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永遠の謎

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640部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその十七


第三十六話 大きな薪を積み上げその十七

「あの方の為されていることはこれまでになく素晴らしいことだからだ」
「それ故にですか」
「予算は尚更関係ない」
「そう仰るのですね」
「彼等はバイエルンの中でしか考えていない」
 それに対してビスマルクはだった。
「だが。私はドイツ全体から、そして歴史と人間から考えてだ」
「そのうえでバイエルン王をお救いする」
「それが閣下のお考えなのは聞いています」
「そういうことだ。最早バイエルンだけで考える時代ではない」
 時代も変わったというのである。
「ドイツ全体で考える時代なのだ。彼等はドイツ帝国の誕生を望み我々に強力しておきながらそのことが全くわかっていないのだ」
「矛盾ですね、まさに」
「それは」
「だがあの方はそのこともわかっておられる」
 バイエルン王のことだ。今ビスマルクが救おうとしているだ。
「だからこそ。ああして心を閉ざされてもいるのだ」
「バイエルンが一つの国としてある時代は終わった」
「そのことがですか」
「わかっているからこそだ」
 それでだというのだ。
「ああなられた。もっともそうさせたのは私だが」
 他ならぬだ。彼だというのだ。
「あの方をドイツ帝国誕生の為に利用したのだからな」
「あの即位の時ですか」
「バイエルン王の推戴を取り付けた」
「あの時ですね」
「ドイツ帝国誕生の為には必要だった」
 ドイツ諸侯の中でだ。プロイセン王に次ぐ立場にあるバイエルン王の帝位への推戴があってこそだ。ドイツ帝国が誕生できたというのだ。
 それでだ。彼は言うのだった。
「あの方がそれにより深く傷付くこともだ」
「わかっていてそのうえで、ですか」
「閣下はそうされたのですか」
「そうだ。政治として必要だったからだ」
 これもまたビスマルクだった。やはり彼はシビアだ。政治に関しては。
「だからああした。そしてその私がだ」
「今陛下をお救いする」
「そうされるのですか」
「これもドイツの為だ。そしてやはり私はあの方を敬愛している」
 個人の感情もあった。そこには。
「それが故にだ。あの方は利用してもお救いする」
「矛盾していませんか、それは」
 側近の一人、先程の側近とはまた違う者だ。
「利用しそのうえでお救いするのは」
「そうかも知れない」
 このことはビスマルク自身も否定しなかった。だが、だった。
 こうだ。その側近に話すのであった。
「だがそれもだ」
「それもといいますと」
「人間なのだろう」
 顔を俯けさせてはいないがそれでもだ。今は目を暗くさせるビスマルクだった。
「矛盾すること自体がな」
「矛盾こそ人間である」
「だからなのですか」
「あの方をそうされるのですか」
「私はドイツの為には何でもする」
 政治家として、ドイツ人としての言葉だ。
 その二つに基いてだ。彼は今言うのだ。
「だからこそあの方も利用した。しかしだ」
「あの方はドイツの宝であり、ですね」
「敬愛もされているからこそ」
「必ずお救いする」
 このことも言うのだった。同時にだ。
 
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