獣篇Ⅲ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
48 ドSの上を行くドS
意識が戻ってくると、点滴と心拍数がピッピッピッと鳴り響く音がした。はつとして目を覚ますと、すぐに激しい鈍痛が襲った。産婆さんの掛け声が聞こえてきた。踏ん張るんだよ、ホラがんばれ!
あともう少しで産まれるよ、頭が見えてるよ。
そう言われ、必死で頑張っていると、汗を拭いてくれる手があった。…そう、晋助である。頑張れ、あと少しで一人目が産まれるぞ。
そう言われ、必死で踏ん張っていると、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。耳元で、もう一人もあと少しだよ。頑張れ!
と聞こえる。ひどい鈍痛と薄れ行く意識と闘いながら今か今かと待っていると、もう一人目の泣き声が聞こえてきた。
…あれ??意外とすんなり産まれた??
そんなことを考えていると、船医から赤ん坊たちの性別が告げられた。やはり、男の子と女の子の双子だった。両腕に彼らを抱かせてもらった。今は落ち着いて、クリクリの美しい4つの目で、私を見つめている。女の子の方は、キレイな碧色の瞳に美しい銀髪、男の子の方は、紫がかった銀髪に碧翠色の目を持った、とても美しい双子だった。
私が優しく笑いかけると、二人はまるで天使のような美しい笑みを返し、キャッキャと笑った。あまりに美しいので、つい晋助と目を合わせてしまった。晋助も優しく微笑んでいる。よく頑張ったな。と声をかけられた。あれよあれよという間にも私は担架台のような物に赤ん坊たちと一緒に部屋へ運ばれた。
_「新しい家族が増えたなァ。…零杏に似て、えらく可愛い赤ん坊たちだ。」
_「…両親の良いとこ取りしたわね。」
双子は、籠の中に入れられ、私の寝る両隣に寝かせられた。クリクリのお目々でじっと見つめてくる。時折キャッキャ笑うのがかわいくて仕方ない。
彼らの名前は、どう付けようか。
彼らの名字は、高杉か、久坂か。
これは要相談事項である。
_「零杏、今さらだが…オレと結婚してくれ。」
おっとォ…
_「…私でよいのですか?」
_「あァ。今さらになっちまって、すまねェ。だが、これ以上引き伸ばす訳にはいかねェ。…それは分かるだろ?」
今さら?遅くない??
_「…じゃあ、私になにかあっても、責任とってくれるかしら?…旦那様?」
クスクスと笑いが込み上げてくる。
_「…あァ。オレと…高杉晋助と今世を共に生きてくれるか?…死がオレたちを別つまで。」
左手の人差し指と中指を空に立てて、空に誓う。
_「誓います。」
_「汝を妻とし、今日よりいかなる時も共にあることを誓います。」
_「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も…」
_死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います。
お互いに指輪をはめあう。
そして、誓いのキスをも。
キスが終わり、双子の名字と名前の話になった。
_「じゃあ彼らの名字は高杉だとして。…私は、職業ネームは久坂で通すわ。戸籍は高杉だけどね。…双子の名前を考えないと。じゃあ…」
_「男子は双樹、女子は沙羅、…なんてどうかしら?」
と私は提案してみた。いいじゃねェか。と返す晋助。じゃあ、これに決定!ヽ(´ー` )ノ
双子に向き合う。クリクリの4つのお目々で見つめている。
_「…あなたは、沙羅、そしてあなたは双樹、…私の好きな樹の名前から取ってきた名前よ。」
キャッキャと嬉しそうである。
_「…宜しくね。私はママ、この人はパパよ。…ホラあなた、ご挨拶して。」
宜しくな、と晋助が手を握ると、彼らも手を握り返す。なんて利口で聡明な子たちなのだろうか。感動した。
私は、彼らを守る義務がある。
このことが天導衆にバレてはいけない。さて、どうしようか。
とりあえずは、真選組に戻らねば。
* * * * * * * * * * * *
そろそろ見廻組が発足するとのことだったので、私は真選組に復帰することになった。勿論、ポジションは監察である。久しぶりに部屋に戻ると、何やら色々な雑貨が置いてある。どうやら総悟のグッズのようだ。文句を言いに行こうと部屋から踵を返そうとする時だった。噂をすればなんとやら、である。
_「アレ、姐さん?…今日から復帰するでィ?」
_「ええ。さっき部屋に着いたわ。…そしたらあなたのらしきグッズがたくさん置いてあったから、ちょうど探していたところだったのよ。丁度いい、あの雑貨、捨ててしまっていいかしらねぇ?」
冷たい微笑(そう見えているかは不明)を浮かべてじっと見ていると、総悟がギョッとして視線を合わせた。
_「ね、姐さん…そりゃァねェぜ…後で取りに行きやすんで、しばらく放置しておいてくだせェ。…オラァ、ちょっくら昼寝してくらァ。」
もしもしお兄さん?なんか聞き捨てならねェ言動が聞こえたんですが。
_「…そう。どうやら昼寝?が忙しそうだし?ちょっくらゴミ捨てに行ってこようかしら?…ちょうど部屋を掃除しようと思ってたところだしね。」
じゃあね、と勝ち誇った笑みを浮かべてその場を踵を返して部屋に戻ろうとすると、総悟が慌てて分かりやした、片付けますんで、ご勘弁を。と分かりやすいよいお返事を返したので、今回は特別にお許しを出してやろうじゃないか。
ってか、そんなに大事なものなら自分の部屋で保管しなさいよ。www
_「…よいお返事だこと。じゃあ、私が看ててあげるから、罰として私の部屋も掃除すること。分かった?…もし私の部屋から脱出しようもんなら、体内がマヨネーズで埋め尽くされるまでマヨネーズを全身に詰めますわ。覚悟はよろしくて?」
ヒッと小さく息を詰める音がして、総悟が珍しく怯えた口調で返事をしている。
_「わ、分かりやした…掃除します。逃げません…約束致しやす。」
よいお返事。
_「じゃあ、ここに署名と捺印を押してもらうわ。そしたら契約成立ね?…じゃあ、まずは副長の部屋にいくわよ?…だって立会人がいないと、あとで水掛け論になっても面倒くさいしね。」
と言って、私は袴の着物の袷から書類を取り出し、行くわよと声をかけた。
逃がしはしないわ。と独り言を言い、腰の刀に手をかけたのが見えていたらしく、ヒッと怯えて、分かりやした、行きますから斬らねェでください。と弱音を吐くのを小耳に挟みながら副長室へ行く。久坂です。失礼します。と襖に声をかけると、入れ、とシンプルな答えが帰ってきた。遠慮なく襖を開けると、副長が膨大なデスクワークを片付けている最中だった。入ってきた私たちを一目みて、お、零杏じゃねェか。と驚きの表情をしていたので、私は答えた。
_「ええ。先程部屋に戻りましたので、帰還のご挨拶をしに参りました。」
じゃ、オレはこのくらいで、とか言う悪タレの声が聞こえたので、言葉は続けながら、目にも止まらぬ瞬間技で腰の刀を抜き、総悟の頸動脈に沿わせて囲った。ヒッという悲鳴が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
_「また、部屋に戻った際に沖田さん?のガラクタがあっちこっちに転がっていたので、ご本人様に責任を取っていただこうと宣誓書を…立会人の元、書いていただこうと思いまして。…副長に立会人をお願いしようと思った次第ですわ。」
おォ、…と若干引いている副長を尻目に、持っていた書類を副長の机の上に置き、、刀で囲っておいた総悟を現行犯ですわ?と隣に並べ、ペンをお出しなさいな、と声をかける。わ、分かりやしたと半ば悲鳴のような声をあげながら刀の位置は頸動脈の真上である。
_「…という次第でさァ。立会人が土方コノヤローなのは気に食わねェですが姐さんご指定なんで、…仕方ねェ。オラァ、腹をくくって書きやす。武士なんで。」
_「なるほどな、そういうことか。」
と副長は呑気に、そしてとても楽しそうに見ていた。
ページ上へ戻る