徒然草

二百十七．或大福長者

　　　　　　　　　　　　　　　二百十七．或大福長者
　ある大金持ちの人が言うことには人は何を後回しにしてもまずは金儲けをするしかない、貧しいと生きていても仕方がない。金持ち以外は人ではない、それになりたければまずはその心構えを修業すべきである。その心構えは難しいことではない、人生は長く間違っても世界はどんどん変わっていくなどと考えない、これが第一です。次にいつでも欲を満たさない。生きていれば自分にも他人にも欲は果てしない。欲のままに生きていればお金は幾らあっても手元には残らない。欲は無限で貯えは底を尽きるものです。限度があるもので無限の欲に応えることはできません。ですから心に欲が芽生えたら身を滅ぼす悪鬼が来たと思って爪に火を灯すのです。その次はお金を奴隷か何かを思っていたら貧しさから抜けられないと思うことです。お金は主や神の様に恐れ敬うことで思い通りに使うものではありません。その次に恥をかいても誇りを捨てることです。そして正直に生きて約束を守ることです。この心がけでお金を稼ごうとすれば乾いたものがすぐ燃えて水が低いところに流れるようにお金が転がってくるものです。貯まって増えだすと宴や女遊び等は下らなくなり住む場所も質素になります。欲を追求することなく心穏やかで毎日が幸せになります。
　そもそも人は欲を満たす為にお金を欲しがります。お金に執着するのはあると願いが叶うからです。欲を我慢してお金があっても使わないならこれは貧しいのと同じです。何が楽しいのでしょうか。しかしこの大金持ちの教えは欲を捨て去り貧しさを恐れないなど戒めにも置き換えられそうです。お金で願いを叶えて満足するよりもむし願いがない方が優れています。肌の病の人が水で洗って気持ちいいと思うよりも元々そんな病気にかからない方がいいのと一緒です。こすいて考えていけば貧しい人とお金持ちは同じ人間であり悟りと迷いも同じもので強欲は無欲と似ています。


或大福長者　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・１２・１７