憑依者の英雄譚
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2話
この世界に転生して七年の月日が経った。
「ベルー、そろそろお昼にしよう」
「ああ、わかったよ。祖父ちゃん」
物心がつく前の記憶はないが、自分の姿を最初に見たときは驚いた。何故なら、友達に教えてもらっていたダンまちの主人公になっていたからだ。
「どうじゃ、美味しいだろ?」
「うん、いつも通り美味しいよ。そうだ、祖父ちゃん。英雄譚を聞かせてよ」
「ベルは本当に英雄譚が好きじゃの」
まあ、女神がドジをしたことに関しては目をつぶる。それより、この世界の英雄譚はなかなか面白い。生前と言うか元の世界は神話より英雄譚の方がなにげに少なかったからな。
「ベルよ。お前は大きくなったら何になってみたい」
「どうしたんだよ。藪から棒に」
「なに、ふと気になっただけじゃ」
将来の夢、ね。前の世界では特になりたいものはなかったけど。
「そうだな。全てのヒトってわけじゃないけど俺にとって大切なヒトたちを、俺が守りたいと思ったものを守れる。そんな正義の味方のような英雄になってみたいな」
中学の時に一時はまっていたFateシリーズ主人公の衛宮士郎みたいな生き方に近いかな。きっと、俺は何処か狂ってるのかもな。
「それはある意味厳しい生き方じゃぞ?」
「…そうだね。自分にとっての大切なものが増えれば増えるほど俺は傷ついていくし、きっとその大切なヒトたちを悲しませる」
あの時はまっていた理由はきっと俺の本質とあの衛宮士郎の生き方があまりにも親い人物だったからかもしれないな。
「それでもこれだけは譲れないんだ。甘いとかふざけているとか無理だと言われようと曲げるつもりはない。これは俺にとって誇りみたいなものだから」
「……そうか。なら、ベルよ。ハーレムを目指すのじゃ!」
「いや、意味が分からん。なんでハーレムを目指すのさ」
「だって大切なヒトたちと言うのは要は自分が惚れた女の事じゃろ?」
いや。なにそんな当たり前の事を聞いてるんだお前?みたいな顔を孫に向けるな。普通はこの反応が正しいんだよ。
「兎に角、俺はハーレムを作るつもりはない。それに大切なヒトたちって言うのは友達とかも入ってんだからな」
「そうか。(まあ、ベルは無意識に女をおとしていく天然女タラシじゃからの。そして朴念仁じゃ)」
「祖父ちゃん、失礼なことを考えたろ」
「なに、気のせいじゃ」
絶対に失礼なことを考えていただろ!目を盗むで見てやるぞ!
「はぁ、まあ良いや。それより早くやることやって剣の修行してよ」
「それもそうじゃの。今日こそ儂に一太刀入れられればいいの~」
「言われなくてもいれてやるよ」
そのまま畑の事をやり終え、森に入っていく。
「さて、今日も始めるぞ」
「よろしくお願いします」
そのまま木刀を構え、打ち合いを始めた。
「オラ!」
「あっははは、遅いわ!」
「祖父ちゃんが速いんだよ!本当に年寄りか!」
「まだまだ、負けられんからの」
それから夕暮れまでひたすら打ち合った。
ーーそしてそれからまた七年の月日が経った。
「祖父ちゃん、俺オラリオに行くよ。もうここには戻っては来ないつもりだ」
祖父ちゃんの墓の前でそう告げる。俺が12才になって一ヶ月後にモンスターから村人を助けるために自ら殿を務めて帰らぬヒトとなってしまった。
「最初知ったときはとても悲しかったよ。たった一人の家族がいなくなってしまったんだから。でも、祖父ちゃんがよく話していたオラリオの事を思い出して、そこにいこうとも思ったよ」
食事が喉を通らない日が続いたある日ふと本棚を見るとオラリオを舞台にした英雄譚が目に入った。そしてよく祖父ちゃんが話していたことを思い出したんだ。
「夢に向かって歩いていくよ。この手紙にもそうかいてあるしね」
その本の最後の方に俺宛の手紙があったときは驚いたけど。
「さようなら、祖父ちゃん。どうか、俺を見守ってくれ」
俺はそのままそこを去り、オラリオへと向かったのであった。
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