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戦国異伝供書

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第二十九話 安土入りその四

 信長は安土に移った、その豪華絢爛な天主に帰蝶と共に入りだった。最上階から共に周りを見回して言うのだった。
「よいのう」
「はい、まさにです」
 帰蝶は信長にうっとりとした顔で答えた。
「空にいる様な」
「そうした風に思えるか」
「はい」
 こう答えた。
「あまりにも高いので」
「安土の山の頂上からな」
「さらに高い天主の一番上なので」
 五層七階のだ。
「ですから」
「その様に造ったのじゃ」
「あえてですか」
「そうじゃ、そしてな」
「天主の中にですね」
「様々な教えを入れた」
 このこともだ、信長は話した。
「それはじゃ」
「神仏のお力を以て」
「この城、ひいては本朝の心の臓である都をな」
「守護する為ですね」
「そうしたのじゃ」 
 天主にあらゆる神仏の教えのことを描かせたりしたというのだ。
「そしてこのわし自身がじゃ」
「そのお力を集められて」
「一の人、即ち天下人としてな」
「天下を守護されるのですね」
「そうも考えてな」
「この様なものにされましたか」
「うむ、この城はただ堅固なだけではない」
 多くの石垣と壁、櫓で幾重にも守られている。その堅固さたるや岐阜城も比べものにならぬ程である。
「そうしたな」
「神仏のお力も集めた」
「魔に対しても強いものじゃ」
 敵の軍勢だけでなくだ。
「わしはそこまで考えてじゃ」
「この城を築かれたのですね」
「天下の為にな。そしてな」
「これからは」
「この天主に住む」
「御殿ではなく」
「あれも造らせたが」
 それでもというのだ。
「やはりな」
「住まれる場所はですか」
「ここじゃ」
 二人が今現在いる場所だというのだ。
「この天主じゃ」
「そのこともお考えになられて」
「築かせたからのう」
「左様ですか。天主に住まれるとは」
 それはとだ、帰蝶は述べた。
「普通はないですが」
「天主は言うなら物見櫓じゃからな」
「城の中で最も大きな」
 本丸の中央にありそこから城の周りを見渡す、当然戦の時は敵味方の状況を両方共する為のものだ。
「そうですね」
「その通りじゃ、この天主もそれは同じじゃが」
「それでもですね」
「わしはそれだけなくな」
「神仏の力を集められ」
「城の中で最も強い結界としてな」
「殿ご自身も」
 その信長を見ての言葉だ。
「住まわれる」
「そうした場所にじゃ」
「お考えになって」
「造らせてな」
「今こうしてですね」
「入ったのじゃ」
 そうしたと言うのだった。
「お主と共にな」
「そうしてですね」
「わしはこれからはこの城からじゃ」
 そして天主からというのだ。 
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