『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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プロローグ 起源(オリジン)
前書き
なぜか、『魔法?そんなことより筋肉だ!』の世界に転移してしまった、子士郎。
そこで、ユーリとフィーリアに出会う。
赤い…、赤い世界…。
人が焼ける悪臭に満ちた、灼熱の記憶。
それは、幼い子供の記憶を塗りつぶし、自身の名前すら忘れるには十分すぎた。
その地獄のような光景は、唐突に終わる。
それは、つかの間に見る死までの夢なのかは、その子供にとって理解することも出来なかった。
ともかく、灼熱はなく、代わりに若草の匂いと、吹き抜ける穏やかな風だけがあったが、皮膚が焼けたその子供には、痛みとしてしか感じられなかった。
「ーーーい! おい!」
若い青年の声が聞こえた。
「おい! しっかりしろ! 生きてるか!?」
「な、なんて、酷い火傷…! ユーリさん、動かしちゃダメです! 私が今から治療しますから、水を!」
「おう!」
青年らしき声が遠ざかる。
灼熱で目が乾き、まともに物を見れない状態の子供は、霞んだ視界の中で、美しい少女の顔を見た気がした。
やがて、全身の痛みが急激に和らぎ、子供は安らぎに身を任せて眠った。
***
「ピストル拳!」
次の瞬間、パアンッ!っと眼前の巨大なモンスターの体が爆散するようにバラバラに飛び散った。
「すごいすごーい!」
「おう、シロウ。すげぇだろ。俺の拳の圧は!」
「ほんとあり得ないくらいすごいですよね~。ユーリさんは。」
フィーリアが呆れた目で言った。
対して、子供…、士郎は、キラキラした目でユーリという青年を見上げていた。
ピストル拳なる恐ろしい一撃を放ったユーリの体は、まさに一言で言い現わすなら、筋肉の塊。
しかし、ただの筋肉に非ず。
リミッター解除なるユーリの意思にそって、自由自在に膨張するため、普段は、体躯の良い青年程度(それでも結構な筋肉ではあるが…)の体である。
その名も、筋肉魔法。
それは、ユーリが勝手に付けた肉体技(?)である。
士郎が二人に助けられて数日が経過した。
最初こそ、生気のなかった目をしていた士郎だったが、ユーリの常識外れ過ぎる筋肉の変化に興味を抱いて、すっかり子供らしい目を取り戻したのだった。
子供で、しかも全身大火傷で、草原のど真ん中で倒れていた士郎。
フィーリアの治療魔法で火傷を治してから、事情を聞こうとしたが、子供であり、そしてあの大災害の衝撃のため記憶が飛んでいる士郎には、事情を説明する力が無かった。
冒険者ギルドのある町で、知っている人間がいないか、また迷子の依頼に士郎がいないか探したりもしたが、見つかるはずもない……。
なぜなら、士郎はこの世界の住人ではないからだ。そのことを、士郎はなんとなく理解はしていたものの、あえて言わないし、説明する能力が無かった。
心優しい二人は、あんな人気の無い場所に重傷で放り出されていた身寄りの無い士郎を放っておくことなどできなかった。そのため、二人で士郎の面倒を見ている。
しかし、そんな日々は唐突に終わる……。
「ユーリ兄ちゃんのソレって魔法?」
「そう、筋肉魔法だ!」
「魔法じゃありません。」
「僕も使えるかな?」
「影響されちゃいけませんよ、シロウくん。」
「シロウ…、まずは鍛えるんだ。」
「きたえる?」
「そうだ。全ての筋肉に感謝し、全身全霊をもって鍛え上げれば筋肉は必ず応えてくれる。」
「ほんとう?」
「ああ、もちろんさ! 俺の筋肉を見ろ! これが答えだ!!」
「わあ…! 僕も…、ユーリ兄ちゃんみたいに…。」
そこで士郎の目の前が暗くなった。
そして、全身を再び焼く、煉獄の炎の先に、一人の痩せた男がいて、抱き起こされて、なぜか「ありがとう」っと言われた。
しかし、再び煉獄に投げ出された士郎が思い浮かべたのは、ユーリの勇姿だった……。それは決して、煉獄のごとき災禍でも焼けることなく、記憶に焼き付き、災禍にすべてを奪われた少年を支える起源となる。
………………………ついでに、その後周りを大きく巻き込む、台風にもなるのだが、士郎がそのことを知ることも、理解することもなかった。
後書き
これが全ての始まり。
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