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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百三八幕「空中でバラバラ」

 
前書き
かなり駆け足です。 

 
 
 どのような戦力を有した軍隊であろうと弱点は必ず存在する。
 機動力の欠如、兵糧、統率力や士気の維持……その中でも最大の問題とされるものは何か。

 それは、指揮系統の乱れである。

 軍隊は上司の命令に部下が従うという図式があるからこそ行動が成り立つし、指揮する側と動く側のライフラインが繋がっているから正確な戦況の把握と指示が可能になる。この指揮系統が崩れると集団は統率力を失い、あっという間にいい的となってしまうのだ。

(この状況……雲行きは怪しいな)

 ラウラは考える。現在のIS30機の指揮系統は今の所IS委員会がトップという事になっているが、現場指揮官がこの愚連隊には存在しない。いや、そもそも現時点で指揮官を選任された人物がいたとして、この部隊の統率は無理だ。
 出撃しているISの大半がユーロサトリに参加し、なおかつ専用機を所持した代表候補性や国家代表。全員が事実上の軍事関係者だが、職業軍人はラウラを含め少数だろう。つまりISを用いた乱戦の経験などないし、データにないアンノウンで即席の連携を取ることも難しいだろう。何せ専用機は装備も得意分野も基本的にはバラバラだ。数に任せて出撃させられたはいいが、全機での連携は不可能だろう。ラウラ自身、何の装備を持っているかハッキリしないISが複数ある。

 臨海学校でのアンノウンとの戦いでは5機のISで連携したが、あれは指揮官である千冬の下に作戦がしっかり用意され、なおかつ5人が訓練を共にした仲だからこそできた連携だ。普通なら現場指揮官がいないとままならなくなる。
 また、こういった不測の事態ではしばしば利権を絡めた「現場の判断」が行われる。そしてラウラが察するに、この先進国家の軍事機密の塊が集まった集団は決して愉快な現場の判断を下さない。

 ちらりと隣りのシャルを見やると、やはり同じ事を考えていたのか顎に指を当てて何やら呟いている。

「ミサイル通るかな……ジャマー持ちであることも考慮してレーザー誘導を優先的に使おうか?いやでもそもそも敵が機械かどうか分かんないし」

 ミサイルジャンキーの考えていることはだいぶ違ったようだ。ちなみにシャルの後ろをついてくるフランス軍のラファール3機は無言でレーザー誘導ミサイルの種類をセレクトしていた。デュノア社縁の私兵か何かか。

「かくかくしかじかだぞシャル」
「――指揮系統の混乱かぁ。フランスの人たちは僕には従ってくれるし、ラウラも黒兎隊の統率は取れるけど、他はだいぶ難しいよねぇ。うーん……」
「何か妙案があるのか?」
「まぁ妙案というかなんというか……出てくれるかなー?」

 不安げにシャルは手を耳に当て、秘匿通信回線を開く。

「あ、もしもしチカー?実はちょっと問題があってさー……うん、数集めたのは責めないけど、緊急出撃過ぎて空飛んでいる今の時点で指揮系統が纏まってないんだよ。……え?ブライト艦長とかは知らない機体が指揮下に加わっても普通に運用してた?……チカ、それはあの人たちがおかしいだけだからね?………うん、うん。とりあえずその人に指揮任せるのはマズイと思う。最高指揮官はチカでいこう。現場で戦ってるISを現場指揮官に?それはちょっと……コア登録もない国籍不明の人が指揮官って納得しない人も多いんじゃない?……うん……うーん、ちょっと待って」

 久しぶりに友達に連絡取るわー的なノリで世界で1,2を争う謎の博士とライフラインを持っていることをサラっと暴露しつつ話を振ってくるシャル。さてはこの流れ、ジョウもチカと共に彼女とつながっているな、と冷や汗交じりに分析する。

「ねぇラウラ。部隊の指揮経験はあるよね?最大何人くらい?」
「あ、ああ。20人程度の小隊なら指揮したこともあるが……」
「チカの調べだとね、この面子の中で指揮経験があるのどうやらラウラだけみたいなんだけど……現場指揮官する?嫌なら僕が引き受けるけど?」

 やべぇ、自分で地雷踏んだ……とラウラは天を仰いだ。
 誰かやってくれる人いるだろうと思ったらこれである。なんだか19歳なのに戦艦の艦長にされた老け顔の軍人から謎のエールが送られてきた気がした。如何にも幸せな家庭を築き損なっていそうだ。

 こうして、現場指揮官ラウラと副官シャルによって部隊がやっと体系化した。ついでに「彼女、クラース教官の愛弟子だよ」という嬉しいけど嬉しくない注釈を付け加られ、ラウラの反対意見と逃げ場が消えた。



 = =



 『それ』は、余りにも巨大な浮遊物体だった。

 全行凡そ100m。蜘蛛を連想させる大量の赤い目らしきものと、壁蝨(だに)を思わせる形状。そのどれをとっても薄気味悪く、それが空中に存在している光景は余りにも異様で、まるでその生物がいる周辺から世界が崩れ去ってしまいそうなほどのプレッシャーを放っている。

 それと今まで戦い続けてきた『とあるIS』の操縦者は、ため息を漏らす。

「………チカから話は聞いてたけど、分かってはいても『STMC』が地球にいるっていう光景にどうしようもない絶望感を覚えるわねぇ。いやに消極的なのが逆に怖いわ」
『外見データは『兵隊怪獣バボラー』とほぼ一致していますが、サイズが桁違いです。本来ならこれ一匹が地球に到達した時点で甚大な被害出している筈の存在です』
「これが『虚失者(バニシング)』……虚ろなる者。人間の感情に引かれて既に地球に数度現れてるって話だけど、どうにも私とは相性が悪いわねぇ」
『あ、どうやらIS部隊が近くまで来てしまったみたいですよ?』
「うーん、やっぱ現状だとちょーっち火力が足りないわねぇ、私たち。今回は表の皆様に出番をお譲りして、私たちはドロンと行きますか」

 ジジジ、と音が鳴り、ISの姿が掻き消えていく。名目上は戦闘続行困難による戦略的撤退、裏ではまだ正体を知られるには早いから。彼女は先攻ISが撃墜されてから戦場に現れ、無人機に指示して撃墜されたISと操縦者たちを避難させたうえで、後続が到着するまでの間一人でこの化け物を相手にしていたのだ。理屈上は撤退するに足る十分な理由である。



 = =



『では僭越ながら、私ことチカが君たちのオペレートを担当するよ。ちなみに撃墜されたISとパイロットは回収しておいたが、たった今うちの手のものが戦闘続行困難につき撤退した。今、戦闘空域にはアンノウンが一体だけだ。ラウラ隊長、聞きたいことはあるかな?』

 ある意味篠ノ之博士より謎な男の問いにいろいろと尋ねたいことのあるラウラであるが、とにかくこの任務を乗り越えないことには落ち着いて話もできない。

「まず、敵は何者ですか?」
『うん、ちょっと待ってね。今データ送るから………さてラウラ隊長。今こっちで通信を完全秘匿回線に切り替えた。ここから私と君の会話は漏れない。シャルロット君には音だけ流している。彼女はこちら側なのでね』
「……やれやれ、IS安全神話もIS開発者にかかれば形無しですか」

 そういいながらハイパーセンサ越しに周囲を見るが、周囲のISは一切今のラウラの声を拾ってはいないようだ。回線は外見上オープンチャンネルになっているが、外部から強制的に、バックグラウンドで回線が開いているらしい。
 つまるところ、ドイツの機密の塊が現在外部から遠隔操作されているに等しい状況なのだ。ぶっちゃけありえなくて絶望感がMAXハートである。

「それで、そうまでして伝えたいこととは?」
『第一に、アンノウンなのだが。これは簡単に言うと『怪獣』だ。これまでの人類史に於いて正式にはただの一度も確認されたことのない、常識の外にいる存在となる。故に非常識だとか、バカげているなどと考えないでほしい。これと似た系列の存在についてはIS学園も既に存在を確認しているし、ジョウや佐藤くんは既に臨海学校の事件の途中で本物と出くわしている。厳密な話をすると長くなるが、まぁ『そういう存在』であることを忘れないでくれ。物理法則からも半分外れているような連中さ』
「あーそういうことね。把握しました(分かってない)」

 全然分からないがとりあえずそんな感じかと思っておく。とりあえず仮想敵として日本映画に出てきたガメラ辺りをイメージしておこう。

『外見は、まぁ簡単に言えば100メートルの壁蝨(ダニ)だ。それが何の航空力学的な根拠もなく宙を浮いている。そういうものだ。クマンバチはその昔、思い込みで空を飛んでいると本気で考えられていた。そんな感じさ』
「だいぶ薄気味が悪そうですね……」
『今の所自ら動いてはいないが、こちらがレンジに入れば迎撃してくる。ああ、ここは他の皆にも伝えておいてくれ。攻撃方法は、自らの体から小型の個体を放出する。これが空を飛ぶ弾丸でね、しかもホーミングしてくる。先遣隊はこれに対処できずに全滅した』
「先んじて砲撃で落とせませんか?」
『相当火力を集中させないと難しい。アンノウンの外殻は君たち黒兎隊のレールカノンを三発同時に同じ個所に叩き込んでも割れない。関節部を狙うか、もしくは龍咆のレンズ収束砲や風花・百華の最大出力なら同じ個所に4発も叩き込めば罅が入る、といった具合かな』
「………正直に述べるなら、かなり厳しいですね」

 レンズ収束砲も風花・百華の最大出力も、ISの攻撃としては埒外の火力を誇る。無論この場にいるISの大群をもってすれば総合的にはそれ以上の火力を出すことも出来るが、相手はどうやらミサイルに近い弾丸を大量に射出してくる輩である。レンジギリギリから火線を集中させて敵の攻撃をかいくぐりながら集中砲火を続けなければいけない。AICとは最悪の相性だ。数を止められないし、対象のサイズが大きすぎる。あくまで対ISに特化した機能がアダとなったか、と思う。
 いや、しかし――。

「ジークリットの……『シュヴァルツェア・ブリッツ』の剣ならば、或いは……?」
『……作戦は決まったかな?』
「ああ。決まった」

 ラウラは素早くデータに基づいた自らの考えを周囲に説明し、周囲は納得する。完全にではあるまいが、現場指揮官であるとチカが定めた存在であるというアドバンテージはラウラの想像以上に大きく、全機が最低限武装の情報共有をしつつフォーメーションを組む。
 通信が勝手にオープンチャンネルに切り替わり、チカの声が全員に届く。

『あと1分で第一部隊のレンジにターゲットが入る。堕とされたら私の手の者が回収するので遠慮なくやりなさい』

 こうして、彼女たちとアンノウンが激突したのだが……流石に各国のISとその操縦者にまで言及する暇はないのでその辺は省略していく。

「動体反応複数!100……300……まだ増える!!」
「撃て撃て、撃ちまくれ!!とにかく火線を集中させて前進しろ!残弾を気にしたら堕ちるぞッ!!」
「こいつ、追尾がキツ……キャアアッ!?」
「ポーランドの候補生が堕ちたぞ!?」
「追うな!!追えばお前も落とされるぞ!!」
「ちょ、墜ちながらも攻撃され……イヤァァァァァッ!?」
「おお、落下しながらも敵が追撃してくるのか!狙いが分散した分正面が心なしか楽に!」
「鬼か貴様!?」

 ミサイルの速度で接近する巨大な壁蝨の群れという想像を絶する状況に怯んだ者と、虫ダメだった人のISが数機、レンジ到達と同時に墜ちた。しかもこの虫、止まれば隙ありとばかりに殺到し、既に墜ちたISにも次々に追撃をかましてパイロットが失神するまで執拗に攻撃し……失神すると突然興味を失ったように放置する。よって咄嗟の事態に対応できなかった人の方が軽傷という訳の分からない状態になりつつある。

「ダニいやぁぁぁぁぁーーーーーッ!!ダニはいやぁぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「うおおおお!?アレーシャが訓練中でさえ見たことのない二丁AKの神エイムで虫を叩き落としていく!?」
「誰か火炎放射器持ってこい!燃やしてやるよ!!」
「火炎放射器なら確かここに!虫どもめ、駆逐してやる!!」
『残念だけど火炎放射器は効果が薄いと思うよ』
「全然効かねぇ!?うわああああああああああッ!!」
「坂崎ぃぃぃぃーーーッ!」
「意識のある人間だけを襲う虫かよ!!これしきのことで……こいつめ!こいつめ!」
「待てギルビット、迂闊だぞ!!」
「あっ、思ったより動き早ぎゃあああああああ!!」
「ギルビットぉぉぉぉーーー!!」
「判断力のよくないパイロットが選別されていいことね!」
「鬼か貴様!?」

 しかし、流石は世界中のIS操縦者。なんのかんの言いつつも絶え間ない虫の嵐を止まることなく迎撃しながら駆けていく。途中で巨大なビームや見たことのない武器、攻撃が入り乱れた。この光景を記録している者がいれば「各国新兵器のオンパレードだ!」と興奮しただろうが、全員が全員そんなことを考える余裕がない。
 途中、何発か大きな攻撃が本体の甲質(キチン)に命中するが、まだ抜けないようだ。それでも全員、一か所を集中的に狙っていく。

「ファック!残弾切れたからお先!!」
「マガジンが次で最後(カンバン)なんだけど誰か40mm持ってない!?」
「ないね。弾が切れ次第囮になって墜ちなさい!」
「だから鬼か貴様!?」

 作戦の鍵はラウラとシャル、フランス機によるディフェンスと、黒兎隊2名のオフェンスで成り立つ。故に心苦しいが、ラウラは自分たちとシャルたちを最奥に配置し、外の面々から堕とされていく陣形を組んだ。現在、残存するISは8機……ヴァルキリークラスが2名まだ残っているが、ここからの作戦はその二人を組み込んでいない。

「じゃあそろそろお別れね……ご武運を、兎ちゃん?」
「貴殿らに手柄取られるようでちと気に喰わんが、我儘ばかりも言えぬ。しからば!!」

 近づくにつれて激しくなる虫の猛攻の合間を芸術的なマニューバで抜けた二人に攻撃が逸れる。

「よぉし!じゃあ僕が正面を固めるよ!ガーデン・カーテン形成、モード・ペネトレイト!!」

 複合障壁ではない、純粋かつ性質の違うエネルギー障壁が鋭角方に展開される。本社に戻っている間に第三世代兵装が完成したらしい。更にフランス軍の僚機3機が見たことのない装備を展開する。

「ガーデン・パラソルで周囲を囲います!解除するまで出られないのでお気を付けを!」
「データリンク!接触角でエネルギー循環!!」
「イージスの盾とまでは言わないけど、結構持ちますよ!!」
「ありがとう、クラン、ネネ、ララミア!!さあ、こっからは最大戦速だよ!!」

 デュノア社製の『携行型第2.5世代兵装』パラソルは、ガーデン・カーテンを更に簡易化することで携行兵器のサイズにまで落としたものだ。ユーロサトリにも展示してあったそれを投入することによって、フランス部隊と黒兎隊は障壁という名の弾丸に詰まった火薬となる。

「これよりオペレーション・バルムンクを開始する!!」

 化け物退治は、英雄の仕事である。
  
 

 
後書き
フルメタ4期のアニメで一番ショックだったのは、ジョージ・ラブロックがブサイク白人にされてたことです。あれがショックで視るのやめました。……と言って同意してくれる人がこの世界にいる気がしない作者です。

兵隊怪獣バボラー(宇宙怪獣・兵隊)は、スパロボではサイズSになってますが原作だと100m、つまりこの小説に出てきたのと同じです。Lサイズですね。 
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