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永遠の謎

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63部分:第五話 喜びて我等はその一


第五話 喜びて我等はその一

                第五話  喜びて我等は
 王は待ちながらだ。ソファーに座りそこで音楽を聴いていた。それは。
 大行進曲であった。ワーグナーのオペラタンホイザー第二幕のその華麗かつ豪奢な音楽を聴いていた。そのうえでこう口ずさむのだった。
「喜びて我等は尊き殿堂に挨拶を送る」
「この曲の歌詞ですね」
「そうだ」
 その通りだと侍従の言葉に応える。侍従は彼のその前に控えている。
「今の私の気持ちだ」
「陛下のお気持ちですか」
「どれだけ嬉しいかわからない」
 その言葉は恍惚とさえしていた。
「言葉では。全てを言い表せないまでだ」
「そこまでなのですか」
「そうだ。卿はわかるだろうか」
 その若い侍従に顔を向けて問う。耳は音楽に向けたままで。
「この私の今の気持ちが。それは」
「ときめきでしょうか」
「ときめきか。そうだな」
 その言葉を告げられてだ。王は頷いた。
「それだな。今の気持ちは」
「陛下は今その中にあるのですね」
「常にだった。ワーグナーの音楽を聴く前に常に感じていた」
 そのときめきをだというのだった。
「そして今はとりわけだ」
「感じておられますか」
「期待だ」
 次に出した言葉はこれだった。
「そして希望だ。私は今エリザベートやエルザの気持ちがわかる」
「そのワーグナーの姫達のですか」
「そうなのだ。彼女達もまた同じだったのだ」
 そのワーグナーの曲を聴きながらだ。彼は恍惚として語るのであった。
「今の私と同じく。愛しい騎士達に会う期待と希望にときめいていたのだ」
「陛下もまた」
「そうだな。私は姫ではない」
 王だ。それは間違いない。
「しかし同じくだ。ときめいているのだ」
「ワーグナー氏は今日来られます」
「夜だったな」
 それが何時になるか。彼は既に知っていた。
「夜に来るのだったな、このミュンヘンに」
「その通りです」
「やはり楽しみだ」
 王はまた話した。
「私は何時までも起きている。そして待とう」
「そうされますか」
「今日は寝ることはしない」
 はっきりと言った。そのときめきに従い。
「待っている」
「どれだけでもですか」
「夜は好きだ」
 これは王の嗜好であった。
「自然と落ち着く」
「夜がですか」
「昼にはない美しさもある」
 王は夜にそうしたものも見ているのだった。
「だからだ。夜になろうともだ」
「待たれるのですね」
「むしろ夜に会うのがいいかも知れない」
 こんなことも言う王だった。
「彼に会うのは」
「夜ならばこそですか」
「ワーグナーは夜だ」
「夜なのですか」
「ワーグナーの作品では常に夜が大きな意味を持っている」
 だからだというのである。
「夜に何かが起こる。ワーグナーの時ではそうなのだ」
「それで夜に」
「会えればいいのかもな」
 こう話してであった。
「彼とは」
「そしてこの王宮で会われる」
「バイエルンは今永遠の芸術を手に入れるのだ」
「ワーグナー氏を」
「その為に私は待つ」
 王はその言葉を続ける。
 
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