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永遠の謎

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638部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその十五


第三十六話 大きな薪を積み上げその十五

「神に近いとは。陛下御自身も思われていなかった。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「あの方の御心はもしや」
 今になって気付いたのだった。大公もまた。
「女性だったのではないのか」
「陛下の御心は女性だったのですか」
「男の身体を持ちながら」
「陛下の美貌は男の美貌だ」
 彫刻の様だともアドニスだとも言われる、その美貌はだ。
 だがそれは外面のことであり内面はどうなのか。大公はそのことに気付いたのである。
「だが。御心は」
「女性のものだった」
「そうなのですか」
「何故ローエングリンを愛するか」
 ワーグナーだった。その答えのヒントになるものは。
「そのことはロマンだけではなかったのだ」
「御心が女性だからこそあの騎士を愛する」
「そうしたことでもあった」
「そう仰るのですね」
「その様なことがあるとも思わなかった」
 身体が男であっても心が女である、そうしたことがだというのだ。
「そんなことがな」
「そういえばです」
 ここでふと気付いた。今大公の周りにいる者のうちの一人がだ。
「ジョルジュ=サンドですが」
「ショパンとの恋愛のか」
「はい、彼女は自分の心には男性的なものがあると考えている様です」
「だからこその男装か」
「そうではないでしょうか」
「性は身体のものと心のものがある」
 大公はこの考えに至った。ここでようやく。
「そうだったのか」
「では男性を愛するということも」
「陛下にとっては自然だったのですか」
「そうなる。あの方の御心が女性ならばだ」
 ワーグナーやビスマルクが気付いていたこと、そのことを大公もようやくわかった。
 それでもだった。今はだった。
「だが。本当に遅過ぎた」
「そのことに気付かれるのが」
「そのことが」
「そうだ。遅過ぎた」
 また言う。悔恨と共に。
「最早賽は投げられたのだからな」
「我々はその賽に従うだけ」
「それだけですね」
「その通りだ。それしかない」
 言葉だけが出る。それだけが。
「ではだ。あの発表を出してだ」
「はい、そのうえで」
「大公殿下が摂政に」
「私ができることをしよう」
 沈んだ顔で言うのだった。
「その最大限のことを」
「はい、ではお願いします」
「これより」
 こうしてだった。大公は摂政となり王の退位を発表した。そのことはすぐに電報でベルリンにいるビスマルクにも伝えられたのだった。
 その電報を聞いてだ。彼はすぐに側近達に告げた。
「では私も電報を出そう」
「はい、バイエルンにですね」
「今より」
「この電報は公のものではない」
 鋭い目でだ。彼は言ったのだった。
「そのことはわかるな」
「無論です」
「ではそれをすぐに」
「打ってくれ。そしてだ」
 ビスマルクのその計画が話されていく。
「バイエルン王を救出できれば。オーストリア皇后も動かれているな」
「はい、既にバイエルンに密かに入られた様です」
「そのことにバイエルン側が気付いていません」
 側近達はバイエルンのことも話す。
 
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