戦国異伝供書
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第二十七話 幸村と茶その六
「ですから」
「それも仕方ないことで」
「出来るだけ離れた方がよいかと」
「では利休殿も」
「出来るだけ会わない様にしております」
利休自身そうしているというのだ。
「そしてあの御仁が入れられた茶は」
「飲まれませぬか」
「口もつけませぬ」
そうしているというのだ。
「用心の為に」
「左様でありますか」
「若し毒が入っていればと思いまして」
利休もまた松永を信用しておらず悪人と見ている、それがよくわかる返事だった。
「それ故に」
「そうされていますか」
「あの御仁の茶の道は確かで相当なものですが」
「それでもですか」
「その行いを見ますと」
「茶もですか」
「とても口をつけられませぬ」
幸村に静かにこのことを語った。
「茶は邪なものを入れるものではありませぬ」
「茶、そしてその茶に」
幸村は利休の茶を煎れる手の動きを見つつ述べた。
「心を入れるのですな」
「その通りです、そのことがわかっておられるのなら」
まさにとだ、利休は幸村の今の言葉に我が意を得たという声で応えた。
「真田殿は既に茶の個々rを持っておられます」
「そうなのですか」
「はい、茶の道は心です」
「煎れる者が心を入れるものですか」
「おのずと心が出るのです」
茶、それにというのだ。
「ですから」
「それがしの今の言葉は」
「まさに真理です」
「茶の道の」
「そのことがわかっておられるのなら後はご自身で煎れられていけば」
つまり茶を煎れる手順を覚えればというのだ。
「もうです」
「茶のことで心配は無用ですか」
「何も」
それこそという返事だった。
「いりませぬ」
「左様でありますか」
「真田殿はやはり相当な方です」
利休は噂や人相だけでなく彼自身の言葉からもわかった。
「必ずや世の終わりまで名を残す方になられます」
「まさかと思いまするが」
「そう思いまする」
これが利休の返事だった。
「ですから」
「それがしは身を慎み」
「そしてです」
「鍛錬も学問も」
「励まれて下さい」
これからもというのだ。
「どうか」
「それでは」
幸村も頷いた、そして利休に茶を伝授してもらった。だが結局松永と会うことはしなかった。そうしてだった。
一旦戻ってきた十勇士達に尋ねた。
「してあの二人は」
「駄目です」
「何処にどう隠れたのか」
「見つかりませぬ」
「何処もで」
「そうか、ではもう一度な」
幸村は頭を垂れて報を述べる十勇士達に告げた。
「行って参れ」
「わかり申した」
「ではその様に致します」
「そして見つかれば」
「その時は」
「すぐにじゃ」
まさにというのだ。
「殿の御前に引き立てるのじゃ」
「その様に致します」
「では再びです」
「天下の隅から隅まで探してきます」
「その様に」
「頼むぞ。あとわしも茶を煎れられる様になった」
幸村は十勇士達に笑ってこのことも話した。
「これより共に飲むか」
「おお、殿が煎れられた茶ですか」
「それを飲めるのですか」
「これからは」
「そうなのですか」
「利休殿に伝授してもらってな」
そのうえでというのだ。
「煎れられる様になった、ではな」
「はい、では」
「これよりですな」
「我等もですな」
「茶を飲む」
「そうしますな」
「そうじゃ、それでは今からな」
幸村は茶を煎れた、その時に菓子も出したがその菓子はぼた餅で十勇士達はそれぞれこんなことを言った。
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