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戦国異伝供書

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第二十五話 天下の政その十一

「あの者はな」
「違いますか」
「信玄も実は天下への野心はない」
「天下に号令することを望まれていましたが」
「幕府を終わらせることが出来たか」
 信玄、彼にだ。
「甲斐の守護で甲斐源氏直系のな」
「そうなりますと」
「無理であるな」
「はい、あの御仁には」
「執権となってな」
 室町幕府のそれにだ。
「終わりであった、それでは限度がある」
「天下人になるには」
「それが邪魔になる」
「だからですか」
「あの者もじゃ」
 信玄もというのだ。
「結果としてな」
「天下人にはなれませんでしたか」
「幕府にこだわっていてはな、考えてもみよ」
「先の公方様の様な方は」
「やがて疎ましく思うしのう」
 信玄、彼をというのだ。
「執権ではな」
「天下を治められませんか」
「やはりな、だからな」
「真の天下を見ているのは」
「わしとな」
「猿ですか」
「そして竹千代か」
 家康もというのだ。
「あ奴もじゃな」
「徳川殿もですか」
「そう思う、だから竹千代もな」
「天下が手の届くところにあれば」
「手を伸ばすであろう」
 そうするからだというのだ。
「だからあ奴も猿もこれ以上はじゃ」
「禄は、ですか」
「上げぬ、これまで以上に力を与えるとな」
 禄、即ち石高を高くするとというのだ。
「まことに天下を脅かす」
「織田家の天下を」
「だからこれ以上禄は与えずな」
「役もですか」
「気をつける、わかったな」
「さすれば」
「天下を治める為にはじゃ」
 信長は平手に真剣な顔で述べた。
「やはりな」
「こうしたことまで、ですな」
「考えねばな」
「長くは治められませぬな」
「それでじゃ」
「殿もそこまでお考えで」
「治めていくぞ」
「わかり申した」
 平手は信長に確かな顔で応えた、そうしてだった。
 二人は天下のことをさらに話していった、天下の政はまだはじまったばかりだった。


第二十五話   完


                 2018・11・8 
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