『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS3 槍兵の殺(や)る気
前書き
ランサーの酷い扱いです。
ランサーファン、注意。
因果を逆転させる呪いの槍。
その名は、ゲイボルク。
死という結果を導くため、あらゆる事象をねじ曲げる魔槍だ。
なのだが……。
「悪いな坊主! 死んで貰うぜ!」
ゲボルクの持ち主であるランサークラスこと、クー・フーリンがその赤き槍を、衛宮士郎に突き出した。
しかし。
「ふんっ!」
ガキンっ!
瞬間。上半身の服が破れるほど膨張した筋肉が、心臓めがけて突き出された槍の先端を弾いた。
「なっ!?」
「危なかった…。この鍛え抜いた大胸筋がなかったら、心臓一発だった……。」
「大胸筋、鍛えたぐらいで俺の槍を防げるかよ!!」
たまらずツッコミを入れてしまった。
槍を握っていた手が、ジーンッとちょっと痺れている。それだけで、あの士郎の筋肉の強度が分かる。そしてイヤでもこれが現実なのだと知らしめる。信じたくないが、現実だ。もう一度言う…現実だ。
ゲボルクは、必ず、心臓を穿つという呪いを持つ槍だ。もう一度言う、“必ず、心臓を穿つ呪いを持つ槍”だ。
そんな伝説のある槍を大胸筋だけで防いだのだ。
「おーい、そこにいるの遠坂だよな? これ、どういうことだ?」
「えっと…、その…。って、アーチャー!? なに、倒れてんの!?」
慌てる凛の横では、アーチャーがうつ伏せで倒れていた。別に攻撃されて倒れたのではない。めまいを起こして自分で倒れたのだ。
「はあっ!」
「っ、フンっ!!」
再度ランサーが槍を突き出し、士郎の心臓を狙ったが、気づいた士郎が再度気合いを入れて槍を防いだ。
「っきしょう…! なんつー硬さだ!? おまえ、英霊か?」
「なんでさ? 人間だけど?」
「嘘吐け。」
否定する士郎を、逆にランサーが否定した。
「ホントに人間だって。なあ、遠坂。」
「アーチャー! ちょっと、起きなさいよぉ!」
「おーい…。」
「すげぇな、坊主。…例え人間だとしても、その筋肉はどうしたよ?」
「鍛えたんだ!」
「鍛え…。それだけか?」
「ああ。」
「嘘吐け。」
「本当だ。」
「………マジか?」
「マジだ。」
「フーーーーーン…、そうか…そうか。」
「なにさ?」
「それなら、俺を楽しませてくれよ!」
ランサーが槍を構えて切っ先を士郎に向けた。
「なんだなんだ?」
「お前の筋肉と俺の槍…、勝負と行こうぜ!」
「はっ? …まあ、いいけど。でも、おまえ強いのか?」
「あったり前よ! クランの猛犬たる、このクー・フーリン! 押して参る!!」
「なっ! クー・フーリン!?」
「行くぜ、坊主!」
「うりゃ。」
バチンッ
「んぎゃっ!!」
槍を手に士郎に襲いかかったランサーだったが…、デコピン一発で弾き飛ばされ、何度もバウンドして倒れた。
「クー・フーリンっつたって…、こんなやせっぽちなはずないよなぁ……。自称か?」
尻を突き出す形でうつ伏せで倒れているランサーと、アーチャーを起こそうと揺さぶっている遠坂を残し、士郎は鞄を担いで帰ったのだった。
その頃には、膨張していた筋肉は元の大きさに戻っていた。
***
士郎は、誰もいない家の玄関の電気を付けて、ただいまーっと言って靴を脱ぎ、家に上がった。
そして、晩ご飯は何にしようかな~っと、暢気に独り言を呟きながら家の中を歩いていると、ふいに立ち止まった。
「! ーーふんっ!」
「チッ!!」
背後から槍を突かれたが、背筋に力を入れて防いだ。
「おまえ!」
「背中からでもダメか…。」
「土足で上がるな!」
「ツッコミどころそこかよ!?」
ランサーが思わずそうツッコミ返した。
「何しに来た!?」
「俺と勝負しやがれ、坊主!」
「もう勝負はついただろ!」
「リベンジだ!」
「そうか…。なら、納得するまで戦ってやる、表出ろ!」
「おう!」
二人は、表に出た。
そして、戦いが始まった。
ランサーが、その機動性を生かして槍を連続で突き出す。
それを士郎は、すべて避ける。
「おめぇ…、パワーだけじゃないのか…! すげぇな! ほんとすげぇ!」
「どういたしまして!」
「オラオラ! 避けてばっかじゃ終わらないぞ!」
「おらぁ!」
「あぶねっ!」
突きのような蹴りが来たので、ランサーは、間一髪で避けた。
その瞬間だった。
カッと光が発生し、そこに一人の美しい少女が現れた。
「ーーー問おう。貴方が私のマス…。」
「ほげぇ!!」
「俺の勝ちだ。」
発生した光で一瞬止まったランサーが、再び士郎のデコピン一発で吹っ飛びバウンドして倒れた。
「……………………えっ?」
「誰だ?」
「あの…、これは?」
「何って…、俺に挑んできたやつを撃退しただけだけど?」
M字に足を開脚状態で倒れているランサーを指さし、士郎がそう言った。
「! サーヴァント! 下がってください。」
「いや…、もう倒したから…。それより、君は?」
「あ…、私のことはセイバーと…。」
「じゃあ、セイバー。今、サーヴァントって言ったけど、アイツのこと…。あれ?」
「逃げましたね。」
ふと見ると、ランサーの姿が消えていた。
「ま、いっか。」
「!?」
セイバーは、縮んでいった士郎の筋肉を見て驚いた。
「どうした?」
「あの…失礼ですが、貴方は…、何者なのですか?」
「俺? 俺は衛宮士郎。筋肉魔法の使い手だ。」
「きんにくまほう?」
「っと言っても、まだまだ修行中なんだけどな。ユーリ兄ちゃんには、まだまだ届かない。」
「はあ…。」
セイバーは、どう反応すれば良いのか分からず困ったのだった。
セイバーは、知らない。これから自分の身に降りかかる、筋肉という名の理不尽に……。
後書き
体内にある鞘が反応し、セイバーもついでに召喚。
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