戦国異伝供書

　　　　　　　　　　　　　　　第三十一話　　九州攻め前
　領国の統治も天下統一の後の政の仕組みもかなり整ってきた、それは数年の間に行った。だがその数年が経てだ。
　遂に九州が怪しくなった、それでだった。
　信長は主な家臣達を集めて話した。
「ではな」
「はい、いよいよですな」
「九州攻めですな」
「それにかかりますな」
「幸い用意はしておいてじゃ」
　九州攻めのそれはというのだ。
「政も整っておった」
「では、ですな」
「何の憂いもなくですな」
「攻められる」
「左様ですな」
「そうじゃ、二十万の大軍を動かしてじゃ」
　そうしてというのだ。
「九州に攻め入るぞ」
「ですな、それでは」
「九州に向かいましょう」
「そしてです」
「九州を平定しましょうぞ」
「そうじゃ、ただ先陣の者達じゃが」
　その者達のことをだ、信長は早速話した。
「よいか、相手は島津家じゃ」
「だからですな」
「人は厳密に選び」
「そして慎重に攻めよというのですな」
「うむ、迂闊な者を送ってじゃ」
　そしてと言うのだった。
「迂闊な策を立ててはじゃ」
「返り討ちに遭うだけです」
　竹中も言ってきた。
「ですから」
「うむ、しっかりと策を立ててな」
「そのうえで攻め入りますな」
「そうじゃ、それと島津家の戦の仕方はわかっておるな」
「はい、釣り野伏がです」
「厄介じゃ、あの戦の仕方をよく吟味せよ」
　信長は竹中に確かな声で告げた。
「間違ってもかかったらな」
「それで終わりです」
「大友も龍造寺もそれで敗れた」
「どちらの家も立ち直れぬまでの傷を受けています」
「だからじゃ、それにかからぬ様にじゃ」
「迂闊に進まぬことですな」
「そして半兵衛と官兵衛に命じる」
　二人でと言うのだった。
「釣り野伏に万が一かかった時にじゃ」
「どうするかをですな」
「我等にそのことを」
「考え出すのじゃ」
　そうせよと言うのだった。
「よいな」
「はい、わかり申した」
「さすれば」
「そしてじゃ」
　信長はさらに話した。
「鉄砲は多く持っていくぞ」
「これまで以上にですな」
「鉄砲を多く持って行き」
「そしてその鉄砲で、ですな」
「島津家を圧倒しますか」
「あの家も鉄砲は多く持っている」
　薩摩隼人の恐ろしいまでの武芸にその鉄砲が合わさっての強さだ、その強さはあまりにも有名であるのだ。
　それでだ、信長は今強い声で言うのだ。
「兵と鉄砲もな」
「どちらもですか」
「これでもかという数で」
「そうじゃ、攻めていくのじゃ」
　その数でというのだ。
「そのうえでな」
「島津家は強いですが」
「数で押し切るのみじゃ」
　信長は羽柴にもこう答えた。