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戦国異伝供書

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第二十四話 奥羽仕置きその十

「嫌いではない、ではな」
「箱根においてですな」
「湯に入られて」
「それで楽しまれますか」
「そうしようぞ、お主達も兵達もだ」
 彼等もというのだ。
「入るがよい」
「我等も兵達もですか」
「箱根の湯に入ってよいのですか」
「そうなのですか」
「軍勢で行くのじゃ」
 それならとだ、信長は兵達に答えた。
「ならばじゃ」
「皆で入り」
「そうして戦の疲れを癒し」
「戦場の垢を洗い落とす」
「そうしますか」
「思えばじゃ」
 まさにと言う信長だった。
「都での戦から西に東にと動き回ったな」
「はい、これまで」
「実にです」
「東奔西走でした」
「戦も多くしてきました」
 家臣達も信長に答えて述べた。
「風呂も当然ほぼ入らず」
「戦と歩いてばかりでしたが」
「その垢をですか」
「箱根で」
「皆も落とすのじゃ」
 こう言うのだった。
「そして疲れもな」
「そうしてよいのですな」
「何と有り難いお言葉」
「それではです」
「是非共です」
「うむ、そうするのじゃ」
 まさにと言ってだ、そのうえでだった。
 一行は箱根に寄るとそこで湯に入った、それで信長は湯舟の中で共にいる主な家臣達に対して言った。
「よいのう、湯は」
「ですな、生き返ります」
「そんな気持ちになります」
「湯に入るのは久し振りです」
「余計によいですな」
「全くじゃ、戦に出ておるとな」
 どうしてもというのだ。
「風呂に入ることなぞな」
「滅多にありませぬからな」
「実際にこの度もでした」
「一体前に風呂に入ったのは何時か」
「忘れてしまいました」
「そうじゃ、だからじゃ」
 信長は家臣達に笑みで話した。
「気持ちいいわ」
「では殿」
 ここで慶次が信長に笑って言ってきた。
「次は水風呂に」
「入れというか」
「どうでしょうか」
「お主それは悪戯でしたであろう」
 信長はむっとした顔を作って慶次に言った。
「そうであろう」
「覚えておられますか」
「忘れるものか、わしがお主の屋敷に行った時にじゃ」
「風呂をとお勧めして」
「水風呂だったな、全く」
「如何だったでしょうか」
「お主のことじゃ」
 子供の様に悪戯好きの慶次だからだというのだ。
「そんなことだろうと思ってな」
「足をでしたな」
「入れてすぐにわかったわ」
「流石殿、お見抜きだったとは」
「だからお主のことはわかっておるわ」
 慶次の悪戯好きはというのだ。 
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