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永遠の謎

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619部分:第三十五話 葬送行進曲その十八


第三十五話 葬送行進曲その十八

「それで宜しかったのですね」
「はい、あの方々がいてこそです」
 どうかというのだ。それでだ。
「ワーグナーの最後の作品は聴けます」
「左様ですか」
「確かに色々なことがありました」
 コジマとのこと、それがだった。
「ですがそれは今ではどうでもいいことです」
「どうでもいいのですか」
「はい、いいのです」
 こう言ってだった。王はワーグナーのその醜聞を打ち消したのだった。
 そしてだ。王はロイヤルボックスに入った。そうしてだ。
 王の後ろにだ。彼等が案内された。コジマと。
 そして彼女の娘達もいた。そしてだ。
 一人の少年がいた。王は自分の席から立ち上がり彼等に身体を向けてだ。その少年に対して微笑みこう言ったのだった。
「君がですね」
「はい、ジークフリートです」
 少年は一礼してから王に答えた。
「ジークフリート=ワーグナーです」
「話は聞いています。今は音楽の勉強をされていますね」
「そうしています」
「今から君は御父上の音楽を聴きます」
 そしてさらにだった。
「その舞台もです」
「陛下と共にですね」
「御父上の作品は既に何度も聴かれたと思います」
 ジークフリート牧歌もある。他ならぬ彼の為の音楽なのだ。
「ですがそれでもです」
「はい、陛下と共に聴くことはです」
「はじめてですね。そしてです」
「そして?」
「私はこの作品をはじめて観ます」
 パルジファル、その作品をだというのだ。
「私の為に。御父上が創ってくれた世界を」
「その世界をですか」
「そうです。私は今それを観てです」
 そうしてだというのだ。
「これから旅に入ります」
「旅に」
「そうさせてもらいます。では今から」
「はい、父のパルジファルをですね」
「私を描いてくれたその作品を観させてもらいます」
 こう話してなのだった。王はだ。王自身を観るのだった。
 神聖だが幻想的で何かが違う、まさに神を祝福する前奏曲からだ。森の世界がはじまる。その緑の中に少年達と老騎士グルネマンツがいる。
 そこに粗野な魔女クンドリーが来、やがて愚かな少年が来た。物語は静かにはじまり宗教画の如く進められていく。
 第一幕が終わる。パルジファルは聖杯城を追い出される。その時はだ。
 王は拍手をしなかった。その王に王の後ろに用意された席に座るコジマが尋ねた。
「拍手は為されないのですね」
「はい、その決まりですね」
「そうです。第一幕が終わった時点では」
「彼は、いえ私はまだ目覚めてはいません」
 パルジファルを己として語る王だった。
「ですからそれはまだです」
「おわかりでしたか」
「彼が目覚めてからです」
 王はこうコジマに話す。
「それからですね」
「そうなります」
「この作品は歌劇ですが歌劇ではありません」
 王は言った。
「そう、言うならば儀式ですね」
「そうした意味合いもあります」
「私は今私を観ています」
 またこう言う。そしてだった。
 コジマにだ。こうも話すのだった。
「私となる儀式を」
「陛下が陛下にですか」
「ワーグナーは最後に残してくれたのです」
 静かに幕を下ろした舞台を見つつ話す。その真紅の舞台を見ているのは今は王とコジマ達だけだ。やはり観客席は誰もいない。
 
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