この素晴らしい世界に文明の鉄槌を! -PUNISHMENT BY SHOVEL ON THIS WONDERFUL WORLD!-
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四丁
10歳になった。
とは言うものの、学校には通わず地下格納庫に通う毎日。
時々思い付いた魔法の実験を近所の引きニートクソザコブロッコリーに手伝って貰ったり(主に的として)した。
だが、二年前から日課にしている事がある。
それは…
「よーし。メシの時間だぞたんと食え」
「食え、というか食わされるが正しいんじゃないのかしらにゃーちゃん?」
「まぁ、そうなんだが」
件の卵に魔力を注ぐことだ。
ファイルに書いてあったように、一日三回食事を取った後にありったけの魔力を込める。
え?そんな事して倒れないのかって?
何回も繰り返してる内に魔力量も増えたし、魔力回復速度も早くなった。
あとモンスターを殺す時に魔力を吸ってから殺したりとか。
それでも足りなくなったらめぐみん、ゆんゆん、時々こめっことゆいゆいさんに魔力をわけて貰う。
いやぁ!いつぞやリッチーを脅して教えてもらった『ドレインタッチ』と『オーバーチャージ』と『捨虫術』がこんなにも役に立つとは!
卵はちぇけらの店で貰った魔力布を暴発寸前まで魔力を注いだものの上においている。
ドラゴンの卵は火山などで孵化するからだ。
「ねー。にゃーちゃん。もう二年だけどその卵の中身生きてるの? ゆで卵になってないのかしら?」
「生きてるよ。敵感知には引っ掛からず生体感知と魔力感知には引っかかるからね」
「ふーん…」
卵に今ある魔力を流し込む。
すこしふらっと来て、そのあと目眩がして視野が狭く暗くなった所で止める。
「ふぅ。朝から疲れた」
「にゃーちゃん。そんなことしてるから身長伸びないと思うのだけど」
「余計なお世話だ!まだ成長期に入ってないだけだこれから大きくなる!」
「小型犬…」
「うっせ!」
からの数ヶ月後
「生まれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「るっさい!夜に叫ぶなにゃーちゃん!」
卓の上の卵がパキ…と割れ、中から真っ白い蛇が出てきた。
ただし、その背中には同じく白い翼がある。
「成功だ!やった!」
蛇は俺の方をじっと見つめていた。
指を差し出すと、するりと巻き付く。
「おー。可愛いなお前」
「ふーん…白い翼の蛇か…」
「どうかしたかリーア?」
「何でもないわ。取り敢えず名前を着けてあげなさいな」
名前?名前かぁ…。
【名は命なり。汝名付けよさすれば命与えられん】
んー…小さいし…あと白い…
白い龍……白龍…?
「よし、決めた」
単純だけど、いいだろう。
「お前の名前はフェイベルだ!」
FAIRY GWIBER。小さき白龍という名前だ。
刹那、フェイベルが煌々と耀きを放つ。
「ぅわ!? なに!?」
指に絡み付いていた体がフッと消えた。
そうして、その光が徐々に姿をかえていく。
体は太く、そして、四本の足が。
耀きが消えると、そこには手のひら程の大きさの西洋竜がいた。
「フェイ…ベル?」
「くるるる!」
名前を着けた事で変化…いや、進化したらしい。
フェイベルはその翼でぱたぱたと飛んで、俺の肩に乗った。
ペロペロと頬を舐められた。
「あっ…おい…あんま舐めるな。擽ったいじゃないかフェイベル」
「くるる?」
唐突に玄関が開けられた。
どたどたと不法侵入者は居間に走ってきて…
「にゃんにゃん!生まれたって何がですか!?
やっぱりだれかかくれてたんですねこの家!」
案の定めぐみんだった。
「………安楽少女…?」
あ、しまった。
「違う。リーアはドリアードだ」
「いえ、でも」
「ドリアードだ」
「い」
「ドリアードだ」
「アッハイ」
めぐみんを座らせて、肩に乗るフェイベルを見せる。
「生まれたのはこいつだ。俺の使い魔で名前はフェイベル」
「ああ…いつもの卵ですか…?」
「そう。孵化に二年かかった」
「は、はぁ…」
めぐみんが今度はリーアを見る。
「ところでそのあん…ドリアードはなんですか?」
「私はリーア。にゃーちゃんとはもう……六年かな?
にゃーちゃんが自殺しようとしたその日からずっとここに住んでるよ」
「じさっ!?」
あれ?言ってなかったっけ…?
「いやぁ、懐かしいなぁ。にゃーちゃんをひっぱたいたのはもう…六年前かしら?」
めぐみんが俺の首ををグワシッと掴んだ。
フェイベルはリーアの方に行った。
「ちょっとにゃんにゃん!自殺ってどういう事ですか!私聞いてませんよ!」
で、お約束のように俺の頭をシェイク。
俺はアイスクリームメーカーじゃねぇ…
「おおぅ、落ち着けロリっ子。にゃんにゃんさんの首が絶賛締まりちゅ」
「答えてくださいにゃんにゃん!」
あっれー…さっきフェイベルに魔力あげたせいでくらくらするー。
「かふっ…」
side out
「めぐみん。そろそろにゃーちゃんを放したら?気絶してるよ?」
「はっ!」
気絶したにゃんにゃんをリーアが横抱きにして、彼のベッドへ運んだ。
そして、直ぐに居間に戻ってきた。
フェイベルはいない。
フェイベルは主人についているようだ。
「さてと。めぐみん、どこから聞きたい?」
「……全部を」
「うん。わかった」
リーアがめぐみんににゃんにゃんの事を話し始めた。
「始まりは、にゃーちゃんの両親が失踪した事ね。
その事は、転生者であるにゃーちゃんを絶望に叩き落とした。
自分が転生者だったせいでー、とか。
自分はこの世界に居てはいけない存在だから両親がー、とかね」
「え…? にゃんにゃんが時々言ってた転生云々って本当なんですか?」
「本当よ。女神アクアと口論になった結果シャベルを作る能力を押し付けられたって言ってた。
まぁ、今ではシャベル至上主義だけどね」
「てっきりキャラ作りかと…」
「まぁ、『ここ』ではそれで通るからね。
にゃーちゃんもそれで楽って言ってたわ」
リーアがにゃんにゃんの事を嬉しそうに話しているのを見て、めぐみんは少しムカッときた。
「それで、続きをどうぞ安楽少女さん」
「はいはい、そこらへんもね…。
絶望したにゃーちゃんは街道を一人で歩いて私の所まで来た。
安楽少女である私の下までね」
「やっぱり…」
「そう怖い顔しなさんな。現ににゃーちゃんは生きてるでしょ?」
「そうですけど…」
「にゃーちゃんは私に『木の実』を要求してきたわ。
ドギツイのを頼むってね」
「渡さなかったんですか?」
「あんな小さい子、食いでがないし」
「…………………」
「だから四歳だったにゃーちゃんをひっぱたいて、この家に連れて帰ったのよ」
「貴女は、安楽少女、なんですよね?」
めぐみんは責めるように言った。
「そうだよ。安楽少女だよ。これが私達の本性。
人より長く生き、人より賢く、人を食う」
「にゃんにゃんも、食べるんですか」
「にゃーちゃんが死んだらね。そういう契約よ」
リーアは、いつの日かにゃんにゃんと交わした約束を思い出していた。
「『俺がくたばったらその時こそ食ってくれ。お前の中で血肉となって永久に生きてやる』ってね」
「結局食べるんですね」
「私達はそういう種族だもの。お前達人間だった他の動物を食べるでしょ?」
「テンプレートなセリフですね」
「『テンプレート』『定石』『セオリー』
つまりは真実。誰もが知っている事実」
「……」
「私は自分から人間を傷つける事はしないよ」
「ふんっ…どうだか」
「私を殺せばにゃーちゃんが悲しむけど、いいの?それどころか貴女はにゃーちゃんに憎まれ、復讐の対象になるわよ?
彼の両親や、女神アクアと同じくね」
上から目線で余裕たっぷりのリーアに、めぐみんはそろそろ限界だった。
めぐみんの中で何かがプチっと切れた。
「なんですか貴方!にゃんにゃんの正妻気取りですか!どうせ貴方とにゃんにゃんは異種族しかも貴方はプラント系です!穴があろうがなかろうが子供なんてできないんですよバーカバーカ!」
と言いたい事だけ言っためぐみんは走って出ていった。
「…………なにあれすっごい可愛いんだけど」
リーアは居間を片付けると、にゃんにゃんの部屋へと向かった。
ベッドで眠るにゃんにゃんと、その枕元で眠るフェイベル。
リーアの手がにゃんにゃんの長い黒髪をすく。
「子供ができないなら、にゃーちゃんはずっと私の物。
子供ができたなら、にゃーちゃんの生きた証が私の他に残る…」
先のめぐみんの台詞はリーアに何のダメージも及ぼさなかった。
何故ならリーアにとってはどちらでもいいのだから。
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