ロックマンX~Vermilion Warrior~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第9話:Break Time
ペンギーゴを処分したエックスとルインはメンテナンスを受けるためにハンターベースに戻っていた。
2人のダメージ自体は大したことはないのだが、凍結の影響がないとは限らないからハンターベースに戻ってきたのだ。
「納得いかない。ダメージはそれほど酷くないのにさ」
不満そうな表情で呟くルインにエックスは苦笑しか出来なかった。
ペンギーゴの冷気をエックス以上に浴びたルインは大事を取ってメンテナンス後に自室での休息を言い渡された。
「仕方ないさ、今ではルインは貴重な特A級ハンターなんだ。扱いが慎重になるのも当然だよ」
エックスもエイリアによるヘッドパーツのバックアップを終えて、次の出動まで休息している。
「ちぇ、今日は任務を終わらせたら外でお弁当を食べようと思ったのに…折角のお弁当が台無しだよ」
「外でって…何処で?」
正直、今の状況では弁当を落ち着いて食べられるような場所はないはずだが。
「ほら、エックスと私とゼロの3人でよく行った野原があるじゃない?あそこは運よくミサイルの直撃を受けなかったんだ。イレギュラーもいないから気分転換には持ってこいな場所じゃない?」
「確かに…」
最近は気が滅入っていたし、エックスとしても久しぶりに日向ぼっこをしたいような気がする。
「…はあ、まあ、それは戦いが終わってからの楽しみにして…ご飯にしようかエックス。今日のお弁当はサンドイッチでした」
ルインが取り出したバスケットをテーブルに置いて開くと、長方形にカットされた様々な種類のサンドイッチが並んでいた。
「今日も美味しそうだね」
「へへ、エックスのために早起きしてお弁当を作ってきたんだ。まあ、無意味になっちゃったけど」
嬉しそうな表情から一気に落ち込むルインにエックスは苦笑してしまう。
「ま、まあ…そんなに落ち込まないで、今は貴重な休息の時間を大切にしよう」
「うん」
エックスはヘッドパーツを外すと遥か昔に造られた兄弟機に似た黒髪が露になり、ルインもヘッドパーツを外すと、完全に金色の髪が露出する。
「(そう言えばルインって、元は人間なんだよな…)」
ゼロから聞いた話だとルインは元は人間らしい。
レプリロイドはアーマーを装備した状態の時はレプリロイドだと分かるが、アーマーを装着していない時は人間と区別がつかなくなり、それが人間とレプリロイドの境目を曖昧にしている。
「(人間としての肉体を失ったルインはどんな気持ちで日々を過ごしているんだろうか…?)」
肉体とは魂の器であり、人間にとって最も重要なものであることは否定しようのない事実だ。
今まで人間であったのに全てが機械と化した時、正気を保てるだろうか?
恐らくそれは否だ。
人間とは肉体と魂が共にあってこその存在なのだから。
「ルインは…」
「何?」
サンドイッチを口に運びながらルインは首を傾げた。
「ルインはその…元々は人間だったんだろう?」
「…ゼロから……聞いたの?」
サンドイッチを持つ手を止めてエックスに尋ねるルインにエックスは頷いた。
「…ああ、どうして人間であった君がレプリロイドになったのか……すまない、言いたくないならいいんだ」
自分だって経歴が不明なレプリロイドだ。
自分の製作者が完成間近だった時に亡くなり、ケインが自分を引き取ったらしいが…とにかく自分にも解析出来ない部分が沢山ある。
ブラックボックスの塊であるために何度研究者からの好奇の視線にさらされたか分からない。
彼女を傷つけたくないと、エックスは話を中断しようとしたが…。
「生きたかったからかな?」
「え?」
「私ね、レプリロイドになる前のことはもう殆ど思い出せないんだ。家族や友達のことも…でもレプリロイドになる前にこう思っていたのは分かるんだ。“もっと生きたい”って」
「生きたい…」
人間からレプリロイドになってまで生きたいと願う心。
かつて人間だった彼女がどういう気持ちでこのような思いを抱いたのかは自分にも彼女にも分からない。
「今だってもっと色んな人に会いたいし、色んな物を見たいし、色んな人に私を知って欲しいから……今の私をね」
「そうか…」
「私は…ルイン…第17精鋭部隊所属のイレギュラーハンターだよ。今も、そしてこれからもね」
ウインクしながら言う彼女にエックスは動力炉が強く動いたような錯覚を覚えたが、気にせずに頷いた。
「そうか…そうだよな。君は君だ。例え君が人間だろうとレプリロイドだろうと君は君だからな」
「そういうこと…あ、エックス。レタスが落ちるよ」
「え?おっと!!」
ルインに指摘されたエックスは零れ落ちそうになるレタスを押さえるとサンドイッチを頬張る。
ルインはクスクスと笑いながらエックスを見つめる。
「笑うなよ…それにしても君は料理が上手だね。俺も料理は出来るけど…お菓子作りは君に負けるんだよな…」
「戦闘型レプリロイドで料理が出来るのって何人いるんだろうね」
現時点では兄が家庭用ロボットであり、その後継機であるエックスと元が人間であるルインくらいしかいないだろうが。
「実はデザートもあるんだ。」
もう1つの小さなバスケットからチョコレートカップケーキを取り出すルイン。
「ケーキ?」
「そう、今日はチョコレートのカップケーキ。ゼロは食べてくれないからね~」
「まあ、ゼロは甘いの好きじゃないからね」
「そうなんだよ。甘い物が食べられないなんて勿体ない」
ルインは紅茶をエックスに差し出しながらゼロに対して不機嫌そうに言う。
「まあ、俺達にも味の好みはあるし…頂きます」
パクリと彼女が作ったケーキを一口頬張るとチョコレートの甘い風味が口の中に広がる。
「どう?今日のは甘さは控えめにしてみたんだけど?」
上に乗っている生クリームも自分のために甘さを抑えているのだろう。
甘くはないし、添えられている果物の酸味が程良く効いて、甘さをさらにしつこくない物にしていた。
「美味しいよ。これならまだ食べられるよ」
「本当?やった♪」
嬉しそうな表情を浮かべるルインにエックスも穏やかな笑みを浮かべた。
しばらくして食事を終えたルインは自室のベッドに仰向けになった。
窓から射し込む太陽の光が気持ちいい。
「う~ん、食べた後寝るのは人間時代は厳禁だったんだけど、今は食べた後すぐ寝ても平気だからレプリロイドになってよかったって思う点かもね」
「(確か…)」
人間の女性の大半が体型を気にしていると言うのはエックスも聞いたことがある。
どうやら人間時代のルインも例外ではなかったらしく、思わずエックスはクスリと笑ってしまった。
「あ、何笑ってるのエックス」
「ああ、いや…ごめんごめん」
謝りながらも笑いが止まらないエックスにルインは頬を膨らませる。
「こういう穏やかな時が続けばいいのに」
「それを作るのが私達の仕事だよエックス」
戦いの間の少しだけの穏やかな時間の中、2人は笑い合うのであった。
ページ上へ戻る