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蒼穹のカンヘル

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三十九枚目

「おう。来たか篝」

グリゴリ本部のエントランスに飛ぶと、アザゼルが出迎えた。

「アザゼル…お前直々に出迎えないといけないくらい人員いないのに俺に着ける余裕なんてあるのか?」

「まぁ、それはそれこれはこれだ」

アザゼルの後をついていくと、何故かエレベーターで地下へ地下へと潜る。

「アザゼル?」

「どうしたぁー?」

「このしたって懲罰房だろう?」

「ああ、そうだな」

「おいまさかヤベェ奴を押し付けようってんじゃないよな? だったら帰るぞ」

「ヤベェ奴……ではないな。出世欲が少しつよすぎるが、お前ほどの地位ならあいつらも黙って従うだろうさ」

「地位? 俺に地位なんて有ってないような物じゃないか」

大使なんてのは名ばかりの肩書きだ。

「大丈夫大丈夫。お前たちの序列は幹部級にしておいたから」

「仕事押し付ける気満々かよ!?」

エレベーターから降り、ある懲罰房の前で止まった。

「いよう。出世欲溢れるお前達にちょうどいい上司を与えてやろう」

牢が開き、出てきたのは三柱の堕天使だ。

「篝。コイツらを好きに使っていいぞ」

「え、あー。うん。わかった」

目の前の堕天使三柱。

見た事がある。

「レイナーレよ。貴方が幹部級である限り私達は全力で仕えるわ」

「あー。うん。よろしく。レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト」












「ふーん……で? 篝はまた女の子を連れてきたんだ?」

取り敢えず三人には領地の屋敷の管理をさせようと思い、ベネムネに撫で回されていた黒歌を拾ってロストで飛ぶとヴァーリが先に来ていた。

エントランスの先の階段の手摺に腰かけている。

「いやそうじゃなくて、本当、ただの部下だよ」

「へー?」

「ちょっと私達の前で痴話喧嘩しないでくれる? さっさと仕事寄越しなさいよ」

「篝? 部下はちゃんと教育しないとダメだよ?」

「後でやるよ……」

取り敢えず…。

「お前達先ずは着替えてこい。黒歌もな」

「うにゃ?」

「ドレスルームだよ」

「あー…言ってた所かにゃ?」

「おう」

「私もなのかにゃ?」

「もちろん」

「はぁ……しょうがない。ついてくるにゃ」

黒歌が三人を連れて出ていった。

「それで? アザゼルは何て言ってたの?」

「どうも奴ら手柄欲しさにアザゼルの研究室に侵入したらしい」

「手柄? それじゃぁ犯罪になっちゃうんじゃない?」

「人造セイクリッドギアで悪魔と一戦交える気だったんだとさ」

「あ、あぁ…成る程…」

「そういう訳だから、あいつらにはドラグーンピースを渡そうと思う」

掌に駒を顕現させる。

龍を象った駒で、その色は赤でなく緑。

カンヘルの力によって強制的に変異した駒。

「うーん…取り敢えずポーンでいっか」

ポーンの駒を三つだけ残し、残りを異空間に放り込む。

「ねぇ、篝」

「どうしたー?」

「私は篝のクイーンには足りないの?」

ん? クイーン?

「え? 何? どういう事?」

「篝がイーヴィルピースを使えるようになってから4日経つけどさ。篝は私にクイーンになってくれって言ってくれないんだね」

「なんで? クイーンなりたいの?」

「篝は嫌?」

「うん。俺はヴァーリを縛り付けたくないんだ。
ヴァーリはきっと強くなる。強い仲間だってできる。
その時に邪魔になるのは俺が嫌だからさ」

ヴァーリは俺になついてくれている。

ずっと一緒に過ごしてきた。

ヴァーリは、俺にとって妹のような存在だ。

でも…

「ヴァーリ。そろそろ兄離れした方がいいんじゃないか?
俺は男でお前は女だ。いつまでもこうとはいかん」

「ふーん…」

ヴァーリが凄く悲しそうな顔をする。

俺だってヴァーリとは一緒に居たいさ。

でもそうはいかない。

「ねぇ、篝」

「なんだ」

「面倒な事は置いといてさ、篝は私といたいんでしょ?
『こうとはいかん』って、篝も今のまま、こうありたいって事でしょ?」

「ああ、そうだよ」

「じゃぁそれでいいじゃん」

「いや…その…ね?」

ぶっちゃけるとヴァーリが超絶美人になってから近くに居るのが気まずい。

うん。あーだこーだ言ってる自覚はある。

「篝」

「なに?」

「私ごちゃごちゃ言っていつまでもくっつかない漫画とか大嫌いなの。
ほら、篝の持ってる小説のヒロインもそんな事言ってたじゃん」

ダメだこりゃ。梃子でも動かん。

「はぁ…。わかったわかった。俺のクイーンはお前にするよ」

「…………はぁ」

ため息つかれた。なんで?

カツカツとヴァーリが歩いてくる。

「ねぇ? 篝ってバカなの?」

「えぇ…?」

目の前でピタリと止まった。

俺より数十センチ高いその身長をぐっと屈めた。

ぎゅぅっとだきしめられた。

「篝。好きだよ。愛してる」

ん━━━━━━━━━━━…………………?

「私は篝が好き。篝を守りたい。篝に守って欲しい。篝のために戦いたい。篝の隣で戦いたい。篝に全てを捧げたい。篝の全てが欲しい」

耳元で囁かれた。

「ごめんちょっと待って。思考が追い付かない」

「ねぇ、ここまで私を落としといて放置なの? また新しい女の子を落とすの? 無自覚なの? ジゴロなの? バカなの?」

おっといきなり罵倒になったぞー。

「いや…その…そんなつもりはなかったです…はい」

「女の子はいつだって自分を助けてくれる王子様を待ってるの。
ねぇ、私の王子様。あのときリリンをやっつけてくれたとき、最初に私のために怒ってくれたとき。
不謹慎にも私は嬉しかったの」

「そっか…」

そうなのか…。

「ねぇ、篝。こんな重い女の子は嫌?」

嫌なわけ…ないじゃないか。

「嬉しいよ。とっても嬉しい」

ヴァーリの事はずっと見てきた。

ずっと側に居た。守ってきた。

「俺はヴァーリが好きだ。でもそれはただの家族愛かもしれない」

「うん」

でも、それでも。

「そうだな…うん…」

ヴァーリに答えるように、同じ人のセリフを引用する。

「お前を好きになる努力を、したいとおもう」

「ありがとう。篝」










蛇足。数日後の話。

『お前を好きになる努力をしたいとおもう』

「言うねぇ!」

「うるさい。あとそのボイスレコードは何だ。消せアザゼル」

「やーだね。せっかく黒歌が渡してくれたんだ暫く酒の肴にさせてもらうぜ」

こそこそ逃げようとした淫乱ロリ猫の後頭部にエネルギー弾をぶち当てる。

「OK。戦争がしたいんだな?」

「おいおいサーゼクス達まで敵に回すのか?」

「なんだと?」

「サーゼクスとセラフォルーには黒歌が、八坂と九重にはジュスヘルが送ったぞ」

「黒歌!」

「きゃー犯されちゃうにゃー!」

「ジュスヘルはどこだ一発殴ってくる」

「さぁ? 今頃八坂の所じゃねぇのか? 戻ってきてからこっち入り浸ってるみたいだぜ」

このあと方々を殴って回った。

なお、父さんの無言のグッドサインが一番イラッときた。 
 

 
後書き
この展開予想してた奴挙手。 
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