永遠の謎
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643部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその二十
第三十六話 大きな薪を積み上げその二十
従者が一人入室して来てだ。一礼してから王に述べた。
「デュルクハイム大佐が来られました」
「大佐が」
「御会いになられますか?」
「そうして下さい」
すぐにだ。王はその従者に述べた。こうしてだ。
バイエルン軍の軍服、王にとっては懐かしいそれを着た精悍な顔立ちの男が来てだ。そのうえで敬礼をしてからだ。王に述べたのである。
「陛下、遅れて申し訳ありません」
「私はもう王ではないのですが」
「いえ、陛下は王であられます」
こう王に言うのである。
「謀反人達に惑わされないで下さい」
「私はまだ王ですか」
「私は陛下を御護りする為に来ました」
こうだ。王に話したのである。
「すぐにミュンヘンに参りましょう」
「ミュンヘンにですか」
「はい、そうです」
そのだ。王の都にだというのだ。
「そこにいらして下さい」
「あの町にですか」
「民、そして軍は陛下のことを心から敬愛しています」
彼等の王への想いは変わっていなかった。何故なら彼等にとって王は魅力ある、そして自分達と共にある王だからだ。そのことは変わらないのだ。
だからだ。デュルクハイムは今王に言ったのである。
「陛下が彼等の前に出ればです」
「それで、ですね」
「はい、彼等は陛下と共に立ち上がります」
確信だった。王の民衆、そして軍隊での圧倒的な人気を踏まえてのことだ。
「ですから。是非共」
「王位、そして王都」
その二つについて。王は呟いた。
そのうえでだ。こうデュルクハイムに言うのだった。
「あの都はかつてワーグナーを追い出しました」
「そのことは」
「私のことを思ってですが私にとってかけがえのない者をそうしました」
そのことがだ。今も出たのである。
「その時に様々な醜いものも見ました。ですから」
「あの都にはですか」
「戻りたくはないのです」
暗く沈んだ顔でだ。こう王は話すのだった。
「そうなのです。あの都には」
「しかし都に戻られれば」
「私はそこまでしたくはないのです」
その暗く沈んだ顔での言葉である。
「職務は叔父上が為されるのですね」
「ルイトポルト大公殿下のことですか」
「叔父上はいつも優しい方でした」
過去形だった。完全に。
「あの方なら任せられます」
「しかしあの方こそがです。摂政になられたということは」
「いえ、叔父上に悪意はありません」
そのことは見抜いていた。いや、わかっていた。
大公がどういった人物なのかも王はわかっていたのだ。だからだった。
こうだ。王はデュルクハイムに話した。
「そして他の者達も」
「謀反人達もですか」
「悪意はないのです」
それもないというのである。
「しかしそれでもです」
「それでもなのですか」
「はい、こうなっています」
悪意はない。そしてそれはだった。
そのミュンヘンについてもだ。王は話すのだった。
「あの町の者達も。そうだったのですが」
「それなら。悪意がないのなら」
「悪意がなくとも醜い場合があるのです」
「それがなくともですか」
「だからこそです」
王は言った。
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