戦国異伝供書
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第三十一話 九州攻め前その十
「ではこれより」
「茶会ですね」
「それを行います」
こう母に答えた。
「そしてです」
「出陣ですね」
「働いて参ります」
母は我が子に畏まって述べた。
「そして必ずや」
「帰ってですね」
「母上に素晴らしき土産ものを持ってきます、そして」
明智は妻にも優しい笑みを向けて話した。
「そなたにもな」
「素晴らしきものをですね」
「渡そう」
土産ものをとだ、明智は妻に優しい笑みを向けて述べた。
「楽しみにしている様にな」
「それでは」
「そしてな」
明智はさらに言った。
「そなたにも。母上にもな」
「是非ですね」
「笑顔になってもらう」
こう言うのだった。
「その土産でな」
「そなたの土産はいつもよいものじゃ」
母は年老いているが気品のある顔で我が子に述べた。
「衣や陶器、南蛮由来のもの等な」
「いつもそれがしは殿から褒美として金や銀を頂いております」
「戦の功でもじゃな」
「それがかなりありますので」
「我等に買ってくれるのじゃな」
「はい、左様です」
「そうであるな」
「それがしが金や銀を持っていましても」
そうしたものに興味がないのだ、この辺りも明智は羽柴と違う。
「仕方ないので」
「だからであるな」
「また母上と」
「私にですね」
また妻が言ってきた。
「そうして頂けるのですね」
「左様、楽しみにしておいてくれ」
「それでは」
「あと。娘達にもと考えておるが」
それでもとだ、ここで明智は微妙な顔になって述べた。
「皆嫁いでおるしな」
「それならです」
妻が明智に答えた。
「旦那様のことになりますので」
「うむ、実は先日玉に贈りものをしようとしたが」
細川家に嫁いだ彼にだ。
「細川殿に止められた」
「あの方にですね」
「うむ、だからな」
それでというのだ。
「止めたが」
「このことはです」
「娘達のじゃが」
「旦那様にお任せして」
そうしてというのだ。
「殿はです」
「見ているだけでよいか」
「あの娘達と会った時や文を送ってきた時にです」
「応じればよいな」
「それでいいかと」
「ううむ、わしはどうも親馬鹿であるか」
明智は袖の中で腕を組み苦笑いになって述べた。
「どうにも」
「そうかと」
「やはりそうじゃな、わしはな」
「子煩悩はいいですが」
「それが過ぎるな」
「そうかと」
「ではそのことを反省してじゃ」
そうしてというのだ。
「行いをあらためよう」
「それでは」
「うむ、そうしたことをせずにな」
娘に過度に世話を焼くこともというのだ。
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