのだが、葵の話を聞いてそのまま土御門家までついてきていたのだった。
「あたしも正直信じたくない。荒唐無稽だし、信じる証拠も少ない。……でも、“嘘”と思うには、あまりに壮大過ぎる」
「そうね。そんな嘘を言うなら、もっと信じやすい事を言うわ。……その点から見たら、それが真実と認める他、ない」
本当ならば嘘だと笑い飛ばしたい。
しかし、見方を変えると嘘と断じれないのだ。
「……私より、遥かに経験のある貴女達が言うのなら、本当なんでしょうね」
「残念ながら、ね」
澄紀も信じられない気持ちの方が強い。
実際、今この場にいる三人と現当主以外の退魔師は嘘だと思っていた。
澄紀が抑えているため言葉にしていないものの、葵に対して侮り、嘲るような視線を向けている者さえいた。
「……ねぇ、澄紀ちゃん」
「悪いわね。後で言い聞かせるわ」
なお、その事に気付かない程澄紀は鈍感ではなかった。
大門の件を経て成長した澄紀は、今もなお実力を伸ばしている。
また、澄姫の憑依もあったため、そう言った悪意には鋭くなっていた。
「……分家の者と、式姫……そして澄紀以外の者は退室せよ」
「っ、当主様!?」
「二度は言わせんぞ」
そこで現当主が一言放ち、葵達以外を退室させた。
渋った者もいたが、当主には逆らえなかったようだ。
「おおー、さすがは現当主だね」
「世辞はいい。実力はもう澄紀にも追い抜かれているのでな。当主の座も今回の話がなければ澄紀に譲っていた」
「お父様!?」
まさかの引退発言に、澄紀も驚く。
大門が開いていた時、澄紀とは別行動で裏で活躍していた。
しかし、彼の実力も今この場にいる中では最低だ。
カリスマ性こそ澄紀の遥か上を行くが、実力不足を彼は感じていた。
「話の続きといこう。式姫の者よ、詳しく聞かせてくれ」
「……いいよ。あたしも、聞いただけだけどね」
詳しく話を聞こうと、当主は葵に催促する。
そして、葵が話そうとして……。
「すまんがどいてくれ!火急伝える事がある!」
慌てるような声が聞こえてきた。
退室した者達を搔き分けるように声の主は近づいてくる。
「当主殿!」
「鞍馬か、どうした?」
声の主は鞍馬だった。
彼女は非常に慌てた様子で、急いで来たことが誰の目にも見て取れた。
「……幽世の大門に、異変が」
「っ、なんですって!?」
その言葉に、当主よりも先に鈴が反応した。
「二人も来ていたのか……いや、それよりも……!」
「大門がどうしたの!?」
鈴と葵がいる事に鞍馬は多少驚くが、それよりも伝える事を優先する。
「何と言うべきか……“門”ではなく、一つの“道”となったと言うか……」
「……“道”……?まさか……!」
要領を得ない鞍馬の言葉に、ほぼ全員が首を傾げた。
だが、以前に調査をした鈴は、すぐに何のことか理解出来た。
「……有り体に言えば、現世と幽世の境界がなくなった」
―――そう。“門”が、“門”ではなくなってしまったのだ。
表裏一体の世界同士が、繋がってしまったのだった。
後書き
“天使”…理力で構成された神界の神の眷属。元々、固有の呼称名はなかったが、他の世界の天使に酷似しているため、神界でも天使と呼ぶ事になった。神界の神同様、強さはピンキリ。
現当主…イメージは厳格な武術家。厳つい見た目をしており、退魔師としては遠近万能な強さを誇る。澄紀の父親だが、強さは既に澄紀に追い抜かれている。ただし、カリスマ性は葵や鈴すら及ばない。
現当主は健在なため、今回登場させざるを得ませんでした。
多分、もうまともに登場する事はないと思います。
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