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永遠の謎

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69部分:第五話 喜びて我等はその七


第五話 喜びて我等はその七

「女性のことは」
「いえ、噂ではないようです」
「そのことですか」
「とかく噂が耐えません」
「今もです」
「私は噂なぞ聞きはしない」
 きっぱりと言い切った王だった。
「私のことは知っている筈だ」
「は、はい」
「そのことはです」
「知っているつもりです」
 誰もがだった。王のその言葉に畏まる。王は噂を好まなかった。そうした人についての陰口や中傷はだ。彼の嫌うところであったのだ。
 だからだった。彼はだ。それは金銭についてよりも素っ気無かった。
 その素っ気無さのままだ。王はまた話した。
「ではだ」
「はい、それではそのことは」
「いいのですね」
「それは」
「そうだ、私は全く気にしない」
 これがこの問題についての王の考えだった。
「それで問題はない」
「では彼のユダヤ人嫌いは」
「それは彼の本にも出ていますが」
「それについては」
「私がそれを用いなければいい」
 反ユダヤ主義についてもそうだというのだった。
「違うか。それは彼個人のことだ」
「彼個人の考えに過ぎないと」
「そのことはですか」
「そうだ。どうということはない」
 そうだというのであった。
「反ユダヤ主義は何も生み出さない」
「彼等は知識人に多く財界での発言力も強いです」
「それを考えればです」
「決して無視できません」
「何があっても」
「私とてそれはわきまえている」
 はっきりとした言葉だった。実にだ。
「これもそれで問題はないな」
「わかりました。それでは」
「そのこともですね」
「陛下は何ともないと」
「ではだ」
 ここまで話してまた言う王だった。今度の言葉は。
「これからのことだが」
「これからといいますと」
「ワーグナーについてですか」
「そのことですか」
「そうだ、トリスタンとイゾルデ」
 このオペラのことを話すのであった。
「その上演のことだが」
「はい、それですが」
「まず歌手選びで、です」
「揉めております」
「あの二つの役だな」
 王は周りの言葉にすぐに顔を向けて述べた。
「トリスタンとイゾルデだな」
「どちらもワーグナーが人を選ぶので」
「かなり難航しています」
「彼は。歌手への要求が厳しく」
「それに適う者が中々いないのです」
「歌手についてはだ」
 王はこのことについてもだ。言うのであった。
「彼に全てを任せる」
「左様ですか」
「そのことはですか」
「他のことも全て任せている」
 歌手選びだけではないというのだ。要するにオペラのことは全て彼に任せているというのである。
「私が口出しをすればかえって悪くなることだ」
「では陛下は資金援助に徹されると」
「そう仰るのですね」
「私にできるのはそれだけだ」
 王はワーグナーを心から信頼している。それが言葉になって出たのである。
「彼は全てを創る」
「音楽を」
「芸術をだ」
 ここでも王の顔が恍惚としたものになる。
 
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