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徒然草

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158部分:百五十八.盃の底を捨つる事


百五十八.盃の底を捨つる事

               百五十八.盃の底を捨つる事
 盃の底に残っているお酒を捨てるというのは何故か知っていますか、とある人が尋ねてきました。それが何故か考えたこともなかったことに気付きましたので疑当と申しますからそれで底に溜まっている酒を捨てるといった意味なのでしょうかと答えました.するとその人はそれは違います、これは魚道といいまして魚が生まれた川に帰るように口をつけた部分を洗い流すことなのであります、と教えてくれました。
 こうした意味だとは知りませんでした。それまで何ともないと思っていたものでありますが話を聞くと成程と思い心に残りました。こうした普段考えたこともないような何でもないことでもそこには深い意味があったりするものです。真に世の中とは面白いものであります。魚が生まれた川に帰るようにという意味があったことも意外ですが口をつけた部分を洗うということもこれまた人として確かなものがあります。昔の人はそういうことがわかっていたのです。そしてこの人もそのことを教えてくれました。何とも有り難いことであります。知らなかったことが何気ないことでわかってくるものであります。酒の盃一つ取ってもそうであります。ただ飲んで底にあるものを捨ててそれで終わりではありません。そこにもしっかりとした意味が昔からあります。このことは頭の中に入れておいて悪いことはありません。書き止めておくのもこれまた非常にいいことであると考えております。それで今ここに書いておくことにしました。


盃の底を捨つる事   完


                 2009・10・19
 
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