衛宮士郎の新たなる道
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第5話 日輪の想い
前書き
此処だけ見ると一番ヒロインやってる最上旭。
昼休みになって士郎は屋上に来ていた。
学業再会の月曜日になってから三日間とも昼休み中屋上にいるのだ。。
目的はせめてものと、自身の力が誇る超人的なまでの視力による周囲への警戒と捜索だ。
俺は――――あの地獄が地上に舞い降りた日。多くの悲鳴や助けを振り払って身勝手に生き残った。
だから俺はあの日から、生きていること自体に何処か無意識的に罪悪感を感じながら毎日生きていたと思う。
そうして切嗣が。爺さんから正義の味方と言う夢を引き継いでからの迷走。
そして運命の夜からの激動を乗り越えてからの奔走の果て。
今の俺は罪人であり、中途半端な卑怯者だ。
罪とは身勝手に1人生き残った事であり、卑怯とは2人目の魔術師の師匠であり、戦友であり、憧れであり魔法使いの見習いに至った女性からの好意の結果を言い訳にして、爺さんから引き継いだ正義の味方になると言う誓いを裏切った事だ。
その上でならばせめてものと、手の届く範囲の人達は全員助けると言う新たな誓いすらも結果として出せずにいる。
天谷ヒカル。
彼女も本来であれば報われて良い筈の少女だった。いや、報われていなければいけない少女だった。
しかし結果報われずにみすみす目の前で助けることが出来なかった。
――――なんて無様。なんて愚か。俺は・・・俺に誰かを助ける資格なんてあるのか?これからも誰かを守る資格なんて俺に・・・。
無意識に金網を握る手を強くしてしまう。
「士郎・・・?」
そこに後ろから士郎に対して声をかけるものがいた。旭だ。
「っ!?・・・・・・最上か。どうした?」
「貴方がこの三日間、昼休みになると同時に直ぐに教室から出ていくのが気になったから今日は尾行みたのだけど・・・・・・どうかしたのかしら?」
「尾行るって・・・・・・それにどうかしたって、それこそどういう意味だ?」
「士郎・・・・・・無意識なの?」
「無意識?いや、だから如何いう意味なんだっ」
まるではぐらかされているみたいで、我ながら自分らしくもなく妙に苛立った上で声を荒げてしまう。
「なら言わせてもらうわね。――――貴方、今まで見た事も無い顔してるわよ。それこそ例えるなら・・・・・・そう、今にも屋上からの飛び降り自殺しそうなほど酷いわ」
「・・・・・・・・・・・・」
最上からの指摘に俺としては強く反応するところは無い。
俺に自殺なんて許されないし、する気も無い。だがそんな例えをされるくらい酷い顔をしているのだろう。
最上は俺の反応に対して溜息を吐いた。
「その反応はあまり良いモノでは無いわね。指摘された事で初めて気づくなり無意識でいたから驚くなりの反応の方がよっぽどマシよ?」
「・・・・・・」
その忠告も俺は否定しなかった。代わりに今度は視線を逸らす。
「・・・・・・何が在ったかは聞かないでおくわ。意地になって誰であろうとも暗い顔を見せた事のない貴方がそんな顔を維持したままなんだもの」
そこで一拍置いて、
「その代わり、私が元気になる魔法をかけてあげる」
そう言って俺に至近距離まで近づいて来る最上。
「・・・どうし、むぐ!?」
「ン・・・」
なんと背伸びして俺に口付けをしてきた。リザじゃあるまいし不意打ち過ぎる。
すると閉じていた瞳が開いて何故か蔑むような目で見て来たかと思えば、両腕を俺の首に絡めて膝を曲げる様に引っ張ってきた。
対して抵抗見せずに為されるがままにしたら、
「ンン!?」
「・・・ぁんむ・・・ぇれる・・・ぁんちゅ」
なんと唇を無理矢理開いて舌を侵入させて俺の舌と濃厚に絡めてきた。
「みゅる・・・ンン・・・・・・ぁえろん」
「っ!ぷはっ」
「ぁん・・・・・・フフ、強引ね」
しまいには自分の唾液を舌を便って飲ませて来たので、俺は反射的に無理矢理離れたのだ。
「な、なにを・・・!」
「なにって、元気になる様に魔法をかけて上げたのよ?実際さっきまでの顔とは天地の差の違いがあるくらい良い表情じゃない?それに顔も少し赤くしちゃって初心でもないでしょうに」
「最上くらいの美人にディープキスなんてされたら表情なんて変わるに決まってるだろ!それに初心でもないとか、何て言い草だ・・・!」
だが当の旭は省みずに言い返す。
「だって士郎、貴方既に女性経験あるでしょ?」
「な、なにを根拠に!」
「根拠じゃなくて女の勘よ。私が知っている人の中ではハーウェイ家次期当主殿の護衛のリザ・ブリンカーさんと百代あたりだと思うのだけれど、どうかしら?」
「・・・!」
どうしてそんなピンポイントで判るんだ!と言い返したい士郎だったが、言い返すと自白する事になるので別の切り口から反撃を試みる。
「俺の事は兎も角、最上も男性経験豊富なんじゃないのか?よく解らない理由で俺に平気で口付けしてくるなんて。付き合っている彼氏に申し訳ない気がしなくもないが・・・」
士郎の言葉に一瞬キョトンとする最上。そして直にジト目になる。
「男性経験なんて無いわよ?私がそんな安い女に見えるとでも?」
「え・・・?じゃ、じゃあ、まさか今のは・・・」
先程の行為を思い出して自分の口を触る士郎に対して、旭は妖艶に笑う。
「そう。私のファーストキスを貴方にささげたのよ」
「っ!何でそんな事・・・」
対して最上は溜息を吐いた。しかも何故か落胆と呆れが入り混じった様な瞳を向けて。
「此処までしてるのに気づいてくれないなんて、どれだけ鈍感なのかしら」
一拍置いて。
「私は1人の女として士郎と言う男性を好いていると言う事。勿論異性としての好意よ」
「なっ!何で俺なんかを・・・!」
「それ止めなさい」
いきなりの告白と言う名のドロップアウトに驚愕したままの士郎に対して、笑顔から一転して真剣な表情で叱る。
「今更自分への過小評価を士郎が治せるとは思えないけれど、貴方は今の言葉よく理解して言っているの?」
「・・・?」
「今のそれはね、自分への過小評価と同時に貴方に好意を持った私の気持ちを蔑ろにした上に侮辱したも同然なのよ」
貴方は無意識なのでしょうけれどねと、付けだして。
「そ、それは、そんな事は・・・・・・」
「・・・別にね。私は士郎を糾弾したいわけじゃないのよ」
「え?」
「貴方は自分に厳しすぎるのよ。だから無意識的にもさっきみたいな事も言ってしまう。だから少しづつで良いから自分を労わってあげて。優しくしてあげて。それが今の私の願い」
「・・・・・・・・・」
「貴方が気にしてる事がどれだけ重いのかは私には分からないし、代わってあげる事も出来ない。その代わりに私の前ぐらいで気を抜いてもいいのよ?全部とはいかなくとも何も知らない中でもないんだから」
「それは・・・・・・」
まだ抵抗しようと言う士郎に旭はしょうがないわねと実力行使に出る。
以前初見で見破られた熏紫韋威胴丸に、最愛の父親にすら内緒で改良を重ねた技で勝負する。
この改良版の目的は単純だ。僅かな時間で勝負を決める。
僅か5秒と言う間だけ気配や音、匂いや存在すら消すと言うよりも生と死の境界に自分を置く事で両面的に世界を騙す技だ。
この技が通じない存在がいるとすれば、それは同じく境界にて世界を騙せる業を自分よりも古くから持ち続けた者のみだろう。
話は少しずれたがこの技であればいくら士郎とて気付けるものでは無い。
瞬時にいとも容易く背後に回り込んで、獲ったと確信したと同時に士郎の首の関節部の為にも技を解く。
「最がっ、あむるっ!?」
「んむる・・・ありゅ・・・・・・えりゅ・・・・・・あぇ」
士郎の反応を無視して決して逃がさないと両手で頭を放さずにディープキスを続ける。
「んりゅ・・・あんむぅ・・・ちゅる」
最初は士郎も抵抗を試みようとも考えたが、先程までの自分くらいには甘えても良い発言を思い出してから抵抗せずに、もうどうにでもしてくれと旭のディープキスの全てを受け入れる事にした。
そうしてしばらく濃厚なディープキスに時間を費やす。
「ぷはぁ・・・・・・フフ、初めてでもないでしょうに頬赤くして可愛いわね」
「可愛いと評されても男として嬉しくないんだが・・・・・・それはいいとして。まさか最上が此処まで強引な性格だなんて初めて知ったぞ」
「フフ、なら良いじゃない。これで私の事をまた一つ知ることが出来たんだから。それとご馳走様。愛しい男の口づけはなかなか格別モノだったわ」
「その、俺は・・・・・・」
「べつに答えを欲しくてした訳じゃないから心配しないで。それにこれでもう、クラスメイト程度の浅い関係でもないでしょう?繰り返すけど、私の前くらいなら弱気になろうと構わないのよ」
まるで母親が子供を諭すような言葉に、士郎は意固地さを諦める。
「最上にはまいった。それに分かった。弱音・・・・・・を吐けるかは分からないけど少し考えてみるよ助言通り」
「そうね。今の士郎からいきなり変わるなんて言葉、到底信じられないから少しづつで良いんじゃないかしら?」
「ああ、ありがとう最上。これで少しは気が楽になれた気がする」
「どういたしまして・・・♪」
「けどされてばかりじゃ別の意味で申し訳なく思えて来る。何か俺に出来る事ないか・・・・・・って、あっ」
先程愛の告白をされた事を思い出す。
その士郎の顔で何に気が付いたか気づく旭。
「返事は今じゃなくって言ったでしょう?士郎のこれ以上背負わせたく無いモノ」
「・・・・・・すまない」
「いいのよ。それよりも、それ以外にお返ししたいって言うならこれからは私の事旭って呼び捨てにしてもらえないかしら?」
「そんな事で良・・・・・・いや、良いのか?」
一瞬、士郎が何を疑問に思ったのか理解に遅れた旭だがすぐに理解した。
「構わないわ。熏柴韋威胴丸の認識阻害の度合いはそこまで軟なモノじゃないから」
「了解した。――――ありがとうな旭」
「っ!?~~~~っっっ!!」
ただ下の名前で呼び捨てにしてくるだけではなく、何故か抱き寄せた上で頭を撫でだしたのだ。
これには先程から主導権を取っていた旭も驚かずにはいられない。しかも優しく抱きしめながらの頭を撫でると言うアクションは彼女の予想以上のダメージを与えた。所為クリティカルヒットである。
「士郎」
「ん?んむ!?」
本日三度目の口づけの奇襲。
士郎からの予想以上の反撃に我慢できなくなり、またも唇を奪ったのだ。
「ん」
「ンン・・・」
だが今度のはディープでは無く、普通の口づけ。そして数秒後、残惜しそうに旭から士郎から離れた。
「もう、士郎はズルいわ」
「なんでさ?それにズルいのは旭の方だろ?これで三度目なのに意識するなって無理があるぞ?」
「あら?私を早くも抱きたくなっちゃった?欲しがりさんね」
「ばっ、馬鹿言うな!そんなわけないだろ!」
「そこまで強く否定されると傷つくのだけれど・・・」
「あ、わるい」
「フフ、冗談よ。あまり気にしないで」
言って、少し離れてから士郎の顔を改めてみてから良かったと頷く。
「来た時よりわ元気になったわね。良かった」
「それもこれも全部旭のおかげだ。本当にありがとうな」
「構わないわ。普段から私の事も黙ってくれてるんだし。何より私も報酬貰った訳だしね」
「名前で呼ぶくらい、希望があればいつでも呼んだんだがな」
「良いのよ。これから呼び続けてくれればいいのだから。――――それで私はもう降りるけど、士郎はどうする?」
「悪いが俺はもう少し此処に居るから、先に教室の戻っていてくれ旭」
「ええ。それじゃあね」
笑顔で別れてから給水塔の下にある階段付近の壁に、何故か手を置く。
「此処に間違いなくいたわね。百代」
旭は熏柴韋威胴丸を普段から毎日使う為、それとは逆の気配感知も他のマスタークラスよりも非常に高く、百代が此処に居て自分と士郎の様子を盗み見ていた事も気づいていた。
「ごめんなさいね百代」
見せつける気があった訳では無い。
だが自分の存在が世間に対して大々的に公表される前の今じゃないと、もう二度と士郎に自分の気持ちを告白するタイミングを逸してしまう。
だからと言って付き合う気がある訳では無い。運命の日――――暁光計画が成功すれば、この地の周辺どころか世界中の何所にも自分の居場所は無い。文字通り“私”はこの世からいなくなる。
それもこれも父の悲願であり、世界の為でもある。
故に私は世界の為の礎――――人柱になる。
そして今はそれだけじゃない。
生まれて初めて女として好きになった異性――――衛宮士郎の未来の為。
未来の士郎の横に自分の居場所は無いモノの、彼の為と思えば諦観では無く覚悟として暁光計画にこの身を奉げる事に不安と恐怖を感じなくてよくなる。
「だからね百代。それに同じく上で盗み見していた燕も、今だけは許してちょうだい。そして」
――――私が消えた世界での士郎の事、よろしくね。
-Interlude-
先の屋上でのやり取りを士郎当人も屋上から去るまで見ていた視線が3人分あった。
1人は旭自身も気づいていた燕だ。
屋上で入り口の上に設置してある給水塔近くで偶然寝ころんでいた所で、後から来た2人の逢瀬を見てしまった感じだ。
ギリッと奥歯を噛みしめながら怒りに燃えている。
「赦さないよ・・・!私から士郎を横取りする泥棒猫は誰であろうと・・・・・・」
愛しの士郎の唇を三度も盗んだ匹夫の姿を忘れないように頭の中で形にしようとしたが、如何しても出来ない。
「あれ?背丈は?体型は?髪の色は?長さは?・・・・・・・・・・・・どうして思い出せないの?」
ただ疑問しか残らない燕。
2人目は随分離れた高層ビルの屋上にて実弾を入れていないスナイパーライフル越しから見ていた誰か。
そして3人目は・・・・・・。
「衛、宮・・・士郎。最、上・・・旭。――――お、前らは・・・・・・・・・・・・・ハ、果たして・・・・・・・・・・・我が存在意義をフルうのに・・・・・・・・・・・・・・・相応しいか?救済を望むか?』
自殺の聖地と言われる川神山の奥にて、今しがた救った者達をよそに、その距離から2人を注視していた死神がいるのだった。
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