徒然草

百二十一．養ひ飼ふもの

百二十一．養ひ飼ふもの
　餌を与えてそのうえで飼って育てる動物には牛と馬がいます。つないでおくのは気の毒なことですがいなくては困りますので仕方ありません。犬は気合の入っていない用心棒よりも余程役に立つので絶対に飼ってよさそうなものでありますが実際のところどの家にもいますので無理をしてまで飼う必要はありません。
　それ以外の鳥や動物はどれも飼う必要がありません。つながれて閉じ込められた獣というものは外で駆けたくて仕方なく翼を切られて籠の中に入れられた鳥は雲を恋しく思い飛び回りたくて仕方なく野山のことばかり考えています。鳥や動物の身になれば辛くて我慢できないでしょう。血の通っている人がこんなことを楽しいと思うでしょうか。思う筈がありません。鳥や動物達に辛い思いをさせてそれを目の保養にするという行為は極悪非道な暴君と同じ心の持ち主のすることであります。風流を愛する貴公子が鳥を愛したという逸話はそこに遊んでいる鳥を見てそのうえで散歩の御供にしただけであります。決して捕まえてそのうえでいじめていたわけではないのです。
　そもそもそうした滅多にいない鳥や動物をいじめたり惨い飼い方をするということをしてはならないという行いは国に育つものではないというのは書経にありました。ですからそのようなことをしては決してなりません。よく心に留めてそのうえでしていかなければならないことでありましょう。


養ひ飼ふもの　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・９・１２